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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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464話 朝のお仕事です

「鉱山の娼婦は過酷だって評判だろ?」

「そうなんですか?」

 場所は関係なく大変な仕事だとは思うけど、特に辛いという事かしら?

 貴族の生活の中では、上流階級の男達を相手にする高い教養や作法を身に付けた高級娼婦の話は漏れ聞く事はあっても下町の娼婦、ましてや鉱山等の労働者に与えられる娼婦の話など口の端にのぼることはないのだ。

「他の山じゃあ人手不足で刑期を短くするのを条件に、女囚を使う事もあるそうだからな。まあ、ここは伯爵様の計らいで酒がタダで飲めるお陰でそこまであいつらが身を削る事もないが、それでも辛いもんさ。普通の鉱山じゃ女を抱くしか楽しみがないから、そりゃあ無茶もあるしな。とにかく相手にする人数が多くて体が持たないから訳アリじゃなきゃ避ける仕事だ」

 ロルフはため息をついてそう言った。


 酒場と彼女達は切っても切れない中だから、仲間意識があるのだろうか。

 彼は随分、娼婦に同情的であった。

 街中ならいざ知らず、ここでは何人客をとっても取らなくても伯爵が固定給を弾んでくれているので稼ぎは変わらないそうだ。

 だからと言って鉱夫から不満が出ては、クビにされる事もあるので女達も手を抜けないという。

 毎晩、ロルフが夜中まで店を開けるのも、娼館の女性達の負担を軽くしている為でもあるように思えた。

 酔いつぶれてしまえば、女を抱くどころじゃないものね。

「鉱山の娼婦は、みんな覚悟して来るもんさ。あんたにゃ関係ないかもしれないが、優しくしてやんな」

 これまでいろんな娼婦を見てきただろう彼の目は、諦めたようなそれでいて温かな眼差しをしていた。


 そうこうするうちにすっかりパイは焼けて、朝の仕事も終わりだ。

 ここでの食事は基本的に2回で、朝昼兼用ということらしい。

 娼婦達やロルフは朝と夕に、鉱夫達は昼と夕に食事するのが習慣だそうだ。

 パイは多めに焼いて、余れば夜に回すという。

 テーブルの上には幾つかの籠が並べられた。

 坑道へ運ぶ鉱夫達の昼用や、それぞれここで暮らす人達のものだ。

 こうしておけば、各自好きな時に取りに来て食事出来るのだ。

 ロルフが昼間睡眠をとる為の苦肉の策なのだろう。

 勿論、私とアニーの分の籠もあった。

 パイはアニーには大きすぎるのでグーちゃんと分ければちょうどいいだろう。

 食堂は特に厳しく施錠されているどころか、常時解放している状態で、高い酒が並ぶ棚にのみ錠が掛けられているくらいだ。

 グーちゃんが忍びこんでパイを持って来れたのも、この環境が大きいのだろう。

 誰かのなけなしの糧を奪った訳ではなくて、本当に良かったと胸をなでおろした。


 薄暗かった食堂の外に陽が昇る頃には、ロルフも欠伸を連発し始めた。

「後は片付けだけのようですし、どうぞ先に休んで下さいな」

 私がそう声を掛けると、少し眉を上げて考えてから素直に受け入れてくれた。

 入ったばかりの新人ひとりに仕事場を任せるのは心配だろうが、それよりも睡魔が勝ったようだ。

 説明されたように、釜戸の種火が消えないようにまだ熱い灰に埋める。

 昨日、釜戸の火が落ちていたのは、眠くてこの手間を雑にしてしまったからだと言う。

 それだけ疲れていたのだろう。

 種火を埋める事で、次の料理の時はわざわざ火を作らないですむそうだ。

 生活の知恵ってやつね。


 言われた仕事をこなして、後はまた職人小屋へパイを運んで昨夜の食器を回収すれば後の時間は夕方まで自由にしていいと言う。

 日中は丸々好きに使えるのは思ってもみなかった事だ。

 これで給金も貰えるなんて、待遇がいいと言うしかない。


 昨夜のように籠を3つ下げて道を歩む。

 夜と違って日差しの中で見る鍛冶場への道は、大層ごちゃついて見えた。

 歩道は整備されているとはいえ、低木が気ままに生えて下草がわんさか生えている。

 まるで手入れはされていないが、小川の縁にはいろいろな薬草も生えていた。

 この鉱山に人が多かった頃には、敷地内に畑もあっただろうしそこから種が飛んで水辺で繁殖したのかもしれない。

 薬草はどれだけあっても邪魔にならないし、後でアニーと散歩がてら詰みに来たら楽しそうだ。

 それに人も寄り付かなそうだからグーちゃんも連れて小川を眺めながらピクニックに興じてもいいかもしれない。


 鍛冶小屋も昨夜は夜闇に紛れて気付かなかったけれど、いろんな道具や不要品が思った以上に野ざらしになっていた。

 縄やずた袋などが雑多に置かれて、前世のゴミ屋敷までは言わないけれど片付いていないリサイクルショップを思わせる風情だ。

 廃墟から要らないものを運んで、いつか直そうと置いているのかもしれない。

 鍛冶屋に猟師に医師の真似事もしているなら時間はいくらあっても足りなそうだ。

 そう思うとこの光景も仕方ないような気がしてくる。


 戸口の前には空の食器が入った籠が置かれていた。

 朝は声を掛けないでいいとロルフにいわれているので、そっと昨夜の籠を回収して新しい籠を置いておく。

 鍛冶屋のジーモンは早朝は猟に出て不在であるし、細工師の男は寝ている時間なのだという。

 この2人は何だか鉱夫達から隔離されているというか、人と交流が無い生活をしているようだ。

 なんというかこの鉱山は人の少なさと相まって、閉鎖的な印象が強い。

 たまにしかここに顔を出さない伯爵といい、人嫌いなのかしら?

 ここにはそんな彼の主義が反映されているのかもしれない。




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