表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男
370/644

364話 満願です

「お久しぶりですね。ご機嫌はいかがですか? この間のお茶会で食べたレモンパイが忘れられなくて、すっかりこれの虜になってしまいましたです」

 両手はお菓子の入った箱でふさがったまま、礼をとれずに失礼といいながらも、にこやかに挨拶をしてくれる。

「私も今日は、レモンパイを求めにこちらへ参りました。店内が混んでいるので、自分の目で見られないのが残念ですわ」

「おおう。それは本当に残念ですね。確かにお嬢様が入るには人が溢れ過ぎですからね」

「チェルノフ卿は目的の物を手に入れて、とても嬉しそうに見えますわ。それとも他に何かいい事でも?」

 お菓子を手に入れただけで、こんなにニコニコする大男はなかなかいないのではないだろうか?

「わかりますですか? 実はもうすぐ満願を迎えまして、生まれ故郷へ帰れそうなのです」

 なるほど、帰郷するのね。

 遠く離れた国で暮らしているのだもの、それは嬉しい事だろう。

「まあ! 寂しくなりますわ。せっかくお知り合いになれたのに、残念です。でも、お国に帰れるのは喜ばしい事ですね」

 ええ、ええとチェルノフ卿は何度も頷いた。

 

「この国のお菓子はとても好ましいですから、離れがたくはありますですね。今からお土産をいっぱい用意しなければですよ」

 とても楽し気な顔である。

 この様子だとお土産のお菓子の荷箱が山となりそうだ。

 そういえば満願って、何かしら。

 任務満了の例え?

 確か、願いが叶うって事よね。

 国に帰るのを希望していて、それが叶ったという事かしら?

 異国の人だから、言葉の使い方が独特なのかもしれないけど。

 そういえば、彼には聞きたい事があったのだ。


「そういえば、コリンナと下町を訪問されました?」

 チェルノフ卿の笑顔が、強ばった。

「いいえ……。いや、はい。コリンナ様に聞かれましたか?」

 どう答えようかと思案しながら返事をしているのが、まるわかりである。

「コリンナとは、あれから会う機会がないのですが、見掛けた方がいらっしゃったのですわ。下町見学でもされていたのですか?」

 ガルシアの話では付き添いのようにコリンナと一緒にいたのではなかったかしら?

「いいえ、いいえ。違います、違いますよ。たまたま、コリンナ様と一緒になりましたですね。少し一緒にいただけなのです。私は何も知らないですよ」

 もう何か隠している事がバレバレではないか。

 こんな事で、海千山千の貴族達とやっていけるのだろうか?

 それとも私が子供だから、正直であろうとしてこんなに焦っているのかもしれない。


「さあ、さあ! 私はお菓子を買ったので、もう帰りますですよ。会えて光栄でしたね。また今度! ああ! 今は物騒ですからですね、シャルロッテ様自身は大丈夫だとは思いますが、お気をつけくださいよ」

 空元気のような様子で言い切ると、そそくさと帰ってしまいそれ以上質問をさせてはくれなかった。

 不思議な紳士ではあるが、一体何を隠しているの?

 帰るといいながら、馬車が向かった方向は王宮とは反対である。

 王宮で過ごしていたはずよね?

 貴族街に屋敷を構えている感じでもなかったのに。

 まだ別に用事があるのだろうか?

 私自身は大丈夫ってどういうこと?

 何だか彼については腑に落ちない事が多いけれど、人が良さそうなので疑いきれずになんだか変な感じだ。



 チェルノフ卿が去ると、入れ替わるようにソフィアが大きな店の箱を2つ程従僕に抱えさせて戻ってきた。

「おかえりなさい。店内はどうだった?」

 人混みに揉まれてか、慣れない込み合った店での買い物のせいか少々頬が上気している。

「可愛らしい飾り付けのお店で、きっとお嬢様も気に入ると思いますよ。お菓子も何種類もあって、迷ってしまいました」

 とても嬉しそうに報告してくれる。

 可愛らしいってどんな感じなのかしら?

 興奮気味のソフィアに、私もこの目で見てみたくなってしまう。

 彼女だって年頃の娘なのだから、可愛いお店で買い物は好きよね。

 王子の言われるままに王宮に引き篭っていたけど、もっと王都を楽しむのは自分だけでなく、ソフィアの為にもいいのではないだろうか。

「そういえば、先程チェルノフ卿がお店から出てこちらへ挨拶にいらしたのよ。店内で彼を見なかった?」

「ああ! なにか大きな人がいるなと思ったのは、チェルノフ卿でしたか。あの人混みですし、買い物に気を取られて確認まではしませんでした」


 こういっては失礼だけれど、何故騒がれないのかしら?

 彼の外見を貶める訳ではないけど、目につく人だと思うのだけど。

 彼がいる風景に、みんな慣れているかのようだ。

「噛みつき男」もこんな風に、人の波を目立たずに抜けるのだろうか。

 唯一の目撃証言の巨漢というのも合っているし、とても温厚篤実な人に思えるのに、発言の端々にたまに不穏さを感じる事がある。

 兄とも面識があるし考えまいとしても、つい「噛みつき男」なのでは?と少し疑ってしまう。

 満願って、まさか連続殺人を達成したとかじゃないわよね?

 せっかく知り合いになれたというのに、そんな事を考えてしまうのが後ろめたくもあるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ