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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男
388/644

382話 小言です

 負傷者は出なかったけれど気の毒な事に、チェルノフ卿と白い子供達を目の当たりにしてしまった家令は腰を抜かしてしまっていた。

 他にも居合わせた何人かの使用人や兵士も気絶したり、ガタガタと震えて当座何も出来そうになかった。


「誰か、クルツ伯爵邸へ行って令嬢のコリンナが無事が確かめて来てちょうだい」

 私は家令代理の執事にそう告げた。

「こんな遅くにですか? 明日にされた方が良くないでしょうか?」

 深夜ともいえる時間なのだし、失礼に当たるのは重々承知している。

 もっともな意見だが、それについては首を縦に振る訳にはいかなかった。

 一刻も早く、コリンナの安否を確認しなければいても立ってもいられなかったのだ。

 何も無いならそれでいいが、万一という事がある。

 もし、クルツ伯爵邸が「噛みつき男」に占拠されていたら?

 後、無事だとしてもチェルノフ卿がクルツ邸に現れる事があれば本人に知られないよう王国見聞隊へ連絡する手筈も整えないと。

 一応、噛みつき男の件は伏せてコリンナの安否を気遣う手紙をしたためる。

「本人に会わなくても、確かめるだけでいいの。お願い、これは大事なことなの。後、念の為に兵士を何人か連れていってね。何があるかわからないし」

 私の真剣な表情に気持ちが伝わったのか、執事は従僕に命じて人を出してくれた。

 どうか、どうかコリンナが無事でありますように。

 私は祈るように早馬を見送った。


「ガルシア殿、シャルロッテをかばってくれてありがとう。もう夜も遅いし客間を用意するので、泊まっていって下さい」

 兄が、真っ青な顔ながらも当主の代わりとして謝辞を述べた。

 いくらいけ好かない相手でも、彼の活躍がなければ大事になったかもしれない。

 誰よりもいち早く動いてチェルノフ卿を抑えてくれたのはガルシアなのだもの。

 こんな事が起った夜に屋敷を追い出して王宮へ返すのは、いささか無粋というものだ。

「では、お言葉に甘えようかな」

 私を見ながら、上機嫌で了承する。

 兄も消耗しているのか、ガルシアのそういう振る舞いに何も言わなかった。

「ええ、是非そうして下さい。別館は今少々立て込んでおりますので、本館3階の客間へ案内させましょう。同じ階にもうひとり滞在中ですが、そちらの方には挨拶無用です」

 確かに、悪徳の神を警戒中の別館へ泊まらせるわけにはいかない。

 なんといってもエサ役が固まっているのですもの。

 まさか、今日の様に本館に私達がいる時に現われるとは思いもしなかったけれど。

 ある意味警備を分断させられたのだ。

 やはり油断が大きかったのかもしれない。


 もうひとりの滞在客というと、兄が直接雇った護衛とやらかしら?

 この騒ぎでも姿を見せないけれど、どういう人なのだろう。

 結局私も、顔を合わせていないのよね。

 たまに視線を感じる事があるのは、その人のものだと思うのだけど。

「兄様、私からその方に挨拶をしなくてもいいのですか?」

「ああ、シャルロッテ。挨拶をした方が喜ぶとは思うけれど……。いや、やはりしない方がお互いの為だろう。シャルロッテも落ち着かないのは嫌だろう? あちらも多忙な方だし夜だけこちらへ来てもらっているんだ。気にしないでいいよ」

 落ち着かないって、騒がしい人なのかしら?

 兄はなんだか歯切れの悪い事を言った。


 客間へ帰ると、ラーラが神妙な顔でベッドでくつろぐクロちゃんとビーちゃんを前にお小言を始めた。

「今回、貴殿らは何故シャルロッテ様の危機に駆けつけなかったのですか? ウェルナー男爵領では貴殿らの活躍あって事件は解決したではありませんか」

 何だか気まずそうにクロちゃんとビーちゃんはお互いの顔を見合わすと、崩していた姿勢を正してラーラの前に鎮座した。

「私の力不足は認めます。それを棚に上げている事も。ですが貴殿らはあの様な事があったのに、ずっとこの部屋から出もしなかったとはどういう事ですか?」

 ラーラの勢いに、2匹はタジタジになっている。

 そして、申し訳ないという風に頭を垂れてしまった。

 まあ、仔山羊と小鳥が頭を下げても「ここを撫でて」としか見えないのだが。

 うう、可哀想になって撫でにいきたいけれど、ラーラも真剣な様子だし、何より自分と2匹を仲間の様に考えているから出る言葉だ。

 2匹を信頼していなかったら、ただの動物だと思っていたら、こんな風には話しをしない。

 それを思うと、何だか割って入る事が出来なかった。


「そんなに責めないであげて、ラーラ」

 声を挟んだのは、外庭の見張りをしていたアリッサだ。

「その子達は、シャルロッテ様に向けられる悪意か、珍しい事にしか興味がないの。だから、今日の事には何も反応しなかったのよ」

「悪意が……、なかった?」

 アリッサの思いがけない言葉に、私とラーラはぎょっとした。



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