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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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458話 知恵です

「ひゃあ!」

 気を抜いていたからか、素っ頓狂な声を上げてしまった。

 私が驚いて振り向くとそこに居たのはボロ布を纏った傴僂の男、そうグーちゃんがいたのだ。

 彼は特に悪びれた様子もなく、そこに立っていた。


「ぐーちゃ!」

 驚いて腰を抜かしそうな私を気にもせず、アニーは体いっぱいで喜びを表現してグーちゃんに飛びつく。

 別れてからかなり早い再会なのだが、アニーには長く感じられたのであろう。

 別れる時も今生の別れのように泣き叫んでいたし、彼女の中には過去も未来も無く、この一瞬一瞬しか存在していないのかもしれないと思わせた。

 実際、幼児退行してしまったアニーは過去を嘆く事も、未来を憂う事もない。

 悲しい事のはずなのに、いろいろなことに囚われた人よりもとても自由に見えるのは皮肉な事である。


 グーちゃんも慣れたもので、飛びついた少女に戸惑う事無くワシワシと頭を撫でている。

 別れ際、やけにあっさりしていたと思っていたけれど彼は最初からすぐまた会う気でいたのかしら。

「それ、すてるでしか?」

 挨拶も無しにアニーをぶら下げたグーちゃんは、私の持っている壺を指さしてそう聞いてきた。

 井戸のそばで1度壺の中身を捨てようとしたのを見ていたのかもしれない。

「ちょっと、私達には臭いがきつくて……」

 後ろめたくてつい、言い訳が口をつく。

 ええ、食べ物を捨てるなんて、罰当たりな行為だと十分自覚している。

 でも、どうしても受け入れられないものもあるのだ。

 グーちゃんはおもむろに私の手から壺を取ると、そのまま蓋を開けて口にシチューを流し込んだ。

 それはあっという間の出来事で止めようもなかった。


「うまいんだし。しゃう、へんだし」

 げふうと目を細めてゲップをすると、満足そうにそう言った。

 グーちゃんの口には合っていたようだ。

 鉱夫の人達も、文句なく食べていたものね。

 私が受け付けなかったのは、貴族の暮らしで味覚が贅沢になっているからだ。

 だとしたらアニーも過去、食べ物はちゃんとした物を与えられていたのかしら?

 でもやせ細っているし、子供の繊細な味覚に野性味が合わなかった可能性もある。

 ともあれ、彼女にはもう少し肉を付けさせた方がいいし、肉の臭みをどうにかするよう考えた方がいいわね。

 確か前世では、ホルモンや豚軟骨の料理の時には何度か茹でこぼした覚えがある。

 今日の料理は切り開いて良く洗ってはいたものの、下茹ではしていなかったわ。

 何度か茹でればましになるのではないだろうか?

 次の機会があれば、先に下ごしらえをさせてもらおう。


 ともかくグーちゃんがこのシチューを片付けてくれたのは幸運だ。

 せっかくの料理だもの、おいしく食べてもらいたいものね。

「シチューの始末を悩んでいたので、助かりましたわ」

 私はさぞかし呆気にとられて、間抜けな顔をしていただろう。

 それくらいグーちゃんとその行動に驚いていた。



 いつまでも夜の屋外で話し込むのは誰に見られるかもわからないし、小屋へとグーちゃんを誘った。

 人が少ないといっても無人ではないのだ。

 鉱山にはいない傴僂の男と親しくしているのが誰かの目に留まれば、怪しまれて追い出されてしまうかもしれない。

 せっかくありついた住居なのだから、もう暫くはここで穏便に過ごしたいものだ。


 部屋に入るとグーちゃんの臭いが少し気になったが、野性味の強い食べ物を口に入れる事を考えると大した事では無い。

 それにこの辺は風の向きではゴミ山からの臭気も漂うので、それに紛れて目立たなくなっている気もした。

 まあ、いい臭いではないし気になるなら匂いの強いハーブを摘んで部屋に飾れば問題あるまい。

 こんな荒れ果てた鉱山なのだから、探せば薬草のいくつかはあるはずだ。


 民家でハーブの束を飾るのは、可愛いからだと思っていたけれど、案外気軽に風呂を使えなかったり不潔な環境を少しでも誤魔化すためのものなのかもしれない。

 薬効もあるのでいざという時は煎じたりも出来るし、生活の知恵というものね。


「てっきり、洞窟へ帰ったのだと思いましたわ」

「ここ、グーちゃん、ごはんある。とりにきたでし。ふたり、いたでしよ」

 そういえば、ぐーうに食べ物を用意してくれていると言ってたわね。 会いに来るとは言っていたけどこうも早いとは思わなかった。

 まさか鍛治小屋に置いてきた籠に手を付けているわけでは無いだろうけれど、少し心配になる。

 どこにご飯があるかと聞けば、山肌の方を指差した。

 届けた籠は大丈夫そうだけれど、一体誰がご飯をあげているのだろう。


 当人は食べているのがグーちゃんとは思わずに、犬猫がいるとでも思っているのかもしれない。

 軽い気持ちで残飯をおいているのかしら?

「そういえば、ここの水が呪われていると聞いたのですが、洞窟の水は大丈夫なのかしら?」

私の言葉にピンとこないのか、グーちゃんは首を傾げている。

「のろい、だしか? あな、ほる、みず、きたない。どうくつ、みず、ピカピカだしよ」

 洞窟の水は湧きたての綺麗な水ということらしい。


 グーちゃんの言葉で、ひとつ思い当たった事がある。

 鉱山の採掘や鉱物の加工で水が汚れて起きる公害の存在だ。

 日本でも足尾鉱毒事件等、有名なものや鉱山の水質汚染で生物が住めなくなった溜池の話などもあったような気がする。

 ロルフが言っていた頭痛や皮膚疾患、骨の変形も、公害病の症状に当てはまるのではないか?

 人が自然を開発して踏み荒らした結果、齎されるものならば、それは確かに山の呪いと言ってもいいだろう。

 科学的に解決はしないでも、そういう形で忌避するものだと区別するのも人の知恵のひとつであろう。




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― 新着の感想 ―
[一言] 追記 ワタシは逆に肉や魚の匂いが苦手で、紫蘇や大葉、パクチーやセロリなど香草系は大好物です(^ν^)
[良い点] 良かった! またグーちゃんと出会えてほっこり(*´ω`*)♪ グーちゃんに定期的に洞窟の水を持って来て貰えれば、飲み物に関しては問題クリアかも〜♡ 食べ物も、食べられない食堂の料理より、グ…
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