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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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508話 思い巡らすです

「おいおい、なんて顔色だよ。朝も上の空だったけど悪化してるじゃねえか。体調が悪いなら今日は帰って寝ていいぞ」

 ロルフが心配そうな声を上げた。


 結局私はあの後何かする訳でなく、時間だけが無為に過ぎて夕食の仕込みの手伝いに出ている。

 考える事が多すぎるのだ。

 山の呪いに夢の女、小屋の前の嫌がらせ。

 いや、この際嫌がらせなど些細な事だ。

 少なくともこの鉱山には新参鉱夫殺しと何故か人の骨だけを抜いて脱ぎ散らかした着ぐるみのような肉皮を捨てる2つの犯罪があって、それを知りながら咎めない人間もいるのだ。


 あのゴミ捨て場の事を教えてくれたのはスヴェンだけれど彼は知っているのだろうか?

 スヴェンは確か風向きでゴミが臭うと言っていたくらいで、実際に現場には足を運んだ事はなさそうな気がする。

 気が弱い青年であるし、実態を知っていたらあんな世間話のように語るだろうか?

 しかも確か彼はあそこを「ゴミ山」と表現していたと思う。

 実際にはゴミは穴に放り込まれていたし、積もり積もってはいたけれど山ではないわよね。

 だから無関係と決めつけるのは乱暴だけれど、そうやって頭の中で無害であるかどうかのレッテルを、この鉱山のひとりひとりに貼りつけるのを止める事が出来ないでいた。


 スヴェンは猟師のジーモンがあそこを使っていると言ってたし、細工師達の会話からも間違いない。

 実際に腐った魔獣の骨や内臓が捨てられている事がそれを裏付けていた。

 彼はあの肉皮について何も言わないのはグルだから?

 いや、グンター達とは仲は良くなさそうだから彼らの死体遺棄を知っていながら黙認しているだけなのかしら。

 口が聞けないから告発出来ない?

 そもそも山しか知らない育ちだと誰に訴えていいかも分からないのかもしれないし、ここを追われたら住む場所にも困るだろう。

 自分の生活を投げうってまで事を明らかにする気がないのはありそうだ。

 それとも既に告発済みだけれど握り潰されたとか……。

 アニーに木彫りをくれたり、シーツの脱水も手伝ってくれた彼が何か犯罪に関わっていると考えるのは少し抵抗があった。

 甘いかもしれないけれど、私はジーモンにはいい人でいてほしいのだ。


 他の鉱夫は雇われであるし、離れたあの場所自体も知らなそうだ。

 娼館の女達は小川沿いになる木の実さえ知らなかったし、こちらまで足を伸ばしてはいなそうだ。

 もし知っている人がいれば、それは相当物好きか散策好きな人間だろう。


 最後に私は目の前にいる料理人をジッと見つめた。

 ロルフはどうだろう?

 鍛治小屋に肉を取りに行ったりジーモンと交流があるのは分かっている。


「今日は日中、何だかすえたような臭いがしていて、それで気が休まらなかったのが顔色に出てしまったかしら?」

 私はそれとなくゴミ捨て場の存在を匂わせながらカマをかけてみた。

「ああ、ロッテ婆さんの小屋まで臭いが届くのか。あっちは静かなのはいいんだが臭うのは辛いな。ジーモンとこで獣の処理をしてるから勘弁してやってくれな。あいつのお陰で肉にありつけれるんだからよ」

 ロルフは私を気の毒そうな顔で見た。


 この反応は……。

 ゴミ捨て場に死体がある事は知らないと考えていいだろうか。

 ジーモンを庇う為にか住むには静かなのと臭うのはどちらがいいか変に比べようと言葉を続けている。

 ロルフが言うには、食堂も酒臭いし酔っ払いが暴れることもあるので、たまに臭うくらいなら静かな方がいいだろうと力説してくれた。


 そんな彼がピタッと喋るのをやめて食堂の入口を凝視した。

 つられてそちらに目をやると、そこには少女が顔だけだして食堂内を覗き込んでいる。

「しゃう?」

 彼女は私と目が合うとうれしそうに笑った。

 一体なんで、こんなところにいるの?

「アニー! あなた寝てたんじゃなかったの?」

 まさか、こんな所までひとりで来るなんて!

 いや、もしかしたらグーちゃんが一緒なのかもしれない。

 アニーを止めきれずに付いてきて、今は人目を気にして隠れてるのかも。

 起きたら私がいないので探しにきた?

 きっとロルフの声につられて食堂を覗いたに違いない。

 今まで自分からベッドを降りようともしなかったのに、もしそうならかなりの進歩である。


「しゃうー!」

 見つけたとばかりに中へ入ってきて、私のエプロンに飛びついた。

「これが訳あり嬢ちゃんか」

 ロルフが外見より幼いアニーの振る舞いに同情するように呟いた。


 アニーはというとロルフの存在に気付いたのか、私のエプロンの中に隠れてそっと彼を覗きみている。

 ジーモンさんより怖くない顔付きと思うのだけれど、アニーにとっては喋らない猟師の方が静かで安心するのかもしれない。


 人見知りされているのに気付くと、ロルフは棚から保存缶(キャニスター)をひとつ手に取ってみせた。

 パカンっと音を立てて蓋を取り中に入っている白い丸いものが見えるようにアニーへと差し出した。

「ほら、西洋茴香飴(アニスキャンディ)だ」

 アニーは目の前に出された飴と私の顔を交互に見て、どうしようか悩んでいるようだ。

 こういう所で性格が垣間見られる。

食いしん坊な私なら何も思わずに手を出していたかもしれない。

 彼女は元々思慮深く遠慮しがちな大人しい子なのかもしれない。


閲覧ありがとうございます。

誤字報告、大変助かっております。

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