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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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449話 詮索です

 それにしても、私が望んだ事って何かしら?

 私が老女にしてくれと黒い雄牛に頼んだの?

 私になんの問題があったというの。


 平凡な老婦になる事を選んだのはどういう事かしらね。

 暗い部屋の中、木板をずらした窓から入る日の光りを手掛かりに手鏡を覗いてみる。

 そこにあるのは白みがかった金髪に、張りを失った肌。

 目元には皺が刻まれて、どこにでもいそうな平凡な老いた女性の姿がそこにある。

 侯爵令嬢とは似ても似つかぬまるで正反対の姿。


 こうなりたいと願ったその時の私の理由は知りたいけれど、喪われた記憶が蘇るのは少し怖い気がした。

 だって私がシャルロッテ・エーベルハルトでなくなる選択をする程の出来事があったということよね。

 侯爵令嬢でいるのが嫌になった?

 確かに窮屈で責任のある立場であったけれど、それだけで姿を変えたくなるものかしら。

 私はそこまで弱い人間だった?

 もしかしたら私は自分で気付かないだけで、心の底では前の世の目立たずひっそりと生きていた頃に戻りたいとでも思っていたのだろうか。

 善良で人を害しないのを良しとして、それに満足していた前世の私。

 今世は王族の婚約者で地位も名誉も金もあり、生きているだけで嫉妬されてもおかしくない。

 明確に賢者派から目を付けられているし、アニカ・シュバルツやハンプトマン中将の様に直接嫌がらせをしてくる人間もいる。

 出る杭は打たれるというのは本当の話で、悪意をもって私を見る人は何も悪い事をしていなくても証拠もなくとも、「腹の底では黒い事を企んでいるはずだ」とその妄想を噂するのだ。

 私は、そんな虚しい行為に辟易してしまったのだろうか。

 今のこの平凡な外見とこの場所からみるに、侯爵令嬢ではない平凡な日常を味わいたいというのを願ったとすれば腑に落ちない事もない。


 アニーについては、まったく理解が出来ない。

 どう思い返してみても、私はアニーに会った事は無いのは確かだもの。

 あの幼児性は後天的なものだと知れたけれど、私のペットのせいとはどういう訳だろう。

 書かれている内容だと、間接的にクロちゃんかビーちゃん関わっているという事?

 精神的にショックを受けるというなら、ありうるのは2匹の正体を見てとかかしら。

 でも、私の知らないところで元の姿に戻っている感じはしないし……。

 モフモフ艶ピカの2匹なのだし、ショックを受けるほど可愛いというならわかるのだけれどそういう訳ではないのだろう。

 なんなら今の私からしたら元の姿でもかわいく思えるのよね。

 だってつぶらな瞳がいっぱいとか、ツルツルの羽とかそれはそれでいい感じじゃない?

 かっこかわいいというか、神秘的で悪くないと思うのだもの。


 ここでふと、もう一つの可能性が浮かんできた。

 ペットと表現するには憚られるけれど、あの神様からみたらアリッサは蜘蛛人間だし蜘蛛として私のペットに認識されていてもおかしくはない。

 自由な彼女だもの。

 悪戯混じりに通りがかりの人を蜘蛛の姿で驚かしたというのはありそうだ。

 そうすると、手綱を取っていない私の責任であるというのはわからないでもない。

 一度も蜘蛛の姿で人を脅かすななんて言い聞かせていないものね。

 でもそんな浅はかな事をしたりするのかしら?

 本当にもう、黒い雄牛ももう少しわかりやすく説明してくれたらいいのに。


 真偽はともあれ幼児退行する程の出来事とは、愉快な事でないのは理解出来る。

 元々置かれた環境も良くなさそうだったし、私の周りの何かが何らかの形で最後の追い打ちをかけてしまったのだろうか。

 常人には耐えがたい苦痛や状況に晒された結果、ああなってしまったのだ。

 それでも今の状態でも確かにこちらの言葉を理解出来ているようだし、知性があるのは間違いない。

 元は聡明な少女であってもおかしくない。

 確かに彼女の生育状況を見れば健全な環境にいたとは思えないし、最初は有り得ないほど私に怯えていたもの。

 人が怖いのだ。

 泣き叫ぶ程、人を警戒していたというのは、そうならざるを得ない経験をしているということだ。


 洞窟や山道で無邪気に笑う少女の過去を思い返すと、胸が痛くなった。

 結局は、私の記憶と彼女の正気が戻るのを待つしかないのだ。

 アニーの寝息を聞きながら、気の毒な彼女の頬を撫ぜていると鐘の音が鳴った。

 暫くすると遠慮がちに戸板が叩かれる。


「ロッテさん、調理場へ案内します」

 スヴェンが迎えに来たのだ。

 アニーをどうしようかと逡巡したけれど、このまま寝かせておく方がいいだろう。

 疲れが溜まっているだろうし、せっかくのベッドなのだからゆっくり休むのは悪くない。

 ぐっすりと眠っているし、新しい職場に最初から子供連れでは仕事を覚えるのもままならないかもしれない。

 私は音を立てないようにそっと立ち上がると、寝ているアニーの毛布を掛け直して心の中でいってきますと呟いた。




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