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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男

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414話 敵視です

 人混みに慣れてないせいか、バルコニーに出た途端に気が緩んだ。

 目にも楽しいものだけど、やっぱり夜会は疲れるのよね。

 置いてある椅子に遠慮なく座ると、私は何を思うでなくぼんやりと夜空を見上げて息抜きをした。


 着飾ったラーラは新鮮だったし、ハンプトマン中将の間抜けな顔ときたら指をさして笑ってしまうところだった。

 それにしてもナハディガルとラーラのダンスは技術は素晴らしかったけれど、なんというか甘さが無くてびっくりだったわ。

 皆は気付かなかったようだけど、柔道の組手稽古じゃないんだから……。

 ハイデマリーとは挨拶出来なかったけれど、兄とのダンスは息がピッタリだったしこれは先が期待できそうね。

 いつも完璧でいる彼女だけれど、何より兄といる時は表情が柔らかくなって可愛いのよね。

 兄様はいつ交際を申し込むのかしら。

 ハイデマリーは苦労している分幸せになってほしいもの。

 そうそう、チェルノフ卿とダンプティは思った以上に親子っぽくて微笑ましかったわね。

 本当に戻ってきてくれてよかった。

 王子はいつも私を気遣ってくれて、午睡宮だなんて……。

 こんなに良くしてもらって私は何が返せるかしら?

 いつも私を驚かせてくれる人ね。

 いろんな先程までの事柄が浮かんでは消えていく。


「あら、シャルロッテ様はこちらにいらしたのね」

 その声が、私の温かかった気持ちに冷水をかけた。

 こんなに穏やかで楽しい夜に、聞きたくない声であった。

「シュヴァルツ男爵令嬢……」

 今日も茶色の髪をカールして、リボンで飾って可愛らしい出で立ちである。

「まあ! そんな堅い呼び方、気軽にアニカと呼んでもいいのよ?」

 白々しくも、彼女は言った。

 いつ私達が名前で呼び合う仲になったと言うのだろう。

 聖女、賢者と呼び合う方がまだしもだ。


「何か御用ですか?」

「用事がなければ声をかけてはいけないのかしら? そうねお偉い聖女様は、私なんかに声をかけられたくないって事ね」

 言葉とは裏腹に、楽しそうに私の顔を覗き込んでくる。

 またいつもの企みというか、私を悪くみせようとしているようだ。

 そして、そう振る舞うのが嬉しくてたまらないという風であった。

 彼女の熱演を見る観客がいなくて良かった。

 誤解されても曲解されても疲れるだけだ。

 こんな所まで追ってきて嫌がらせをしたいの? 

 本当にうんざりする。


「私があなたに何かしましたか? 私が嫌がらせをあなたからされることがあっても、その逆はないと思いますが」

 アニカの顔が、ひどく醜く歪む。

 まるでその様子は、綺麗な顔が一瞬で鬼の形相になる文楽人形のようだ。

「お高くとまってるんじゃないわよ。あんたが私に何かしたって? 私の人生をめちゃくちゃにしたのよ。それなのにあんただけ、いい暮らしをしてるなんて不公平じゃない」

 あの馬頭鳥のつぶやきを思い出す。

 あの時も私への恨みが漏れていた。

 親しくもなく、付き合いもないのになんだというのだ。

「私があなたの人生を? そもそも私達は何の関わり合いが無いではありませんか。なにも思い当たらないのですけれど」

 私はあくまで冷静に聞き返した。

 何故か彼女は私の前世を知っているけれど、私の方は全くそういう彼女の情報は知らないし、前世でも彼女のような劇場型の気質の人間は周りにいなかった。

 たまたまこの世界の同じ時代に居合わせただけなのだ。

 そもそも私の前世をどうやって知ったというのだろう。

 仲間意識が芽生えてもおかしくはないけれど、最初から敵視されているし訳がわからなかった。



 私の返事が気に入らなかったのか、アニカは口を開けて激高し怒鳴ろうとした。

 だけれど、珍しくそれを押さえ込んだようにみえた。

 私に理由を説明する気はないのか、自分に正当性がないのかはわからないけれど、説明を躊躇したのは確かだ。

 とにかく私は心当たりも無いのに八つ当たりされているようにしか感じない。

「あのマザコンだって見た目はいいから取り巻きに入れようと思っていたのに、あんたのせいで台無しよ!」

 あからさまに話を変えたわね。

 私に言えない理由なのかしら?

 マザコンだなんて、久しぶりに聞く言葉だ。

 この世界は地母神教の影響もあって母親を敬う男性は多い。

 それは常識的な範囲だが、それを逸したとしてもそこほど気にする人はいないのだ。

 そのうち生まれる言葉かもしれないけれど、今のところこちらにはそんな言葉はない。

 見た目のいいマザコンなんて私が知る中では、1人しかいなかった。


「ルフィノ・ガルシアを私の元へ寄越したのは、やはりあなたなのね」

「それがどうしたの? 証拠は何もないわよ。私はちょっとあんたが気に入らないから嫌がらせしてくれって言っただけだもの。後はあの男が勝手にやっただけ」

 ふふんと鼻を鳴らしてアニカは笑った。

「そう……、嫌がらせね」




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