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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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436話 休憩です

「どうして? まだ歩けるわ」

 非難する私を余所に、グーちゃんは天井の光を指差した。

「そと、でる。くらいでし。しゃうとアニーよいない。あぶないでし」

 出口に着く頃には夜になると言いたいようだ。

 ここがどこだかわからないけれど、夜に歩き回るのは確かに危険だ。

 人がいたとしても治安が良いとは限らないし、もし山深かったら獣どころか魔獣だらけかもしれない。

 それでも外に出たい気持ちが逸る。

「ふたり、くたびれてるでし」

 譲れないというように、グーちゃんが言い切る。


 アニーも今は光のある新しい環境とグーちゃんの存在に興奮して元気だが、ここまで来るのに無理をしている。

 私も高揚はしているけれど、改めて自分を振り返ると暗闇続きの中緊張していたし、確かに疲れているといっていい。

 ここで無理を押して外へ出ても、疲労で動けなくなるのは間違いない。

 そんな時に魔獣にでも出くわしたらと思うと、グーちゃんの意見はもっともなものだった。

 ここはグーちゃんの住処であるし、襲ってくる動物もいないのは幾晩も過ごしてわかっている。

 暗闇で出口がわからない事を除けば、安全地帯といってもよい。

「ちゃんとやすむ、だいじ。そと、にげないでし」

 念を押すように言われると、それ以上我儘は言えなかった。



 グーちゃんに促されるまま、水辺から少し離れた場所へと移動する。

 また暗闇に入るのはうんざりしていたし、目に映る鮮やかな色彩から離れるのは後ろ髪を引いた。

 それはアニーも同じで水辺でもっと遊びたがったのだが、グーちゃん曰く「カラカラな場所」で休む方が体にいいとの事だ。

 確かに水辺は辺り一面結露で湿っていたし、気温が他よりも低かった。

 あのままでは体が冷えて、風邪を引いていたかもしれない。

 グーちゃんは私に炎の花を出させて当座の灯りにさせると、体を休めて待つように言ってから何処かへと消えてしまった。


 水辺を離れて休憩場所を整えると、アニーは直ぐに寝入ってしまった。

 グーちゃんが言った様に疲れていたのだ。

 体の冷えも影響したのだろう。

 私はそんな事にも気が付かず先を急ごうとしていたなんて、保護者失格である。

 アニーは、前日よりもかなりのペースで歩いてくれていたのだ。

 外に出る事ばかり考えていた自分が恥ずかしい。


 グーちゃんを待つ間、手持ち無沙汰なので何かしようかしら。

 休憩場所は水辺からそこほど離れていない。

 私は荷物の中からタオルを2枚取り出して濡らして固く絞った。

 アニーの顔を拭うけれど、全く起きそうにない。

 首に体に手足も綺麗に拭き上げたが、ぐっすりと眠っている。

 やはりそのどれもが細くか弱く、不健康な体付きであった。

 今日は、相当頑張って歩いてくれたのね。

 筋力の無い体でさぞかし辛かっただろうに。

 水辺でグーちゃんと幼児のようにはしゃいでいたアニー。

 この子は今までそんな体験をした事がなかったかもしれない。

 これが彼女にとって、いい思い出となっていれば良いのだけれど。


 しばらく寝入るアニーを眺めてから、自分の体も同じ様に濡れタオルで清拭する。

 お風呂には入れなくても、それだけでこざっぱりした気持ちになるものだ。

 今が初秋で良かった。

 寒くも暑くもなく過ごしやすい気温のお陰で、こんな境遇でも体調が崩れない。

 もしかしたら繊細な人であったなら精神が参って寝込むかもしれないけど、私はあいにく図太い方なのよね。

 かと言って傍若無人まではいかないし、クヨクヨと後悔なんかしたりする。

 何十年生きても上手には生きられない性のようだ。


 水辺まで戻って使ったタオルを洗ってから、適当な岩場に広げて干す。

 それが終わると、もうやる事がなかった。

 アニーの寝息だけが耳に届く。

 グーちゃんは、どこまで行ったのかしら?

 一体、何処へいったというのだろう。

 なかなか戻って来ないので、もしかしたら暗闇の中で置き去りにされたのではないかと不安が頭をもたげてくる。

 でもあんなに人恋しそうにしていたし、性格も優しい人だ。

 置き去りにするなんて、そんな事する訳が無い。

 そんな風に何度も不安とそれを打ち消す言葉が、ぐるぐると頭の中で回った。


「もどったでしよ」

 何時間たっただろうか?

 突然、私の背後で小さな声がした。

 びっくりして声を上げてしまうところだったではないか。

「急に声をかけるなんて……」

 私の抗議を遮るように、彼はふるふると顔を振った。

 アニーが眠っているので、気を使ったようだ。

 見るとグーちゃんの手には見慣れないものがあった。

 大きな葉で包まれた何か。

「これ、しゃうとアニーのでし」

 受け取って広げてみると、そこには手の平大の半円形で端の部分が捻られたパンが2つあった。

 例えるなら大きな餃子のような形だ。


 パン?


 私は自分の目を疑った。

 おいしそうな小麦の匂いがするし、こんがりと焼き色がついているし、これはパンで間違いない。

 人の営みが形になった食べ物だ。

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