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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男

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402話 悔恨です

「シャルロッテ様! お久しぶりです!」

 元気よくコリンナがやって来た。

「噛みつき男」のせいで町娘達もだが、令嬢達も外出は家人から禁止される事が常となっていた。

 それが解決した今、社交シーズンも相まって普段以上に女性達は外に出て自由を謳歌している。

 晴れやかな表情に鮮やかな色の服を纏う彼女達のお陰か、王都は賑わいを戻しそれは随分と華やかな様子となっていた。

「久しぶりね、元気にしていた?」

 私はコリンナを抱き締めて、歓迎の意を表する。

 随分と久しぶりな事もあるが、この小さな友人をチェルノフ卿が守っていてくれたと思うと、そうせずにはいられなかったのだ。

「シャルロッテ様も大変でしたね。まさか『噛みつき男』に襲われるなんて。それなのに私の事を心配して遣いを出して下さってありがとうございました」

 チェルノフ卿を「噛みつき男」だと思い込んでいた時の安否確認の事だろうが、今となっては自分の騙されやすさに呆れてしまう。

「お互い何も無くて良かったわ」

「ルドルフ様とラーラ様のご活躍伺いました。さぞかし素敵だったのでしょうね。淑女の方々の話題の的ですよ」



 ナハディガルがエーベルハルト侯爵家に滞在していたのは対外的に伏せられていた。

 王宮の守り人が、宮殿を留守にしてこちらへ来ているのが公になるのは、あまり良くない事らしく政治的判断というやつなのだそうだ。

 そのせいで「噛みつき男」の討伐は、兄とラーラの2人の手柄となったのだ。

 王国の兵士達が、後手に回って被害を多く出した事件であったが、貴族である2人の手で片をつけた事で、王国の威信を取り戻した形になるそうである。

 色々な思惑があるのだろうけれど、子供である私に説明してくれる人はいないし、とにかく平穏が戻った事を喜ぼう。



「そういえば、非常識な時間に人を送ってしまってごめんなさい。あの時は直ぐに返事を書いてくれて感謝しているわ」

「そうそう! 手紙にも書きましたがびっくりするものを用意したんですよ! じゃーん!!」

 コリンナは我慢できないという風に持ってきた筒を取り出すと、中から巻いた大きな紙が出てきた。

「これは?」

 王都の簡易地図のようで、そこには色インクで様々な書き込みや絵がかかれている。

「私とチェルノフ卿で作った王都スイーツマップです!」

 その地図には菓子屋の名前とオススメのメニューや味の感想まで書かれている。

 ところどころに花やお菓子のイラストも描かれていて目に楽しい仕上がりだ。

「チェルノフ卿は何年も下町にまで出入りしていて、すごく王都について詳しいんです。お陰でシャルロッテ様へ素敵なプレゼントが作れました!」

 無邪気に笑うコリンナが眩しい。

 下町や菓子屋で奇異の目で見られたり、注目されなかった巨漢のチェルノフ卿。

 魔術か何かだと勘ぐっていたけれど、単に街の人々は彼がいる光景に慣れていただけだったのだ……。

 甘い物が好きで話上手な彼だもの。

 色々な店に出入りして、多くの人と交流してきたのだ。

 それを偏見の目で見ていたなんて、自分が本当に恥ずかしくなる。



「きゃあ! シャルロッテ様。大丈夫ですか?」

 気付けば私の頬を涙が伝っていた。

 下町で「噛みつき男」を牽制しながら、この小さな友人を守ってくれたチェルノフ卿。

 心の中から感謝や悔恨が浮かんで、それは涙となったのだ。



「ごめんなさい。素晴らしい贈り物に感極まってしまったわ。涙でインクが滲んではいけないわね」

 ハンカチで涙を抑える。

「泣くほど感激してもらえたと知ったら、チェルノフ卿も喜びますね!」

 無邪気なコリンナにどう言えばいいのだろう。

 彼はもう、戻らないかもしれない。

 正体がバレたら去ってしまう異形の話は多くある。

 鶴の恩返し然り、雪女然り。


「チェルノフ卿がここにいなくて淋しいわ」

 つい、弱音が口に出た。

 コリンナは、私を慰めるように背中を撫でてくれる。

「わかります。急な病気での静養で私もあの時は挨拶も出来ませんでしたもの。でも大丈夫ですよ。もうひとつ驚く事を用意しましたから」

 大丈夫って、何の事かしら?

 その時、馬車が門前につく音がした。

「あ、ちょうど間に合ったようです。迎えにいきましょう」

 コリンナは涙ぐむ私の背を押しながら、玄関へ行こうと誘う。

 今の馬車は、コリンナの用件のものらしい。

 まさかお菓子を馬車いっぱいに運ばせた訳ではないだろうけど、何だというのだろう。


「ひっ!! ひいいいぃぃぃぃ!!」

 私達が玄関へ向かう途中で、家令の悲鳴が上がった。

 何事かと、足を早めると家令が尻餅をついている。

 先日まで、首を斬られたチェルノフ卿と白い子供達を見て家令は心と腰を痛めて伏せっていたのに、これではまた家令代理を立てなければならないだろう。

 それにしても、そんなに何に今度は驚いたというのだろうか。



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