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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男
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378話 用件です

 機嫌よく私へ近寄ろうとするところを、兄が割って入った。

「今宵はよい夜ですね、ルフィノ・ガルシア殿。一体、何用でこの様な時間の訪問を?」

 咎めるような口調である。

 ああ、もう最初から兄は臨戦態勢になっていた。

 そんなに目くじらを立てなくてもいいのに。

「ルドルフ・エーベルハルト小侯爵様におかれましては、ご健勝のことお喜び申し上げます。品行方正なお子様にはもう就寝のお時間でしたか」

 ガルシアも負けじと慇懃無礼に挨拶を返した。


「そう、この様な時間とおっしゃいますが今は社交シーズン。まだまだ夜は始まったばかりですよ。まあ、お若いエーベルハルト様においては夜中とも等しいかもしれませんが」

 嫌味をにこにこしながらいうなんて、本当貴族って面倒臭い。

「君が名指しをしたシャルロッテも十分子供で、もう休む時間なのだがね? 子守歌でも歌いに来たとでもいうのかい?」

 兄はまだ子供なだけあって、当てこすりにもキレがない。

 どちらかというとガルシアはその提案も満更でもないという雰囲気である。

 ガルシアに寝かしつけられるなんて、まったく歓迎できないわ。

 その前に詩人にこんな話を聞かれたら、血相を変えて詰め寄るに違いない。

 ガルシアとナハディガルの子守唄合戦なんて目も当てられない話である。

 宮廷の守り人としてナハディガルも「噛みつき男」の件で忙しくしているという。

 今頃は夜会で歌いながら、他愛のない話も漏らさず集めているのかもしれない。


「兄様、その辺にして下さい。お客様も用件をはっきりとお聞かせ下さいます?」

 どちらにも釘を刺してみるが、あまり効くような感じではなかった。

「お客様なんて他人行儀な呼び方はやめてほしいな? 君と私の間にはちゃんと呼び名があっただろう?」

 さあ、僕の愛称を呼んでとばかりに笑顔を向けてくる。

 兄の前でそんなことをしようものなら、火に油を注ぐ事になるだろう。

 融通の利かない2人に、くらくらと眩暈がしてきた。

「事情は存じませんが、立ち話もなんでしょう。お茶の一杯でも振る舞って話を伺ったらどうでしょうか?」

 険悪な2人にザームエルが遠慮がちに提案すると、兄もようやく我に返ったのかサロンへとガルシアを通した。

 時間も時間なのでガルシアとザームエルには紅茶を、私と兄にはミルクティが出されている。

 お酒を出してもいいのだけど、そこは子供に合わせて貰おう。

「ガルシア様、それでご用件は?」

 これで3度も用件を尋ねた事になる。

 早く話を済ませたいところだけれど、ガルシアは呼び方が不満なのか口を尖らしている。

 こんなに子供っぽい人ではなかったと思うのだけど、どうしちゃったのかしら?



「いや、夜会から帰るところなのですが、近くを通りかかりましたのでご挨拶をと参った次第です」

 まあ、そんな簡単な話だったの?

「それはご丁寧に。妹も挨拶は受け取ったので、どうぞ速やかにお引き取りを」

 間髪いれず、ルドルフがそう言い放つ。

「兄様!」

 私は声を荒らげた。

 いくら非常識な時間の来客でも、礼儀に欠くのは良くない。

 いずれ侯爵家を継ぐ予定の人間なのだから、その辺は割り切る事を覚えてもらいたいものだ。


「君がいない王宮はさみしくてね。そういえば試食会の感想の手紙は参考になったよ。料理人が味の調整をしているから、また試して欲しいな」

 あの晩餐会が無駄にならなくて良かった。

 またご相伴にあずかれるなら嬉しい事だが、兄の前なので手放しに歓迎出来ないのが残念である。

「それは楽しみですわ。あら? 今日は帯刀していらっしゃるのですね」

 ガルシアは、ひと振りの剣を腰に下げていた。

 王宮では丸腰だったので、剣を使えるとは思ってもみなかった。

 貴族とは名ばかりと言っていたので、商人が剣を振るうなど考えてもみなかったのだ。


「ええ、ここのところ王都は物騒でしょう? 貴族街では今のところ騒ぎはないけれど、いつ『噛みつき男』の気が変わって貴族が狙われるかわかりませんから、お守りとしてね。見たところエーベルハルト侯爵家の警備は貴族の屋敷としては、かなり厳重ですが、やはりそのせいなのですか?」

 そう、ガルシアがいうように「噛みつき男」が貧民街で犯行を及んだせいで、人々は「噛みつき男」の気分次第で自分の生活が脅かされる事に思い至ったのだ。

 街中でも、お茶会でも「噛みつき男」が話題にならない日はなくなってしまった。

 その恐怖は、もう信仰に近いとでもいえそうであった。

「噛みつき男」は力を手に入れる為、恐怖を振りまいた結果、それは実を結ぶだろう。


「ええ、シーズン中は両親が夜会で不在が多いので警備に力を入れてますの。両親とも心配性なのですわ」

 私は澄ましてそう説明する。

 客にギルベルトの話は関係ないし、そう済ました方が話は早いだろう。

 ましてや悪徳の神云々などは言えようもない。

「そうですか。こちらの紳士はご親戚か何かで?」

 そういえばザームエルが同席してたのだった。

 兄がピリピリしているので、すっかり紹介が遅れてしまった。


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