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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第二章 シャルロッテ嬢と悪い種

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41話 反省です

 王子の微笑みは庭園にいた者すべてを凍てつかせ、私は返事をすることも出来ず貴賓室に返された。


 よく見れば、この部屋の青と金の色調は王族の特徴である。

 倒れた私を急遽運び込んだとしたとしても、よく出来ている話ではないか。

 もしかしてこの部屋は、婚約者に与えられる王宮の部屋なのではないだろうか。

 もしそうであるならば、王子のみならず国王も婚約者として私を扱っている事となる。


 考えてみれば王子から話が出たということは、そのまま決定事項なのではないか?

 自由恋愛の様に付き合って当人同士で結婚を決めてから親に報告とはいかないのだ。

 庭園のあれはあくまで形式で、こちらを慮った王子の気遣いであったのだろう。

 それを平和ボケした私は、何故断れる話だと思い込んでしまっていたのだ。

 父のまだ正式ではないし断れるからという言葉を鵜呑みにして。

 それでも相応の理由が必要だと言っていたのに。

 私が提示したのはどんな理由だった?

 「自分には務まらない」それだけだ。

 言葉だけでも努力をするそぶりもみせなかったのだ。

 王子が優しいからと言って、付け上がっていた。


 たかが子供と侮り、自由恋愛が主流の前世の価値観を振りかざして失敗したのだ。

 王子はその立場から恋愛など望んではいなかった。

 彼が望んだのは、ほんの少しの母の面影。

 そのささやかな希みさえ私は自分の恋心に浮かれて踏みにじったのだ。

 面目ない。

 心の底からそう思う。

 自分はいい子のまま、無傷のまま何かを要求などしてはいけなかったのだ。

 婚約者になりたくなければ、それこそ傲慢に囚われたハイデマリーのように振舞って不興を買うなりすべきだった。

 お手本はまさに示されていたのに。


 私の落ち込む姿に、庭園デートはどうだったかと聞きたそうなソフィアも話し掛けることが出来ずに母と2人で何か粗相をしでかしたのではとヒソヒソと話している。

 粗相どころでは無いのだ。

 国外に逃亡も視野に入れたい程の失敗だ。

 私が姿をくらましたら、残された家族はどうなってしまうのだろう。

 代々続いたこの家は取り潰されてしまうだろうか。

 そもそもこんな子供が逃げるなんて、野垂れ死ぬのが目に見えている。


 王子も王子である。

 自分をあんな形で拒否した女と、何故婚約したがるのかわからない。

 意趣返し?

 私が好意を持ったところで、婚約破棄して恥をかかせたい?

 いや、婚約破棄は令嬢側にはメリットしかないと兄は言っていた。

 単に手に入らないもの程、欲しくなる心境なのかもしれない。

 落ち着いたところで、きちんとお互い話し合わなければ。

 とりあえず気持ちを一旦切り替えようとひと息ついたところで、扉が4回ノックされた。

 ソフィアが開けに行くとそこにいたのは宮廷詩人である。


「嗚呼、桜姫。麗しのシャルロッテ様。歳上が好きなら好きと、何故教えて下さらなかったのです? それを知っていれば私はとうの昔にあなたを攫って銀の鳥しか登れない高い塔に閉じ込めたものを……」

 一体何事!?

 いきなりナハディガル劇場が始まった。

 涙を目に溜めて訴えられている。

 王子とのやり取りで疲れているところに、これは何の罰ゲームだろう。

 いやまあ罰せられるのは仕方ないとは思っているが、これは想定外ではないか。

「私は王宮の守り人。誰よりも早い耳を持ち、遠くを見通す目を持っているのです」

 耳と目は多分、密偵の事を指しているのだろう。

 つまりは庭園のやり取りも、すでに知っていると言う事だ。

 母とソフィアが、興味津々にこちらを盗み見て窺っている。

 このままではあのやり取りをバラされてしまう。

 どうすればいいのか。


「落ち着いて下さいナハディガル様。何か誤解があるようですわ。私は別に歳上が好きとかありませんのよ?」

「おお、その薔薇の唇で偽りを語る事はしないで下さい。あなたの胸の内に秘めている情熱が全てを焼いてしまわぬように」

 何を言ってるのかはわからない。

 誰か通訳をお願いします。

「ナハディガル様、お茶を用意しましたわ。こちらへどうぞ」

 さすが母様、私が困っているのを見て助け船を出してくれた。

「ご相伴預かりますエーベルハルト侯爵夫人。桜の姫を愛でながら飲むお茶はさぞかし甘露であるでしょう」

「ふふ、相変わらずですのね。夫のアウグストから出されていたのは、この子が王宮に上がるまでは近づかないこと。こちらから話しかけるまでは声を掛けてはいけないということ。一度お破りになった時はどうしようかと思いましたが、今まで口約束をよく守って下さいましたね」

 母はソフィアにお茶を入れさせながら、女主人として詩人に席をすすめた。

 この押しの強い男が今まで私に認識されていなかったのは、やはり父が手を回していたのだ。

 一度破ったというのは、あの教会での事だろうか。

 王宮に上がるまでなんて言わずに、一生接見禁止にしてくれても良かったのに。

「シャルロッテも、ナハディガル様に言うことがあるのではなくて? 緊急であったとはいえ、彼の助力を求めたのはあなたでしょう」

 ソファに座って毅然と語り掛ける母は、いつものおっとりとした風情はまったくなく、これぞ貴族の女という風情である。

 母の佇まいに侯爵という地位を、貴族であるということを思う。


 こうでなければいけなかったのだ。

 爵位を演じることが必要なのだ。

 そのことを半刻早く気付いていれば、私はあのような失態を犯さなかったのではないか?

 いや違う。

 それを知ってさえいても、同じことをしでかしていただろう。

 何故なら私はおごっていたから。

 神に選ばれここにいるという慢心があったのだ。

 知っていたはずなのに、これはすべて偶然の神の気まぐれの産物だということを。

 結局は同じ轍を踏んでいただろう。

 現に今も詩人を前にして自分を繕うことも出来ていないではないか。

 彼に助けを求めたのは私であるのに。


「お礼が遅れて申し訳ありませんわ。あの時ナハディガル様がいらっしゃらなければ、私はもとよりハイデマリー様もどうなっていたことか」

 親に言われて気付くなど、私は本当に成長していない。

 年月が、時日を経れば人は大人になるのか。

 それは否である。

 私はまったく大人になってはいなかったのだ。

 前世で結婚し子供を育てて、大人になった気になっていただけではないのか。

 現にこうしている私は子供そのものなのだから。

 情けなくなってくる。


「シャルロッテ様が倒れた時は、世界が終わると思いましたよ。無事目を醒されたのを聞いていてもたってもいられなかったのですが、あなたの安全が第一でしたので、その手配とレーヴライン侯爵に召喚状を出して聞き取りをしたりで遅れまして申し訳ない気持ちです」

 なんだ普通に会話出来るではないか。

 拍子抜けだ。

 それにしても、私の知らないところでいろいろと手を回してくれていたのだ。

 本当にありがたい。

 突飛な人なので、いろいろ誤解していたのかもしれない。


「私のせいでお忙しかったのですね。重ね重ね申し訳ありませんわ。それで何か、わかりまして?」

 ナハディガルは首を横に振った。

「高慢の種は厳重に封印しましたが、出処は全く知れません。あなたが襲われた夜とハイデマリー様が最初に種が根付いた日も違いますし、共通点は見当あたらず。しいて言うならば王太子殿下の有力な婚約者候補であるということですが……」

 やはりそこしか怪しいところはないのだ。

 私達2人が候補から外れたら、誰が得をする?

 他の高位の令嬢か噂の賢者か、その後ろに控えているかもしれない何者か。

 つい先日まで領地に籠っていた私にとって、雲を掴むような話である。






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