表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

470/654

455話 配達です

 籠を3つに、灯りの蝋燭を立てた持ち運び用の手燭を持つと手一杯である。

 先に届け物を済ませてしまおう。

 私に宛てがわれた小屋の裏には井戸があり、もっと奥へ足を進めると小川が流れていて鍛冶場と細工小屋がその川沿いに作られていた。

 鉱山の仕事にも生活にも水は必要だものね。

 だけれど、わざわざ敷地内に川があるなんて思わなかった。

 井戸も幾つか見かけたし、水場の多さもこの鉱山が人で賑わっていた事を示していた。


 こちら側は小屋以外、今は使われていないのだろう。

 あちこち荒れ果てて人気も全く無く、小川の両岸には草や木が生え、夜闇も相まって野趣溢れる雰囲気だ。

 鍛冶小屋の外には幾つか大きなタライに水が張られて、魔獣の皮らしきものが浸してある。

 鍛冶場のジーモンは猟師も兼業していると言っていたし、皮なめしも仕事のひとつなのだろうか?

 あれもこれも手掛けて、随分と多才だ。

 こんな山の中だし、重宝されているのだろう。

 作業に水を沢山使うから、こんな外れに作業小屋が建てられたのかと思ったがそうではなさそうだ。

 獲物の解体をするせいか生臭さも強く、何かの溶剤のツンとした臭いも混じっていて、これでは近隣から苦情が出そうだ。

 民家と離さなければ色々と問題が起こるだろう。

 スヴェンもこちらにはゴミ捨て場があるから臭うと言っていたけれど、その臭いの大半は生活ゴミよりも解体で出たもののせいのように思われた。

 ジーモンは鉱山の生活に必要な仕事をしているのに、それにより人を避けなければならないのは皮肉なものである。


 小屋の中からは、金属を叩く軽快な音が聞こえていた。

 キンッキンッと、澄んだ音が耳に心地いい。

 小屋の壁には、軒先にツルハシやスコップがまとめて置かれていて修理を待っているようだ。

 鍛冶場の扉をどんどんと叩いて、声をかける。

「こんばんは! 夕食を持ってきました。ここに置いておきますね」

 私の声に反応してか、一瞬鍛治の手を止めたようで音が止んだが、それは直ぐに再開した。

 返事は無いけれど、それが了承の合図のようなものなのだろう。

 うんともすんとも言わないのね。

 仕事中なのは分かるけれど、無愛想なのね。


 次は細工小屋だ。

 細工職人の事は、ほとんど説明されなかったけれど、1番奥まった所にあるのは朧水晶という貴重品を扱うからなのだろう。

 建物は鍛冶小屋よりも立派で、扉もしっかりした作りだ。

 山賊や逃亡ついでに押し入ろうとする鉱夫から宝石を守る為だろうか。

 宝石細工なら街でも出来ると思うのだけれど、わざわざ不便な鉱山で加工するなんて、門外不出の技術でもあったりするのかしら。

 それとも人嫌いとか?


 窓の木戸の隙間から明かりが漏れているので、静かだけれど人がいるのだろう。

 先程と同じように声を掛け扉を叩くと、溌剌とは言い難い気怠げな声が返ってきた。

 元気がなさそうね。

 しばらくすると扉が細く開けられた。

 その隙間から、こちらを伺うように落窪んだ瞳がギョロリと光った。

 見たところ4、50代の痩せぎすな男だ。

 宝石細工の職人というから、美意識の高い繊細な男かと思ったけれど全く想像と違う。

「……、見ない顔だ」

 細工職人は、怪訝そうに呟く。

「今日から食堂の手伝いをするロッテ・シャルルヴィルですわ、お見知りおきを。ロルフさんに言われて夕食を届けに参りましたの」

 それを聞いて、考え込むように眉を寄せた。


「ああ……。子連れの貴族が来るとかいうのは、あんたの話か」

 余り人と交流しなさそうなのに、私が来る話は知っていたのね。

「……、子はいくつくらいなんだ?」

 その質問に私はちょっと驚いた。

 所帯持ちにも見えぬ男の口からそんな話が出るとは予想外でもあったし、何より彼女の年齢を気にした事がなかったのだ。

 アニーは一体何歳なのだろう?

 歳の割に小柄な元の子供の私と大差無く見えるけれど、発育が悪いせいかもしれないし、あの言動もあってとても幼く見える。

 でも7、8歳というには、大きい気がするし……。

 答えあぐねていると、警戒されたとでも思ったのか男はニタリと笑った。

「ヒヒッ、俺は子供に興味がある訳じゃない。単なる世間話さ」

 その笑みは不気味だったが、彼なりにこちらの気持ちをほぐそうとしたものなのかもしれない。

「いえ、あの変な誤解はしてませんわ。ちょっとあの子が何歳に見えるか考えていたもので……。10になるかならないくらいだと思いますわ。なにぶん小柄な子で」

 なんだか私の方が曖昧で怪しい返事をしてしまう。

 連れている子供の年齢を知らない保護者ってあんまりいないわよね。

「そうかそうか、小さいんだな」

「ええ、言動も幼いもので」

「そりゃ大変だな」

 そんな会話をして夕食の籠を手渡す。

 その手はゴツゴツとしていて、器用そうには見えなかった。

「もし……、子供が手に余るようなら、こっちで面倒をみてやるから連れてきな、ヒヒヒッ」

 意外な言葉にハッとして顔を上げると、ニヤついた笑みで扉を閉められた。


 なんだかゾッとした。

 単なる悪趣味な言葉?

 そもそも、この場にいないアニーの事を聞きたがったのか思い返せば不自然だ。

 子供を欲しがっている?

 弟子にでも取る気なら、分からなくはないけれど顔も見た事がない子に対してそんな気になるかしら。

 まだ小間使いを探しているという方が現実的である。

 どちらにしろ、子供好きで面倒を見るタイプには思えない。

 見た目で判断するのは失礼だとは思うけれど……。

 あの言葉が悪戯か本心かわからないけれど、あまり関わらない方が良さそうね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ