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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
幕間

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ロンメル会長と多忙な日々3

 王都菓子地図の方向性が決まったので、秘書が書類を持って各部署へ手配しに部屋を出る。

 それと入れ替わるように、商品開発の人間が箱を抱えて入って来た。

「会長! 仔山羊ぬいぐるみ出来上がりましたよ。見本を持って参りました」

 見ると箱の中には色々なデザインと手の平サイズから抱えられるほどの大きさの仔山羊のぬいぐるみが入っていた。

 場にそぐわぬ可愛らしいそれらは、かなり浮いた存在だ。

 人を動かし商談をまとめる仕事ばかりではなく、これも立派な仕事のひとつである。

 人に任せきりにしないで、なるだけ全ての案件に目を通しておきたいロンメルの性分は、正直にいうと大商会には向いていない。

 本人もそれを十分にわかっていた。

 だけれどある意味不器用であるが、それがロンメル商会の信用に繋がっているのは確かなので、周りも止めたりはしないのだ。


「では説明を」

 担当者は箱からぬいぐるみを取り出し、テーブルの上に並べた。

 元々山羊のぬいぐるみや置物は地母神教の関係でポピュラーであったが、近年黒き仔山羊の登場で需要が伸びているのだ。

 それも理由のひとつであるが、今回新商品として出す切っ掛けは地母神教祭司長ゲオルグからの注文であった。

 かねてから大の仔山羊好きと噂されていたが、なんと本物の黒き仔山羊不在時の寂しさを紛らわす為に、携帯出来るぬいぐるみを作るよう発注してきたのが発端である。

 そして出来ればそれを信徒達の為にも、広く市販したいという。


 その為に、各教会への出入りも許可するというではないか。

 これはある意味、教会お墨付きのビジネスチャンスではあるのだが祭司長にロンメル商会を推薦したのがシャルロッテ・エーベルハルトである為、ますます頭が痛いのだ。

 よく言えば優良な顧客で大きな仕事を回してくれるお得意様なのだが、休む暇もなく仕事を振られていると、まるで外から追い込まれるように彼女はロンメル商会を乗っ取ろうとしているのではないかとうがった考えが過っても仕方が無いというものだろう。

 ロンメルは早めに文官学校に着手して、ロンメル商会の人手不足の解消にも役立ってもらわなければと決意を新たにした。


「こちらは天鵞絨素材を使い、肌触りを追求しました。目の部分はビーズ、ボタン、刺繍と候補は3つです」

 かわいい仔山羊がちょこんと並べられて机の上が癒しの空間になっているが、ここで和んでいるわけにはいかない。

「庶民用をボタンと刺繍にして、貴族用にビーズと宝石をあしらいましょうか。そこほどグレードの高い石でなくとも大丈夫だと思います。勿論、要望があれば価値のある石を使う事も念頭に置いて……」

「クズ石ということですね。宝石部門で取引のある鉱山に用立ててもらいましょうか。今、話題の朧水晶(ダンケルクリスタル)を使うという手もありますが」

 担当者の提案に、ロンメルは眉をひそめた。

「硬度が低くてかなり加工が効く水晶だといいますね。確かにクズ石は多く出そうですが朧水晶ですか……」


 かなり昔に廃坑になった山から、新しく発見されたという水晶である。

 ロンメル商会でも加工品を若干数扱っているが、その元締めは西の領地に力を持つハインミュラー商会であり、そもそもその水晶を発見したというのはアニカ・シュヴァルツなのだ。

 少しの利益の為に、わざわざ因縁深い相手と商売をする必要はないだろう。

 それに賢者のような子供が、廃坑になった山になんの用事で訪れ、新しい鉱石を発見したに至ったのか、うさんくさい話である。

 聖女の象徴の仔山羊の目に賢者が見出した石を使うとなれば、いろいろと邪推する者も出てくるだろうし、触らぬ神に祟りなしというものだ。

「いや、やめておきましょう。朧水晶に需要を取られた宝石がいくつかあるはずです。そちらなら今は価格も落ちて使いやすいのではないかな」

「では、そのように手配しますね。そういえばゲッツさんはお元気なんでしょうかね。確か朧水晶の鉱山に向かったそうですが」

 思い出したように、秘書は言った。

 ゲッツというのは、ロンメル商会へ出入りしていた下働きの気持ちの良い男だ。

 歯並びが悪くガチャ歯が特徴で、笑うと歯の間に隙間が空いているのが愛嬌になっていた。

 無学ながらも目端が良く効き顔も広い為、御用聞きではないが懇意にしていたものだ。


「ロンメルの旦那。俺がひと山当てたらいい店で1杯奢って下さいよ」

 商会の会長ともなると、一般の人々から媚びるか怖がるかされるものだがゲッツにはそういう所はなく、口癖のように一緒に酒を飲みたがったものだ。

 あいにくロンメルの仕事の多忙と、ゲッツの選んだ進路の関係で実現したことはなかった。

 過去形であるのは朧水晶の鉱夫の実入りが良いと聞いて、山へ行ってしまったからである。


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