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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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490話 消えた鉱夫です

 昨日、グーちゃんのためのシーツを干していたのを思い出して、急いで回収することになった。

 一晩干してはいたが、手絞りではやはり脱水があまくまだまだ湿気っている。

 結局、小屋の焚き火の前に椅子を置いてそこにシーツを引っ掛けて乾かすことになった。

 火に近いと燃えそうだし、遠いと乾かなそうであるし、なかなかいい位置が難しい。

 ガタンゴトンと椅子を動かし丁度いい場所を探していると、アニーがグーちゃんにちょっかいをかけていた。

「ぐーちゃ、ぐー」

 寝ているのは理解しているようだけれど、遊び相手になってもらいたいのだろう。

 つんつんっと指先でつついている。

 だけれど、深く眠っているようで起きる気配はなかった。

「ほら、わんわんよ」

 もらった木彫りの犬をアニーに見せて興味を逸らしたけれど、今日は本当によく眠っている。

 地面の上でお腹を抱えるように丸まっている様は、まるで大きな獲物を胃袋に収めて動けなくなって、じっと消化を待つ蛇のようにも見えた。



「おい、昨夜俺の連れを見なかったか?」

 食堂で給仕をしているところに、声を掛けられた。

 私にそう聞いてきたのは、随分と体の大きい男だった。

 確か、新人鉱夫のひとりのはずだ。

 昨夜も新人同士で、何人かでまとまって食堂の一番奥を陣取っていたのを思い出す。

 まるでここは自分達の縄張りだというように。

 新人は強く見せたがるというけれど、あれもそのポーズのひとつかしら?

 それにしても、随分と不躾ね。

 ここでマナー講師をするつもりはないから大目に見るけれど、人に物を尋ねる時はちゃんと情報を添えてもらいたいものだわ。


「連れがどなたか存じかねますが、昨夜は鉱夫の方は食堂で見掛けたきりですわ。私がこちらを退出してからは、どなたにも会っていませんわ」

「あんた早上がりしただろ。そん時の事だよ」

 妙に食い下がるわね。

 大体鉱夫の知り合いなんて、まだテオくらいしかいないというのに。

「あの後は、住居で養い子と食事をして、娼館でお風呂をもらったくらいですわ。娼館のお嬢さん達には会いましたけれど、男性は見掛けませんでしたし」

 グーちゃんも男性といえば男性だけれど、この場合は除外するしかないだろう。

 答えが気に入らなかったのか、怪訝そうな目付きでこちらをじっと見ている。

「……。そうか」

 男は不満なのか納得のいかないという風に、ぷいっと顔を背けると席へ戻って行った。

 愛想も悪いし一体なにかしらと憤慨していると、料理人が答えをくれた。


「何でも新人鉱夫が、ひとり見当たらないらしい」

 ロルフの話では、昨夜からひとりの鉱夫が行方不明になったそうだ。

「それも鉱山の呪いというやつなのかしら?」

「いや、確かに人がいなくなるって話もあるが、鉱山に来てその晩にっていうのは、ちょっと初耳だな。物見遊山で廃墟の方へでも行って、崩れた建物の下敷きにでもなったか……」

 新しい呪いが発動とかでないだろうけど、ロルフが言うには、そもそも消えた人達は呪いを恐れて逃げ出したり水晶を盗んだり、高い給与を手に入れて町の娯楽が忘れられずに脱走したりという事だそうだ。

 初日に消える理由が無い。

 人が消えるなんて聞くだけだと神隠しだけれど、その実は本人の意志で雲隠れしているに過ぎないそうだ。

 鉱山という場所のせいで、失踪も単なる崩落や事故も、全部いっしょくたに呪いで済ませているようである。


 実際、鉱毒での被害はあったのだろうけど、独立した鉱山という場所がら治安部隊が調査に入って作業が遅れるより「呪い」としてしまえば人手も費用もかさまない。

 そうやって片付ける方が管理する側にとって、都合が良かったのではないだろうか。

「その消えたって奴は態度もデカくて、怖くて逃げ出す風じゃなかったしな。こんなこと初めてだからか、あのグンターが妙に焦ってて変な感じだよ。普段は鉱夫が何人いなくなっても補充すればいいって気にもしないっていうのに」

 確かに食事中のグンターさんを見ると、青い顔をして酒を煽るように飲んで不安を紛らわそうとしているように見えた。

 鉱夫が消えるのになれているなら初日に消えようが、いつ消えようが変わらないと思うのだけれど。

 鉱夫を消耗品として扱っていそうだし、何を気にしているのかしら。

 まさか、その新人鉱夫が消えるのは、予定ではなかったとか?

 宣言して予定通り姿を消す人なんて、それこそいる訳がない。


「ほら、これでも持っていってやんな」

 そう言って差し出したのは、私が作った今日のデザートの林檎のパイだ。

 生地は朝にロルフが練ったパイ生地の余りを貰って薄く延ばして、これまた薄くスライスした林檎を並べて干し葡萄を散らしてから縁を内側に折った林檎のガレットのような見た目のデザートだ。

 砂糖は使ってはいないけれど、火が通った林檎の優しい甘みのするさっぱりとしたパイである。

 風味付けにラム酒を少々振ったくらいだが、悪くない仕上がりになった。

 娼婦達への暴力を見逃すグンターに親切にする気はなかったけれど、ロルフの指示なのだから仕方ない。

 渋々、皿に一枚パイを盛りつけると、席まで持っていった。






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