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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男

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405話 黒きものです

「まあ! では、狂気山脈が領地なのですね。頂上までは登れないなら、山裾か中腹に街があるのですか? そちらのご出身なのですね」

 山の中腹なんて、眺めも良くていいではないか。

 崖っぷちの館とかも、雰囲気があっていい。

 私が勝手な想像を描いていると、チェルノフ卿は困った顔をした。

「いえ、そういう事ではなくですね。うーん、そうですね。狂気山脈自体が大きなチェルノフで、そこから株分け?とでもいうのでしょうか? 小さなチェルノフが山から分裂して、ひとつの個体として活動するようになるのです」

 大きなチェルノフと、小さなチェルノフ?

 株分けって園芸じゃあるまいし、実は植物なの?

 いや、山というからには岩なのかしら?

 何だか思った以上におかしな話になってきた。



「ほら、『お山』は動けませんですね。だから動きやすいサイズの子供を産んで、世界を知る手立てとしたのですよ。特に自我が芽生えた個体には(ロード)の地位が与えられて、より遠くの土地を知るために旅立つのです」

 元々はひとつだというの?

 なかなか理解し難い生き物のようである。


「それは最北の国自体、公認ということですか?」

「ええ、ええ、公にはなっておりませんが。我が国の成り立ちにはチェルノフが大勢関わって来ましたからね。だからこそ国から外交官としてここにいるのですよ」

 まるで、雲を掴むような話である。

 山から産まれて国を作るなんて、大昔の創世神話のようだ。

 そういえば日本では山の神は女性だと言われていたし、孫悟空も山のてっぺんの岩から産まれたのではないかしら?

 そう思えばおかしくは……、ない?のかしら。

「最北の国の方々は、そういうものと共存するのを受け入れてらっしゃるという事ですね。素晴らしいことです」

 そう思うと差別の少ない国のように思えてくる。

 そこにはチェルノフ卿以外のいろんなモノがいるのかしら?

「そうやって言えば聞こえがいいですけれどね、実のところは異形の力でも借りなければ生きてはいけない地の果てという訳ですね」

 少し寂しそうに彼は呟いた。

 荒れた地を開拓し建国して、こうやって他国にまで人を派遣するのに今までどれだけの時間を要したのだろうか。

 人でないなら随分と昔も知っているのかもしれない。

そこで長く生きて、たくさんの人を見送ったのだろう。

 安易に素晴らしいと評価してしまって私は後悔した。


「そんな顔をしなくても大丈夫ですよ」

 私の考えを表情から読んだのだろうか、チェルノフ卿は眉を下げてそういった。

「説明を続けましょうです。我々は元は黒いスライムのようなものなので、我が国の古語で『黒きもの』という意味を持つチェルノフと呼ばれていますよ。この間のように突然ちぎれてしまうと、形を保てなくて元に戻ってしまうのです」

 少し頬を染めているところを見ると、あれは恥ずかしかった事のようだ。

 裸を見られてしまったような感じなのかしら?

「そもそも我々は『古きもの』という方々に奉仕する為に作られたそうですが、その方々は大昔に居なくなってしまったので、どういう成り立ちでチェルノフがいるのか私達にも分かっていないのですよ。まあ、そんな感じで我々は産まれて人の知識を、正気と狂気を体に溜め込んで大きくなったらまた、お山へと帰ってひとつになるのです」

 海から産まれた生き物が、海に還るような話だろうか。

 いや、なんだか違うかんじだ。

 個として生まれながら、全に戻るというのはなんだか宗教の話のようだ。

「そういえば、満願というのは……」

「ええ、私も体いっぱいにいろいろなものを貯めてようやくお山へ帰れるところに、今回の件が起きましたです。頭が落ちたので、元の形に戻るまで少々時間がかかりましたですね。戻ったと言ってもこの有り様ですね」

 すっきりとしたお腹に両手をあてて項垂れた。

 豊満な体とぷにぷにのお腹を失って、少ししょぼんとしているのは、こういってはなんだがかわいらしい。

 そうね、あれはあれでチャーミングだったもの。

 もう、ぷにぷに出来ないかと思うと、私もとても残念である。


 満願の事を疑心暗鬼で捉えていたけれど、私の想像外の事だったのだ。

 帰郷できると喜んでいたあの姿は、嘘偽りないものだったのに……。

「『噛みつき男』の件は、本当に巻き込んでしまって申し訳ありません。そして私達を助けて下さって、感謝にたえませんわ」

 チェルノフ卿は優しく笑って答えた。

「これも縁というものですね。私は出来る事をしただけです。謝らないで下さいですよ」

「本当にあの時は、チェルノフ卿が助けてくれなければ兄はあの右手に襲われていたでしょう」

 思い返しながら、何度も感謝するとチェルノフ卿は怪訝な顔をしている。

「あの時とは、私の首が切られた時です?」

「いいえ、あの後の『噛みつき男』に襲われた時ですわ」

 どうしたのかしら?

 頭を落とされたから記憶にないとか?



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