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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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446話 受け取り方です

 日本では五右衛門風呂とか直接湯を沸かすお風呂が昔からあったけれど、この国では別でお湯を別に沸かして湯船に運んで入れるのが主流なのよね。

 私が歴史に明るければ五右衛門風呂を再現出来たのだろうけど構造も何もわからないし、この国には直焚き風呂の歴史がないので風呂釜を火にかける事自体が理解して貰えなかった過去がある。

 幼い頃、なんとはなしに大きな鉄の風呂釜に火を焚き付けて温める事を提案した事がある。

 五右衛門風呂は、確か木の蓋だかすのこの様なものを底に沈めることで足を火傷しないようにしていたはずだ。

 毎回、桶でお湯を張る事を考えたら沸かす方が楽だもの。

 私の案を元に、賢い大人があれこれ付け加えてくれれば形になるのではないか。

 まだこの世界をよく理解していなかった幼い私は、単純にそう考えて口にしたのだ。

 だけどその案は検討するしないの問題よりも前に、純粋に人を鉄の鍋に入れて薪で火をつけるなんて拷問か何かかと怖がられてしまった。

 情報伝達も緩やかで世の移り変わりものんびりなこの世界で、新しい事というのはすんなりと受け取ってもらうことは難しいのだ。


 アニカ・シュヴァルツが発案したミニスカートやあれこれが、一部でしか流行らずに奇抜なものとして人々の目に映った事と同じだ。

 何か足掛かりなりがなければ、人は拒否反応を示すのである。

 だからこそ私が提案したものは黒鉛の筆記具を前提に鉛筆を、サロン文化と既に存在している最北国の卓上焜炉で足湯を、騎士風ドレスも下地に伝統的なローブがある。

 なので五右衛門風呂が奇異に映るのは仕方がない事だったのだ。

 快適な風呂を求めるなら、まずは入浴の文化の浸透からしなければいけなかった。

 こう思うと、日本って昔からすごくお風呂文化が進んでいたのね。

 本当にもっと勉強しておくのだったと思うけど普通に暮らしてたらお風呂についてそんなに詳しく調べないものだもの。

 こればかりは仕方ない。

 とにかくこの場所には風呂がある事を喜ぼう。



 スヴェンの説明では、鉱山ではお金を使う場所はないようだった。

 店もなく調理場のある食堂で飲み食い自由で、風呂も全て無料だそうだ。

 この時代には珍しい福利厚生というヤツだ。

 仕事に必要な工具は貸し出され、衣服なども古着が用意してあり至れり尽くせりではないか。

 賃金は使う場所がないので溜まる一方で、自由に下山はできないがそれを諦めればまとまった金を手に入れるには好都合な場所なのである。

 そこだけみれば破格の待遇であるし、人が去っていってもすぐに補充出来るというのはわかる。

 だけれどここまでしても人が居つかないというのは、鉱夫とは格別に辛い仕事なのだろう。


 聞けばここまで充実しているのはこの鉱山くらいらしいのだが、ほかの鉱山もある程度、鉱夫の待遇は良いらしい。

 王都の救貧院に成人男性が少ないのは、こういう職場があるせいなのだと私は納得した。

 寝床と最低限の食事しか与えられない救貧院と考えたら快適さは雲泥の差だ。

 成人男性で体が動かせるなら、短期間で金が作れる待遇の良い鉱山へ向かうだろう。

 他にも寝食を保証する職場は、醸造所や船乗りなどいくつもあるらしい。

 そんな事は本には書かれていなかったし、家庭教師も教えてくれはしなかった。

 私が知らないだけで色々な世界があるのだ。

 スヴェンから聞く新しい事柄に熱心に私は頷いた。


「この小屋を使って下さい」

 宛てがわれたのは、一番端のこじんまりとした小屋である。

 子供と2人で暮らすには問題無さそうな大きさの小屋だ。

「皆の住居より離れてますが、その分鉱夫達の騒ぐ声が届きにくいから安心して過ごせると思います」

「それは何よりですわ。気を遣って下さったのね。ありがとうございます」

 お礼を言われると思わなかったのか、頬を赤くしている。

「ここより奥は鍛冶場と細工小屋に、その奥にゴミ山があるくらいですかね。鍛冶師が猟師も兼ねてるんで、獲物の皮や骨が積まれてるから風向きに寄っては臭う日がありますが、そこは我慢してください」

 少し苦笑いの様な申し訳なさそうな顔でいう。


 多少の不便や臭いがなんだと言うのだろう。

 よく分からない状況の私が、屋根のある寝床にありついただけでも上等というものだ。

「その猟師の方が、この鉱山の肉類を賄っていらっしゃるのね」

「ええ、街から運べる肉は塩漬けばかりですし、それだと鉱夫達から文句も出ますからね。ある程度は新鮮な肉もないと」

 確かに山奥に肉を運ぶのは難しそうだ。

 燻製は味もいいけれど、その手間から値段も相応で自家製するしかないだろう。

 それにどちらかといえば燻製は野や山で作るものであるし、街で買って山に運ぶのは贅沢が過ぎるだろう。

「猟師と鍛冶師を兼ねているなんて働き者なのね」

 確か怪我人の面倒も見ているという話であったし、器用な人もいるものだ。

 小屋の前でそんな話をしていると、無精髭を生やした男が通りかかる。

「あ、ジーモンさん! こちら調理手伝いのロッテさんです」

 ジーモンと呼ばれた男は驚いたように目を見開いて私達を見ると、そのままそそくさと鍛冶場へと歩いて行ってしまった。

 その様子にスヴェンはバツが悪そうにした。

「行っちゃいましたね。無愛想だけど気はいい人なんですよ。口が聞けないせいか、いつもあんな感じで少し難しいところもありますが。でも鍛冶の仕事はしっかりしてるし、猟の腕前もいいんです」

 事務仕事が主な彼は猟師であり鍛冶師でもあるジーモンを尊敬でもしているのかそう誉めそやした。

 無口で仕事が出来る職人だなんて、確かに青年が憧れそうだわ。

 寝泊まりする小屋が近いのだから、仲良く出来るといいのだけど。

 アニーもいる事だし、頼りになる人であればと私は思った。




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