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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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497話 ある少年です

 少年の父親は、地母神教の教会に勤める厳格な聖教師だった。

 代々、聖教師や祭司を輩出する家系であり、それに相応しい振る舞いを強要されていた。

 地母神教の要職というのは貴族階級と同じ様なもので、人々から敬意を持って迎えられるものである。

 母親はそんな家柄を当てにした下級貴族の出であり、贅沢はそこそこの質素で静かな家庭を築いていた。


 彼が物心ついた頃には、俗世の礼儀のなっていない低脳な子供達と遊ぶのは教育に良くないと、友人を取り上げられ代わりに勉学の本を与えられた。

 それについては母親も同意見であったらしく、彼らは自分らの子供を次代の聖職者に仕立て上げることしか興味がないようにみえた。

 少年自身の資質を見ようとはせず、定めた型にはめようとしていた。

 明るい陽の下で走り回る事が好きだった彼は、それでも両親を好いていたので褒められたい一心で勉強に励むことになる。


 父親は聖教師の中でも過激な人種主義(レイシズム)を掲げる一派に所属しており、それは一族でも特に尊敬される祖父の影響が色濃かった。

 祖父の代にはこの国には獣人が奴隷としてそこかしこに見られ、蔑まれていたという。

 そしてそれを正しい事であると声高に信者達に言って聞かせ、獣人達を虐げていたのだ。

 そんな奴隷制度の中、獣人差別を掲げて信者を扇動して地盤を固めたのが祖父であった。


 それは彼らの中では清く正しく、正当な主張であり、奴隷解放運動が国として支持されても尚、その自分が優れているという優越感をもたらす考えは彼らを捉えて離さなかった。

 人族は生まれながらに獣人よりも優秀で正しい生き物であるという主張は、人族の中の特に自身の弱さを自覚できない者にとって必要なものであった。

 惨めな彼らには、公的に定められた蔑む相手がいることがある種の救いであったのだから。


 何の根拠もなく、能力の優劣を比べることもなく差別主義者達は見下していい相手を作り出し、そうでない自分に安堵していた。

 国が獣人達の保護に乗り出しても、その主張を曲げる事なく幾度かの衝突を繰り返し、その結果自由を得た獣人達は差別のない土地を求め、居づらいこの国を去る事になる。


 残された彼らに身に付いた差別意識が獣人が消えたとて改善する事もなく、次に極端な王都主義へとそれはとって変わられた。

 獣人を蔑む事で薄っぺらい尊厳を保っていた人間には、その代替が必要であったのだ。

 次に用意されたのは、辺境よりも王都の人間の方が優れているというものだ。

 根拠など何もないそれは、大聖堂の威光に触れられる国の都心部を尊い土地であるとし、辺境を野蛮で卑賎なものだとした。

 元々、都会の人間は田舎者を流行遅れであると軽んじていた事もあり、その下地があった事で少なくない人間がその乱暴な思想に染まる事になる。

 これは早々に国境を守護する侯爵達の反感により廃れる事になるが、差別主義者達の中に田舎者を馬鹿にする風潮を色濃く遺すことになった。


 時がたつにつれ、傲慢とも言える教会の差別主義派は主流である人道派から袂を分かれる事になる。

 彼らは煙たがられ、教会内で各地で起こした問題行動を取り沙汰され糾弾される事もたびたび起きた。

 ある種の共同体(コミュニティ)をまとめて動かすには、そういった主義は道具として使えることもある。

 だが、人々を動員する必要もなく戦争もない平時においては、そんな偏った主義は厄介な病巣のようなものであった。


 自分達の主義が「正しい」と強烈に信じて仲間内で反響するようにその主張を掲げ盲目になった彼らは聞く耳なぞ持つことはない。

 その結果、その中でも苛烈なひとりであった父親は、王都から山奥の村への出向というある意味自業自得な、そして彼の持つ思想からして皮肉で最悪な処置がとられることになった。



 出向先は酷い山奥でありながらも、規模としては割合大きな村だった。

 街と比べれば見劣りはするけれど店も少なからず揃っていたし、なにより村人達は郷土愛が強く一度外へ出た若者もある程度の年齢になると村へと戻ってくることが当たり前になっている事が大きいようだった。

 ある者は配偶者や子供を連れ、ある者は仕事の弟子や同僚を連れ戻ってくるので辺鄙な村であるのに過疎っていくような事はないようであった。


 その強烈な郷土愛のせいか使われている言葉は訛りが強く、愛嬌があるものであったけれど父親はそれを毛嫌いし、家族には標準語を正しく話すように強要した。

 父親は村人を馬鹿にし、神の教えを慈悲として垂れてやるのだと口癖のように言っていた。

 母親も村人には馴染もうとせず、露骨に避けて過ごすのが常であり、使用人として雇った村の女性に買い物等すべて任せて刺繍や手仕事に没頭し家から出ようとしなかった。

 しかしながら体力が余っていた少年は、反対に自然が溢れる環境と素朴な人々に傾倒していった。


 両親は自分たちの事で手一杯のようであった。

 おかげで眩しい太陽に照らされた木々や自然の中で走り回る生活を、少年は手に入れる事が出来たのであった。




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