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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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502話 区別です

 年寄りの屍食鬼達は少年の事をよく「生まれ変わり」と呼び掛けていた。

 文字通り人から屍食鬼として生まれ変わったのだからそれは間違いではなかったけれど、彼を区別するものであった。

 ここにいる屍食鬼達は生まれ持った先祖からの屍食鬼の魂を持っていたが、聖典による変異の屍食鬼とは別の物として捉えている証拠である。

 差別が身に染みていた彼らでさえも、迫害こそしなかったけれど、そうやって生まれの違う少年を自分とは別のモノとして捉えていたのは皮肉な事であった。


 比較的大きいといっても、山奥のこの村に外部の人間が訪れる事はあまりない。

 村で寝泊まりする外部の人間は、教会常駐の聖教師や治安の為の周辺を巡回する兵士か近隣の村人くらいである。

 他はせいぜい辺境を回る定期的な隊商か行商人、物好きな旅人が短期に宿泊するくらいであろうか。


 聖教師の不在は、王都の地母神教から不審がられるのでは無いかと当初は懸念されたが、元より厄介払いであった為、問題にはならなかった。

 王都の関係者にしてみれば、しつこい嘆願書が止まって清々したと言ってよい。


 出奔した母親が戻って来る事もなかったし、村人によって教会とその住居は綺麗に掃除されていたので、その主が血肉も枯れ果て骨だけになっているなどと誰も思いもしなかったのだ。

 村としても後任の聖教師を迎えるより、この不在が長引く事の方が都合が良かった為、その死は長らく隠蔽され頃合いのいい時に父子は森で遭難したと報告される事となった。


 屍食鬼の頑健な体を持ち静かに暮らすこの村人は、近隣の村人と交流するくらいで生活を維持出来ていた。

 その為大きく数を減らす事もなく、長きに渡って聖典を用いてまでわざわざ種を増やす必要はなかったこともあり、新しい小さな屍食鬼は歓迎すべきことであったが、彼らにとっての異端でもあった。

 知らないとはいえ自分から聖典に手を触れる人間が出る事など誰も想定してはいなかったのだから。


 彼らは大いに人としての時間を楽しみ過ごした後に、歳を経て徐々に屍食鬼の外見へと変貌していく生き物である。

 生まれながらに異形の一族であったとしても、人として村を作りその文化を享受した結果、加齢と共に訪れる醜形を恐れる気持ちも持ち合わせていた。

 数日のうちにその過程を経てしまったこの子供に憐憫の情や禁忌にも近い感情を持ってたとしても、なんらおかしくはなかった。

 この村においてその子供はイレギュラーでしかないものなのだから。


 そしてまた、子供が「屍食鬼の糧」を拒否したのも彼を異端とした。

 屍食鬼は普通の食事もとれるが、その存在を維持するのに他者の死肉を必要とする。

 それはたまの祭りの際に口にするハレの日の儀式めいた食事のようなもので、そう頻繁に必要なものではない。

 中には嗜好として、人の屍を常時食べたがる者も存在したが、それは極わずかな者であった。

 死人の肉を手に入れるのは容易ではないし、主食として人の肉を求めれば屍食鬼はあっという間に人類の敵として駆逐されるであろう。

 過去のそうした経験から屍食教としてそれは禁じられていた。

 屍食鬼達が人の社会の中で存続し、必要最低限の人の死肉で暮らし、危険を冒す事を戒める為に屍食教という宗教の形をとる事で種の存続を守るに至ったのである。


 たまに人の肉を食べればいい。

 だけれど、父親を口にした時の喜びが、子供の心を苛み大きな禁忌として立ちはだかる事になった。

 普段は与えられた食事や虫や小動物を食べ、どうしようもなくなると申し訳程度の干からびた人の皮や肉を貰いそれを齧っていた。

 そうして辛うじて少年は生き繋いできた。

 子供だから出来る芸当なのか、それとも彼自身の持つ強い意思のなせる技であったのかは誰にもわかることではなかったが、そうして彼は異端の屍食鬼としてゆっくりと時を掛けながら成長していくことになる。


 屍食鬼の村は大きくなったり小さくなったりと、他の村と同じく時世の流れにより規模を変えていったが、村人全員を賄える食糧が難しくなった時、まっさきに洞窟の屍食鬼達は場所を変える事になった。

 まだ人の形態をとれている若い屍食鬼達の為に、村は存続させるべきだと判断されたからだ。


 移動先はいろいろと検討されたが多くの賛成の上、選ばれたのは当時盛んであった鉱石の採掘場である。

 当時の鉱山は、今よりも管理も甘く崩落や発破による事故が多発して、毎日のように死体が作られていた。


 事故以外でも鉱毒による中毒死も横行し、不吉で呪われたのだと死体は墓に入れられる事もなく打ち捨てられていたのだ。

 死体が消えても気にならない場所、それがまさしく鉱山なのであった。

 屍食鬼にとって鉱山は文字通り宝の山であり、彼らにとっては食べ放題(ビュッフェ)会場であった。

 そうして彼らは各地の鉱山の洞窟に移り住むことになった。



閲覧、感想、いいねやお気に入り登録ありがとうございます!

いつもはげみにさせていただいております

今更ながら家族と私自身コロナに罹ってしまいゴタゴタしているので、少々更新が遅れる事になりそうです

申し訳ありませんがお待ち頂けますと幸いです

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― 新着の感想 ―
[良い点] グーちゃんの過去が…( •̥ ˍ •̥ ) これからの展開でグーちゃんに福は来るのか? [一言] コロナ感染は本当に厳しいですね。 ワタシも昨年家族より罹患し、けっこうな期間、倦怠感が抜…
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