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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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480話 仲介人です

 さて、とてもいい条件の職場であるが、それが誰にでも与えられるというものでは無い。

 採用されるまでに面接を受けなければならないのは当然であったし、募集主に取り次いで貰う為にまず仲介を通さなければいけなかった。

 募集が始まった当初は、下働きと思われる男が馬車で下町のあちこちの空き地に乗り付け喇叭(ラッパ)を鳴らして人を集めては説明をして面接日時を公布したものだが、それを繰り返すうちに先に鉱夫希望者を取り纏める仲介人を名乗る者達が現れた。


 募集側はその分手間が省けるのでそのまま彼等を受け入れたが、彼等は募集主から多少の手間賃を貰いながら鉱夫希望者にも安くない紹介料をとっていた。

 言わば報酬の二重取りであるのだが、厳密な法整備がされていない社会では、このように利を貪る輩が突然湧いて出てくるのは常のことである。

 当然、仲介人に報酬を払えない者は募集主に目通りする手段はないので、本来確保できる人数よりも絞られてしまう。

 そうして他よりも報酬が良いというのに、人が集まらないのでより高待遇が上乗せされることになった。

 それを何度か繰り返すうちに、オイゲンゾルガー伯爵領の鉱夫は破格の待遇となったのだ。


 それでも人が十分に集まらなくなると、今度は募集主の方から仲介人に期間内に必要人数を集める事が出来たら別途報酬を出すと提案が出されることになった。

 そうなれば仲介人達の独壇場で、存分に甘い汁を吸うことの出来る土壌の完成だ。

 この元手の要らない商売を成立させた仲介人達の手腕は見事であるが、それはひとえにオイゲンゾルガー伯爵の商才の無さを物語っていた。

 昔は鉱山一辺倒で鉱脈の枯渇と共に零落し、今は新水晶で儲けていても蜜を盗む蜂や蟻にたかられている状態である。

 蜂蜜を確保するには瓶に詰めて蓋をしなければいけないのに、まるでそれすら億劫なようだ。


 男とその仲間は仲介人を見つけると、その拳を見せて紹介料を値切る事に成功した。

 仲介人は護衛として力自慢の下働きを連れてはいたが、多勢に無勢というものである。

 どちらにせよ募集主から報酬が貰えるのだから痛い目をみるだけ損とでも言うように、仲介人はあっさりと引いてくれた。

 幸いにも募集の条件は頑健な体である事しか言及されておらず、彼らは無事面接に漕ぎ着けることになった。

 どれだけ乞うてみても、貧弱な体の者達には門戸は開かれていないしそこには慈愛も平等も無いのだ。

 そうして藁を掴む者もあれば、また地べたに近い場所に戻る者もある。


 男達はこれ幸いと募集主に面通り、その体の大きさを十分に褒められ仕事を獲得する事が出来た。

 仲間内同士で冗談交じりに褒め合う事はあれど部外者、それも人を雇用しようという立場の人間に評価されるというのは、長らく燻っていた彼らの自尊心を大いにくすぐったものだ。

 仲介人に頼み込み駄目元で足を運んだ線の細い男は目の前で門前払いをくらい、それも男達の気分を良くしてくれる手伝いをした。


 自分達は選ばれたのだという選民意識。

 それはあまつさえ、募集主に対してまで自分たちの企みにも気付かない盆暗だと笑うほどに彼等を盲目にしていた。


 さて、何日か馬車に揺られて鉱山へとたどり着く。

 道中、馬車の揺れは大きく快適ではなかったが、食事も十分に出されたし扱いは悪くなかった。

 鉱山での盗みと脱走の計画を移動中に仲間内で詰めておきたかったが、狭い馬車の中では話は筒抜けになるので早々に諦めることになる。

 車輪の音に負けじと声を張り上げなければならない馬車の荷台で密談などは出来るものではなかった。

 まあ見た事もない鉱山での計画を前もって立てるなど、捕らぬ狸の皮算用というものである。


 馬車の休憩中には、必ず同じ話が繰り返された。

 オイゲンゾルガーの鉱山にまつわる呪いの話を、同期の鉱夫達は黙っておけないようであった。

 恐怖は口を軽くする。

 何度も不安がりお互いを励ます茶番には辟易したが、鉱山の呪いなんてものはどこにでも聞くようなものだ。

 なんなら鉱山でなくとも「悪さをすると鉱山妖精にさらわれて暗い洞窟に閉じ込められる」などと子供の躾に使われる事だってあるのだ。

 それは図らずもシャルロッテ・エーベルハルトの境遇をそのまま表すような言葉であるが、多くの人々には子供騙しの一句みたいなものである。

 そんなに鉱山を恐れるなら何故志願したのかとも思うが、それだけこの鉱山の待遇と報酬が良いという証拠ともいえるだろう。


 オイゲンゾルガー伯爵領鉱山。

 鉱山の佇まいは古く要塞のようであった。

 その石垣はところどころ壊れかけて穴は開いてはいても、高く積まれ木と石で組まれた壁は外からの脅威に備えたものに見えたし、堅牢な牢獄を思わせる風情でもあった。

 中へ入れば廃墟の群れ。

 それは街をひとつここへ持ってきたようなものであったし、そのどれもが無人であるという事実に大いに驚くことになった。

 男達にとっては生まれた村と王都以外目にした事はないのだから、それは異様なものに映っても仕方がない。

 ここにきて無頼の輩である男達も、ようやっと鉱山の呪いというものの一端を肌で知る事になった。

 死んだような街の静寂がまとわりついてくるようである。


 ああ、成程。

 呪いというのはこういう風に体に染みてこびりつくようなものなのだと彼らは独り言ちた。




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