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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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485話 対話です

  ひかりがみちて

  とてもきれいでしょ?


  ねえ あなたも ねえ



 眩い光の溢れる場所で誰かが語りかけてくる。

 だけれど眩し過ぎて目がくらんで、その相手が誰だかわからない。

 誘われて、連れていかれそう。

 これは夢かしら?

 そうね夢なのだわ。

 寝台に横になった記憶があるもの。



  ほら ねえ こちらにきて



 こちらってどこの事?

 何も見えないし、わからない。

 でも無性に湧き上がるのは、そこへ行きたいという気持ち。

 誘われて、ついていってしまいそう。

 憧憬にも似た感情と、未知の存在への恐怖心が綯い交ぜになって降り積もる。

 ああ、でも確かこの声には聞き覚えがある。

 あの嘆いていた女性の声ではないか?


「貴女、許してって何度も言ってた人ね?」

 勇気を出して質問を投げ掛けると、意外にも返事が帰ってきた。


  ええ ええ 

  たしかに わたしは ゆるしをこいねがっていた


  だけれど ゆるされることはなかったの

  だけれど もう いいのよ


  だって わたくしは こんなにきれい

  おかげで わたくしは こんなにきれい


 その綺麗もなにも眩しくて見えないのだけれど、何なのだろう。

 まさかこの光そのもののことを言っている訳でもないと思うのだけれど。

「貴女は何者なの?」


  わたくし?


  わたくしは いまは まばゆくひかる とうといもの

  だれよりも かがやく うつくしいもの


 やはり光の事を差しているのかしら?

 人のようなのに、人では無い変な感じ。

「今は? 昔は違ったの?」


  むかし

  むかしは とるにたらない 女だったわ

  わたくしは愚かだったの

  そうして罰せられ かがやくもののひとつになったの


「何の罪を犯したの?」



  つまらない おはなしよ

  つまらない むかしの おはなしよ



「貴女が何者か知りたいわ」


  ああ

  ああ

  だれも わたくしのことを

  きこうとしたひとは いませんわ


  わたくしは

  わたくしは

  わたくしは……



 何度かためらうように、独り言が繰り返された。

 そうしてから周りの光が急に落ちて薄暗くなったかと思うと、黒い霧が湧き出して、集まって人の影になっている。

 シルエットだけでは顔立ちはわからないけれど、髪を低い位置で結ってドレスを着ている事だけはかろうじてわかった。

 この何かは、人として会話をしようとしているのだ。

「貴女の事を教えて」


  どこから話せばよいのでしょうか。

  そう、私は、貧乏な貴族の家の娘でしたわ。

  嫁いだのも爵位が釣り合うだけの貧乏な家。

  私は清貧な暮らしに慣れていましたし、なんの不満もありませんでした。

  慎ましやかで目立たない、そう躾られてきましたもの。


「貞淑な方だったのね」



  ていしゅく?

  わたくしが ていしゅく

  ふふふ

  ふっふふふふふ

  あはははは



 掛ける言葉を間違えたのようだ。

 その女性は、狂おしいような声をあげて笑っている。


「話の腰を折ってごめんなさい」



  いいの

  いいのよ

  そのとおり


  そう、わたくしは貞淑な女だったわ。

  つまらない地味な私だったけれど、夫はそんな私を愛してくれた。

  いつも苦労をかけてすまないと謝って、庭の花を私の髪にさしてくれたの。



「いい旦那様でしたのね」



  ええ

  ええ

  とてもいいひと

  とてもとてもいいひと



  彼は価値のない領地を抱えて、いつも金策に走っていたわ。

  贅沢は出来なくとも、そういうものだと思っていたから私は何の不満もなかったの。

  平凡な夫婦生活。

  そうして私は老いていくのだと、信じて疑わなかったわ。

  ひとつ憂いがあるとしたら、私達夫婦には子供がいなかった事かしら。

  でも、そんな事はよくある話だし、どこからか養子を取ればすむ問題だったから特に悔いてもいないわ。

  まあ、こんな貧乏な貴族の跡取りに貰われる子供が気の毒であったかもしれないけれど。


 そこまで言うとそのシルエットは、顎を上げて外を伺うように押し黙った。

 そうしてから名残惜しそうに続ける。


  ああ、そろそろ朝が来てしまうわ。

  人と おはなしをしたのは ひさかたぶり

  わたくし たのしかったわ


  また いいひに おはなしを しましょう



 目を開けると同時に、朝の鐘の音が響いた。

 何だか眠った気がしないわ。

 気力を吸われたような気怠さがある。

 昨日といい変な夢。


 いえ、夢は夢だけれど、あの女性は本当にいるのではないかしら?

 存在感を感じたもの。

 何か尊いモノ?とかになってしまった人間?


 昔の日本とかで、橋を作ったり川の氾濫を抑えるのに女の人を生贄に人柱として埋めたとかいう話があるし、もしかして鉱山の神様?か何かに生贄にされた人とか?

 神様になるように祀りあげられた死者?

 それとも昔の鉱山事故で犠牲になった人の幽霊?

 寝起きの自分の突飛な考えに少し笑いながら部屋の隅に目をやると、キュッと丸まって眠るグーちゃんがいた。


 今日はまだ眠っているのね。

 寝る前に変なグーちゃんの呟きが聞こえた気がしたけれど、何だったのかしら。

 それより、外の掃除をグーちゃんに任したのよね。

 私は着替えると、小屋の外へ出た。

 薄明りの朝日の中、目を凝らすと嫌がらせに昨夜撒かれたと思われる血は綺麗に水で流されているようだ。

 幾つか濡れた地面に足跡がついている。


 井戸の方へと回ると、桶もきちんと片付けてあって、きちんとグーちゃんが掃除をしてくれた事がわかった。

 ただ、見慣れない何か重いものを引き摺ったような跡が鍛治小屋への道についている。

 昨日の昼間にはなかったものだ。

 誰かが小屋の裏からあちらへ重い何かを持って行ったように見えるけれど、それに該当しそうな物はない。

 跡を辿るにしろ、あまり整備もされていない小道は下草が生えているので追えるものでもないだろう。


 ここは変な事がいっぱいね。

 不審に思いつつもおかしな事が多くて、そういうものかで済ましてしまいそう。

 とにかく朝の仕事にかかりましょう。

 昨日摘んだ薬草もいくつか持っていこうか。

 林檎煮にも活躍したし、ハーブはいくらあってもいいものだものね。

 私は壁に下げていた薬草束をいくつか手に取ると、食堂へと向かった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 500話更新おめでとうございます! たくさんの更新ありがとうございます(*˘︶˘人) [気になる点] 前話でグーちゃんが…( •̥ ˍ •̥ ) そう、そんな残酷さが散りばめられてるお話…
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