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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男
378/644

372話 号外です

 馬のいななき、人の声。

 外が何か騒がしい?

 そんな薄っすらと聞こえる音で、目が覚めてしまった。

 兄と仔山羊と小鳥と枕を並べて、私はぐっすりと眠っていた。

 幸い、兄がうなされている様子もない。

 寝ぼけまなこで窓を見るけれど、まだ暗く夜も明けてないようだ。


 何があったのかしら?

 あの騒ぎはもしかして、悪徳の神の落ち子と戦いがあったの?

 それとも、こんな時間にお客様?

 バタバタと足音がする。

 寝ずの番をしてくれているラーラが、警戒して立ち上がって廊下側へ視線をやっているのがみえた。

 わざわざ別館に用事なら、ここにいる兄宛の客だろうか?

 ぼんやりと扉がノックされるのを待っていると、部屋の前を足音は素通りしていく。

 足音の主は、隣の部屋へ入ったようだった。


 厚い壁の為なにを言ってるかは、よく聞こえないけれど焦っているのは伝わってくる。

 暫くすると、またバタバタと今度は来た人間よりも多く、複数人の足音が扉の前を過ぎていった。

 ギルベルトに用事だったの?

 私達にはなんの報告もないということは、王国見聞隊からの呼び出しなのだろうか。

 今までも、夜中にそういう事があったりしたのかしら?

 呑気そうにみえて、結構大変なお仕事なのね。

 ラーラが扉を開けて、廊下の警護をしている兵士と何やら話すとすぐにまた戻って定位置についた。


 私達に緊急性はないのだろう。

 ふと、耳を澄ますとどこかで歌が聞こえた気がした。

 心に響くような深い声。

 でもそれもよくは聞き取れなくて、何だか眠気をさそってくる。

 ぼんやりと屋敷から離れていく馬車の音とその不思議な歌を聞きながら、私はまた眠りについた。



 朝になると、私と兄の朝支度で客間は賑やかであった。

 兄の顔色は、すっかり良くなっている。

「とてもぐっすり眠れたよ」

 そういうと、クロちゃんとビーちゃんを撫でている。

 2匹とも嬉しそうにすり寄っている。

 よかった。

 微笑ましい姿を眺めながらベッドサイドに置いた煙水晶を見ると、何だか昨日より曇って見えた。

 もっと透明だったはずだけれど、気のせいかしら?

 不良品をロンメルが送ってくることはないのだもの。

 銀のお守りが力を使って真っ黒になった様に、これはこの水晶も何らかの効果を発揮したという事ではないだろうか?

 今日眠れたといって、安易に喜んではいけないのね。

 依然、悪徳の神の脅威は去っていないのだもの。


「そういえば、夜中のお客様はなんだったの?」

「お気付きでしたか。アインホルン殿に招集がかかったそうです。あの後、朝方こちらに戻られて今は隣の部屋で休まれてますよ」

 ラーラはしっかりと寝ずの番を果たしているようで、隣の部屋の動向も確認していた。

 食事の前に顔を出そうかと思ったけれど、寝ているのからそっとしておこうか。

「はい、はい! 気になるのはわかりますが、先に食事をなさって下さいね」

 ソフィアがテキパキと指示を出しながら、私と兄を食事へ送り出した。


「昨夜は出ませんでした」

 すれ違いざまにラーラは、短く私にそう報告する。

 ソフィアの前なので、主語は抜いたのだろう。

 それでも私には、ちゃんとわかった。

 落ち子は、現れなかったのだ。

 あれらが、王都で迷子という訳ではないだろう。

 確実に追っては来ると思うのだけど、タウンハウスに来る前に、こちらの落ち子はアリッサや騎士達が始末した。

 煉瓦の壁の向う側は、クロちゃんとビーちゃんが片付けた。

 そう考えると、「噛みつき男」は弱体化して手が足りない状態なのかもしれない。

 でもなんだか姿を見せないのが、反対に不安を誘った。

 漠然とした胸騒ぎがする。


 食事を終えると、兄は意気揚々と剣の稽古へと向うという。

 体調も良くなったので、体を動かしたいのだろう。

 ひと汗かけば一層元気になりそうだ。

 私はというと、食後のお茶をだらだらと飲みながら手持無沙汰に世間の近況に触れようと、並べられた新聞に手を伸ばした。


 そこには何社かの新聞が並べられている。

 どの新聞社もそれぞれ特徴があるので、読み比べるのも楽しいものなのだ。

 社交欄が充実していたり、経済面に力を入れていたり。

 ここにあるのはどれもゴシップ誌ではないので、1面にあるイラストはパッと見そんなに派手では無い。

 高級紙はその辺がお堅いけれど、無駄に煽り立てるのはメディアの悪い癖だものね。

 この地味さは良識を表しているようで、私には好ましいものであった。


 その中に一誌だけ、薄いものがある。

 手に取ってからわかったが、これは号外であった。

 一枚紙であったが、記事の内容のイラストが掲載されている。

 先に絵に目がいってしまう。

 そのイラストは裏路地のような場所が舞台で、地面に置かれた箱に丸いものが乗せてあった。

 一色刷りなので白黒なのだが、その壁には黒い落書きのような文字が書いてあるようだ。

 警備兵が肘と膝を曲げて、いかにも今駆けつけましたというポーズで描き込まれている。

 何のイラストなのかしら?

 見出しに目を向けるとそこには「『噛みつき男』裏町に現る」と、書いてあった。



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