表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

534/651

519話 瞳と髪とです

 婚約破棄!

 この封建的な世界で、なんてスキャンダラスな響きだろう。

 しかも国のトップである王族の話なのだから、庶民が沸き返ったのは想像にかたくない。


「完璧な令嬢を振って選んだ相手が、なんでもどこぞの貴族が養子に迎えた孤児だったそうで、学院で出会って恋に落ちたって話だったかな。身分が低くて妾にしか出来ないのを『真実の愛だー!』とか言って結局王位を捨てて所帯を持ったって聞いたよ。王子様は姿絵が売られるくらいの色男だったから、国中の女がそりゃあこの身分違いの恋物語に盛り上がったってな。俺の母ちゃんも『自分も貴族の養子になれてたら今頃王子様の~』なんて馬鹿みたいなこと言ってたもんだよ」

 はははっと懐かしそうに笑いながら教えてくれたそれは、実は私も聞いたことがある話だった。


 あれは、王子主催の茶会の招待状を貰った頃。

 兄がその茶会について説明してくれた中で、語ってくれていた話だった。

 王族が王都学院に入る年には貴族達がこぞって見目良い娘を養子にして接触させると。

 そうしてまんまと王子の心をつかんだものの、目当ての地位だか金が手に入らなくて相手に捨てられた王族というのがノルデン大公の兄の事だなんて、思ってもみなかった。

 あの頃は興味の欠片も無かったから聞き流していたのだもの。


 その前王兄は王位を捨てて何処へ行ったのだろう。

 駆け落ち同然だとしても、王の血筋が無駄にばらまかれるのは国として忌避するはずだ。

 爵位も受け取らずにその愛を貫いたのは素晴らしい事だけれど、相手に捨てられちゃあ何も言えないわね。

 そのまま王室に戻ったという話もきかないし、どうしたというのかしら。

 私が、彼の話を聞き及ぶ事がなかったのは当然だったのだ。

 現在の王太子殿下の婚約者に、昔の話とはいえ同じ立場の令嬢が婚約破棄があったなどと耳に入れる訳がない。


 それともうひとつ思い出した事がある。

 王室を表す金髪碧眼、金と青のロイヤルカラー。

 白くはなって色は抜けているがかつてノルデン大公もそうであり、現国王もフリードリヒ殿下も、そうであるが、王族の皆がその色を纏っている訳ではない。

 その色が出やすいというだけで、実のところ王妃の血が入るのだ。

 時には銀髪や、赤毛、瞳の色も千差万別だ。

 そのくだんの王子、前王兄は茶色の髪に緑の瞳であったという話くらいは聞き及んでいる。

 どちらも珍しいものでは無いけれど、ロイヤルカラーを持たない王族はちょっとした劣等感を持っていたとしてもおかしくない。

 そこを優しい顔をしてつけこまれたら、くらっとなびく事もあるだろう。


 夫人はアニカ・シュヴァルツを見て、前王兄を思い出したのだろうか。

 ロルフに聞いても、その時期に他に有名そうな浪漫話はなさそうだ。

 彼女に、その面影を見たというの?

 よくある瞳と髪の色。

 だけれど、兼ねてからアニカとシュヴァルツ男爵夫妻は似ていない親子だと思っていた。

 もし、アニカは前王兄の血筋で、男爵夫妻の養子になったとしたら?


 荒唐無稽な想像が浮かび上がる。

 そんなことがありうる?

 地位を捨てて出奔してしまった前王兄の忘れ形見を適当な貴族の養子にするのはわからないでもない。

 いや、それにしては男爵位は低い気もする。

 特にそんな噂があった訳ではないし、養子にしたのなら男爵夫妻もそれなりの扱いを受けそうなものだけれどまったくそういう感じはしない。


 でも、もしそうならば男爵夫妻に彼女が似ていないのも頷ける。

 そしてアニカが生まれ持った王族を凌ぐ魔力量、魔法の才能。

 それは前王兄の血筋であるとしたら、説明出来てしまうのだ。

 魔法に明るい訳でもない家系に突然、規格外な魔法師が現れたというおかしな事象に。



「あなた達とは世界が違うのよっていうのが口癖で」



 初めてのお茶会の時に、コリンナがアニカの事を教えてくれた時の言葉だ。

 前世の話を指していると思っていたけれど、もしかして自分の血筋が尊い事を知っていたとしたら?


 この憶測が正しかったとしたら、前王兄がそのまま王太子でいたのなら、アニカは本来なら王女様なのだ。

 よしんば家臣として公爵の地位を受けていたとしても公爵令嬢。

 私よりもハイデマリーよりも、高い地位の令嬢になるのである。


 本来ならば私達が、彼女に頭を垂れる側なのだ。

 あのアニカの傍若無人な態度も、何か飢えているような自分の待遇に満足していないような渇望を思わせる行動もすべてはそこから来ているとしたらしっくりとくる。

 思うままにならない現状に癇癪を起すのは彼女らしい。


 違和感を覚えたのは他にもあった気がする。



「悪い子じゃないんです。小さい時は引っ込み思案だったけど、今では賢者様と呼ばれてすごいし……」



 それを言ったのは誰だった?

 魔術儀礼の祝会での席。

 茶色い巻き毛の前髪の長いアニカの取り巻き。

 ひとりだけ彼女を呼び捨てにする事が許されたお気に入りのディック・ラインだ。


 とても嫌な、考えたくもない嫌な考えが浮かんできた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ