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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男
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383話 判断です

「ええ、あのでっかい太っちょのおじさんの目的はわからないけど、シャルロッテ様に何か悪い事をしようとして来たんじゃないと思う。だから2匹は動かなかったの」

「あんな騒ぎを起こして? 後ろには白い悪徳の落ち子をたくさん連れていたんだぞ? あれで無害だと?」

 興奮のあまりラーラは、激しく詰問した。

「そうよ。だから誰も怪我しなかったじゃない」

 アリッサは当然の様に言ってみせた。

 確かに怪我人は出なかったが、あまりに意外な言葉で謎が謎を呼ぶ。

 ではあの時、手を出さずにきちんと話しを聞いていたら、何か変わったというのかしら?

「最もシャルロッテ様に害はなくても、ルドルフ坊ちゃんに手は出したかもしれないけどね。でも坊ちゃんの事も2匹は好いているから、助けに向かったと思う」

「では、何故チェルノフ卿はあんな急襲のような真似を?」

 ラーラが怪訝な顔で聞く。

 アリッサは不思議そうに答えた。

「チェル何とかさんの事は私はよく知らないけど、玄関から訪ねて来たんだし不意打ちとかを考えてたんじゃないと思うけど……? まあ、ドリスだってシャルロッテ様を蜘蛛の眷属にするのをいい事だと考えてたから、ああいうのが考える()()()()()()は、人にはわかんないかもね」

 それだけ言い残すと、アリッサは窓からひらりと飛び降り、また外の警備に戻っていった。

 呆然とする私をよそに、ラーラは暫し考え込んで何か納得したようだ。

「貴殿らを誤解していたようだ」

 ちゃんと理由があったのですねと頭を下げると、2匹が和解の握手ならぬスリスリをラーラにしている。

 とりあえずお小言が終わって良かった。


 それにしても……。

 悪意がなかった?

 確かにチェルノフ卿は、善意の塊の様な人だった。

 でも、悪意無しで「噛みつき男」として、あのような犯罪が出来るとは思えない。

 私の頭は混乱していた。



「シャルロッテ様、クルツ伯爵令嬢はとてもお元気そうでしたよ。深夜だというのに顔を見せて下さいました。こちらを預かっております」

 クルツ伯爵邸へ出向いた従僕は、こんな時間だというのにコリンナからの手紙を携えて帰ってきた。

 先程のアリッサの話の後では到底眠れずはずもなく、私は夜更かしをしていたのですぐに受け取る事が出来た。

 コリンナはうちの従僕の来訪を知って、すぐに手紙をしたためてくれたのだ。

 急いでくれたのだろう。

 いつも綺麗な文字できちんとしている彼女の手紙だが、完全に文字が乾く前に折り畳まれたと思わせる便箋には、ところどころインクの滲みがあった。

 吸い取り紙(ブロッター)で紙面のインクを乾かす時間もなかったのだろう。


 その手紙には、とても元気である事ともうひとつ信じられない事が書いてあった。

 クルツ伯爵邸に、暫く前からチェルノフ卿が滞在しているという事実だ。

 最北の国ノートメアシュトラーセの言葉や、文化風俗を聞いたり、臨時の家庭教師のように色々な事を教えて貰っているのだそうだ。

 驚きましたか?と楽しげに書かれているが、こちらはそれどころでは無い。

 それとチェルノフ卿と2人でシャルロッテ様をびっくりさせる物を用意しました、喜んでくれるといいのだけどと書いてある。


 びっくりってチェルノフ卿が「噛みつき男」だという事?

 人ではなかった事?

 もう十分に、驚き過ぎている。

 コリンナは、何故こんなに普通の手紙を返して来たの?

 まったく訳がわからない。


 そもそも、一体いつの間にそんなに親しくなったのか。

 下町で見掛けたという話の異国の男と少女は、やはりチェルノフ卿とコリンナだったのだ。

 何故、問いただした時、彼は変に誤魔化したのだろう。

 そういえば菓子屋で会った後、チェルノフ卿を乗せた馬車は王宮とは別の方向に向かっていったのを不思議に思ったものだ。

 あの馬車は、クルツ伯爵家のタウンハウスへ帰っていったのだ。



 コリンナは、チェルノフ卿が「噛みつき男」だと知っていたの?

 そんな訳はない。

 私だって先程知ったばかりなのだ。

 第一、「噛みつき男」の事件にいち早く触れた彼女が事実を知って彼を受け入れるはずがない。

 何も知らないはずだ。

 彼女は戻らないチェルノフ卿を訝しげに思いながら、彼の帰宅を待つのだろうか。

 頭を無くした彼が、コリンナの元を訪れるのは考え難い。

 だが、もしその姿で戻るのならば、その時こそ本性を露にするのではないだろうか?

 私は時間も弁えず、ギルベルトの客間に飛び込んだ。

 チェルノフ卿がクルツ伯爵邸に滞在していた事、危惧している事を伝えて、コリンナの周辺警護を申し入れる。

 恐ろしい事に私は、チェルノフ卿があの状態で今だ力尽きずに生きていると思っているのだ。

 走り去ったのを見ているから当然の様に受け入れていたが、あれは普通ではなかったのに私はその事実を受け入れて、尚且つまた私の前に現われるのだと確信していた。

 そんな事に違和感を覚えない自分の正気が、今更ながら少し怖かった。


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