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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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507話 捨てたものです

「あーん、なんだこりゃ。食われてんのか?」

 空き地に、呆れたような物言いが響いた。

「喧嘩の末に殺しちまって、人気のない場所に捨てにきたのかね」

「こんな奥までねえ。新参者はこっちに道がある事もまだ知らねえだろうし、古参の誰かの仕業か」


 耳をすませて2人の会話を聞いていると、細工師がゴミを捨てにここに来たら死体を見つけてグンターに知らせに行った事がわかった。

 死体の有様が酷い事もあって、表向きには廃坑での事故にしたらしい。

 死体だけならともかく、それが食べられているなんて、それこそ鉱夫達は山の呪いだと言って逃げてしまうものね。


「肉がところどころ無いけど、ナイフで削いだようでもないな。こんな事を正気の人間がやるとも思えないね。ほら見てみろ、ここなんてどう考えても齧りとられてる。イカれた奴が隠れてんのか」

「ヒヒッ、あれだよ、鉱山妖精。前からちょいちょいここのゴミが無くなる事があっただろ。きっと生肉の美味さに目覚めたのさ」

 細工師が少しおどけるように言ってみせた。


「よせよ、肉食の獣が紛れ込んでるだけだろ。ここは何せ広いし隠れる場所も山とある。ジーモンに言って巡回でもさせるか」

「その獣が丁寧にゴミ穴に死体を運んだっていうのか? ヒヒヒッ」

「捨てられた後に齧られたに決まってんだろ」

 2人はああでもないこうでもないと犯人や動機などを話し合っているけれど、その口調には違和感があった。


「ジーモンがやったならわかるんだがね」

「あの口無しにそんな度胸があるもんかよ。人を殺せるなら真っ先に俺らを殺して逃げてるとこさ」

 物騒な話をしている。

 この2人は猟師に恨まれるような事をしていてその自覚があるようだ。

「ヒヒヒッ、違いない。伯爵には黙っとけよ。あの臆病者に怖気付いて手を引かれてもなんだしな。一匹つぶれたのは痛いが、事故で死ぬことだってあるしな。あー、こうなるなら丸ごと変えちまえば良かったなあ」

「警邏や兵士を呼ぶ訳にもいかないしな」

「殺した誰かは上手くやったもんだ。ここが死体を捨てる場所だと知ってたのか、ここに置いときゃ誤魔化せると思ったのかどうか」

「ヒヒッ、実際、俺らは誤魔化したしな。どこの誰か知らんが、そのうちそいつもこのゴミ穴に入ることになるんだからせいぜい首を洗って待ってろってとこか。それにしてもいい体なのにもったいない」


 2人ともあの死体を作った誰かはわかっていないようだ。

 先程から感じていた違和感に思い当たる。

 彼らは鉱夫が死んだ事に対して、さして悲しんでも深刻にもなっていないのだ。

 その死に方に不審がるものの、全く慄く様子もない。


 人ひとりが亡くなったというのに、その口ぶりはそう、飼っている鶏の1羽が逃げたかのような軽いものである。

 損失ではあるけれど、残念ではあるけれど、まあいいかという空気を感じるのだ。

 どちらかと言えばこの死に様を他の鉱夫が目にして、逃げ出すのでは無いかという懸念が前面に出ていた。

 犯人を捕まえる気も特になさそうであった。


 結局、鉱夫の死体の前でひとしきりお互いの考えを言い合うくらいで、彼らは立ち去って行った。

 2人がいなくなってからも、私はその場所から動けずにいた。


 あの2人が殺人犯でないのは確かなようだ。

 かといって犯人を探すような気概も感じられなかったし、全て終わった事だと片付けてしまった感がある。

 この鉱山にいる誰かが人を殺したのに、犯人探しをしない。

 そんな呑気な事があるだろうか。

 そして何より、あの2人は骨のない死体達については見えていないかのように話をしていた。

 彼らにとって、ここに死体があるのは当たり前の事で、わざわざ口にすることでもなかったのだ。


 骨の無い死体。

 それは鉱山で消えてしまった人達なのではないのか。

 いくら鉱山では死亡事故が多いと言っても、あんな異様な様になるはずがない。

 魔獣の肉や骨をここに捨てているのがジーモンなら、あの骨を抜いて人の部位を捨てたのは細工師なのではないか?


 彼はゴミを捨てに来て見つけたと言ったけれど、ここに捨てられているのは魔獣の廃棄物と骨の無い肉塊のみなのだから。

 新しい人間の肉皮を捨てにここへ来たから、鉱夫の死体を発見出来たのではないのか。

 事故死か殺人か分からないけど、ともかく彼は死体から骨を抜いてここに捨てているのだ。

 そしてその行為は鉱山支配人のグンター公認なのだ。

 ここは死体の捨て場であり、この鉱山は何らかの犯罪が行われているのだ。

 しかも領主の伯爵も公認の。

 こんな物騒な所でバカンスだなんて、黒い雄牛に抗議したい気分である。


 私は茂みで充分な時間をとり彼らが戻って来ない事を確認してから、忍び足で細工小屋の脇を通り帰路につくことになった。



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