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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男

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409話 炎の花です

 会場にどよめきが走る。

 白地に金糸の正装の兄がエスコートするのは、美しく装ったラーラであった。

 少年と成人女性という、あまり見ない組み合わせであるが兄は十分に次期侯爵の威厳を既に身につけているし、ラーラは淑女然としており夜会の主役として申し分無い佇まいであった。


 ラーラのドレスはアデリナと散々悩んだ挙句、私が着た黒騎士風をベースにして襟は高く硬い生地でカチッとしているが、そこから脇まではレース地で地肌が見えるようにしたホルターネックのデザインにした。

 肩の部分は布を無くして、オープンショルダーになっていて、二の腕の途中からフリルを使った袖がついている。

 背中も腰まで大胆に開けて、美しいその造形を人の目に晒していた。

 これはラーラでなければ着こなせないだろう。

 腰部分にはシフォン生地で大輪の薔薇をあしらい、タイトなラインの下半身だが、スリットを深く入れてレースとフリルを繋ぎに使う事で、動きやすく華やかな足元に演出している。

 これはかなり上出来であると言って良いだろう。

 私が着た黒騎士風ローブは、大人のドレスとして大胆に生まれ変わったのだ。

 そしてその全てが、彼女の髪の色に負けない鮮やかな赤色なのである。

 まさに彼女の気性そのままのような、炎の花を体現していた。



 普段は化粧をしない彼女だが、思った以上に化粧映えしている。

 眉を整えて濃い茶色のアイラインとつけまつ毛で目元を強調した。

 少し微笑ましい話なのだが、慣れていないのでまつ毛が重いのか、憂いを帯びた流し目になっているのは嬉しい誤算だ。

 普段気を使わない分ソバカスが頬に散っているが、全ては消さずにうっすらと見えるくらいの薄化粧にしておいた。

 それが艶やかな装いの中にも、幼い少女の無邪気さのような快活さを見せている。

 なんでも厚く塗って隠してしまえばいいというものではないのだ。

 口元はあえてベージュ色の紅をひいて、控えめに派手過ぎないように奥ゆかしさをだしてみた。


 髪はいつもの引っ詰め髪ではなく大き目のカールを掛けてわざと無造作にアップにしているが、後れ毛の1本に至るまで美しく手入れされていた。

 鮮やかに艶のある赤い髪は、凝った髪型やヘッドドレスなどで飾り立てなくても十分見ごたえがある。

 この日まで、大袈裟だというラーラを説き伏せて、毎日蜂蜜でトリートメントをしたのだ。

 肌のマッサージに、小麦粉パックに髪の手入れ。

 本人は剣の修行の方がマシだと泣き声を上げていたが、これだけ変身したのだから、その甲斐はあったと言えるだろう。

 エスコートをする兄よりも背が高いけれど、それがかえって大輪の薔薇の様な迫力を醸し出していて存在感を際立たせていた。


「あれは黒騎士風ではなくて? シャルロッテ様も凛々しく変身されたそうですが、ドレスにするとこんなにも艶やかなのね」

「女騎士様が、まるで咲き誇る薔薇のようですわね」

 貴婦人達は新しいファッションに身を包むラーラを羨ましそうに賞賛し、紳士達は今まで埋もれていた美人を前に熱い眼差しを送った。

 あのハンプトマン中将も彼女を嘲ろうとした口を閉じることなくポカンと開けて、固まった所をみるとこの逆転劇は成功である。

 騎士としてラーラに劣り、女性としても申し分無い美しさの前で、この陰湿な中年男は自分の何を誇るというのだろうのだろう。

 そもそも語るべき中身がない男だから、人をこき下ろす事で自分を大きく見せていたのだ。

 2度とラーラを侮辱させるものですか。

 私はラーラとハンプトマン中将を交互に見て大いに溜飲を下げた。


「ほお、見違えたぞラーラ・ヴォルケンシュタインよ。薔薇の花園に迷い込んだかと錯覚したではないか。今宵は誰もがそなたの美しさを称えるであろう」

 国王の言葉に、ラーラの頬に赤みが差す。

 よく言ってくれたわ。

 これで彼女は、王国の美女のひとりとして数えられる存在になったのだ。

 アデリナの手腕に、私はニヤニヤとほくそ笑んだ。

「王国に平安を齎した立役者であり子供の身ながら、いくつかの武勇を誇る将来が楽しみなルドルフ・エーベルハルトと、その剣の鋭さのみならずここに美しさまで示した新たな美姫ラーラ・ヴォルケンシュタインの2人を称えよ!」

 国王陛下がそう杯を掲げると、貴族の面々もそれに倣って乾杯をした。


「ギルベルト・アインホルンを冬越会で変身させたと思ったら、今度はラーラまで君の魔法にかかったようだ」

 王子が私の横に来て耳打ちした。

「正確にはアデリナの手柄ですけれどね。女性が美しくなるのを見るのは楽しいものですわ」

 王子にはあの練兵場で起きた事とハンプトマン中将の事は内緒にしてある。

 気に入らないからって、権力のある王子に言いつけるなんて情けない真似はしたくなかった。

 もしかしたら王室ならではの情報網で全て把握しているかも知れないけれど、私の口から言うのは違うものね。


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