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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第六章 シャルロッテ嬢と廃坑の貴婦人

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427話 灯りの下です

 もし先に暗闇に潜む者がいるなら、後から来た私達を警戒するのは当然だろう。

 どこかから見ていて、寝入ったところを危険が無いかそばまで寄って確認したのかしら?

 何もする気はないようであったし、襲わなかったということは、好戦的でないと判断する材料になるのではないだろうか。

 闇夜を見通す赤い目の生き物なんて魔獣しかいなさそうだけれど……。


「うあーぁ」

 少女が激しい寝言を零した。

 ぴりぴりと私を包んでいた毒気が抜ける。

 夢見が悪いのか、うなされている様だ。

 私は優しく肩をトントンと落ち着くようにさすると、また定期的な寝息に戻る。

 こんな場所に置かれていること自体が悪夢なのだけど夢くらいは健やかであって欲しいものだ。


 いくら警戒しようが事態が変わるものでもない。

 そうね、こんな子供2人を殺す気ならとうの昔にやっていることだろう。

 食べたいなら、とっくにあの何者かのお腹の中に納められているはずだわ。

 大丈夫、向こうには敵意はないはず。

 そう確定してしまいましょう。

 もし違うなら、その時にまた考えればいいわ。

 投げやりかもしれないけれど、こんなわけのわからない状況で、これ以上面倒な事を考えたくなかったのだ。

 荷物を枕にしているけどそれに触られた気配もなかったし、あれは本当に私達の寝顔を覗きに来ただけなのだ。

 明日、第3の誰かの痕跡も探そう。

 誰かがいるのは間違いないのだし、寝顔を見に来たということはこちらに興味があるということだ。

 早いところ交流を持つ方がいい。

 杖がなくても上手く魔法が使えるといいのだけれど……。

 私はひとしきり深く呼吸をした。

 寝不足では何も出来ないし、なるだけ体調は整えておいた方がいい。

 今は眠る時間と割り切って寝てしまおう。


「りーご、りーご」

 気付くと少女が私の髪で遊びながら、ご機嫌そうに歌を歌っていた。

 闇の中なのに元気な事だ。

「おはよう、アニー」

「んっ!! おあよ! しゃうー!!」

 ひとりで起きているのは寂しかったのだろうか?

 喜ばし気に抱き着いて、彼女は声を上げる。

 そんなに寂しかったのなら、起こせばいいのに。

 幼児のような内面でも、彼女なりの気遣いなのだろうか。

 本来なら気が滅入ってもいいだろう状況なのに、そう感じないのは彼女のお陰だ。

 無邪気な少女が、この場を和ませてくれている。

 夜中の訪問者のお陰で睡眠は一時分断したけれど、十分に休めている。

 魔力も回復したようだ。

 立ち上がってみると、まだ少しぐらりと体が揺れる。

 なんだろう?

 昨日探索中もバランスをとりづらかった。

 貧血という感じではなくて、単に動きと意識がズレるというか。


「アニー、魔法を見せてあげる」

「しゃう、まおー?」

 私はじたばたと興奮するアニーに大人しくするようにいい含めると、神妙に呪文を唱えた。


「炎を纏うもの 魂の灯火 天界の燃える花火 彼岸に咲く赤い花 その恵みをここに顕し 我が魔力を受け取り給え」


 ぽぅっと、炎の花が手の平に現れた。

 やはり干渉する物の少ない場所なら、杖がなくとも魔法は発現するのだ。

 ともあれこのままでは自分の魔法で火傷してしまうので、すぐに何も無いと思われる地面へ炎の花を置く。

 他の人の火の魔法とは違って、私の炎の花は焚き付けがなくても数時間は形を保って燃え続けてくれる。

 ちょっと変な魔法の形らしいけれど、こうなってみると便利なものね。

 手の平程の炎の花は、地面に落ちると柔らかく闇に光を投げ掛けた。


「しゃう、まおー?」

 アニーが前のめりになって触ろうとする。

「熱いから触ってはダメよ」

 私は咄嗟に彼女を抱き止めた。

 炎の薄明かりの下で見る彼女は、10歳そこそこの少女に見える。

 その幼い言動には何かしらの原因があるのだろうか、生まれつきのものだろうか。

 でも、何故こんなにも小さいの?

 抱きとめた自分の手が目に止まる。


 いや違う。

 彼女が小さいのではなくて、私が大きいのだ。

 その手は節くれ立って、しっかりと少女の体を支えている。

 彼女は私の腕の中にすっぽりはいるし、その頭を預けている私の胸には膨らみがあった。

 良かった、ツルペタだと思っていたけどちゃんと成長出来るのね。

 いや、いや違う。

 そんな事を考えている場合ではない。

 私は大人になっている。

 それも皺の入ったこの手の様子は成人を追い越して、初老か中老なのではないか?

 体のバランスも前の世で死んだ時と変わらないような感じだ。

 私は今、子供ではなく中身と同じ年齢になっている?

 何が起こったの?

 私は混乱していた。

 大人だったのに赤子に生まれ変わって、今また大人になっているのだ。

 そうして、もっと私の心を乱したのは振り返った少女の姿。

 頼りない炎の花の光に照らされたその顔は、茶色の髪に緑の瞳をしていたからだ。


「アニカ……、アニカ・シュヴァルツ……」

 私は呆然と彼女の名を呼んだ。

「しゃうー!」

 名前を呼ばれて少女の顔は綻ぶと、そのまま私に抱きついてくる。

 何故私はこんな洞窟で、大人の姿で私を憎んでいるはずの少女に抱きつかれているのか。

 まったく訳がわからなかった。


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