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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男
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361話 問屋街です

「あ、こちらのようですよ」

 少し奥まった場所に、馬車が停りその花屋はあった。

 貴族の館に出入りする花屋らしく、店構えもきちんとしている。

 店先には桶に花がふんだんに入れられ、鮮やかに色を競っていた。

 ここいらは花屋通りと言ってもいいほど何軒も花屋の看板を掲げた建物が並んでいる。

 問屋街のようで、同じ業種で固まっているのだろう。


 紋章付きの馬車が止まったのを店先の掃除をしていた小間使いの少年が見て、飛び上がって店の中に入っていった。

 しばらくして、店主と思われる中年の男が出てくる。

 まず、馬車の後ろの荷台に乗っていた従僕が降りて、相手にこちらの家門を伝える。

 すると店主は慌てた様にパタパタと髪や服に手をやって自分の身嗜みのチェックをしているようだ。

「エーベルハルト侯爵家の方ですね。なんなりとご用件をどうぞ」

 かしこまった店主の申し出に、従僕が二言三言する。

 従僕の言葉から私が馬車の中にいると知った店主は踵を返して店内へ走りこみ、また間が空いてから出てきた。

 先ほどから、出たり入ったりと忙しいことね。

 まあ、貴族が突然やってくるなんて滅多にあるものではないもの。

 私の無作法なのだから、相手の準備が終わるのを待つのは仕方がない。

 つい、先程まで上着は羽織っていなかったのに店主はしっかりと身なりを整えて、いそいそと馬車の横で控えたのを見て侍従が馬車の扉に手をかけた。


 そうしてソフィアが先に馬車を降り、続いてアリッサと私が出ていく。

「シャルロッテ・エーベルハルトです。本日は先触れもなく来訪してしまって申し訳ございません」

「とんでもない! 聖女様に店に足を運んでもらうなど、夢の様ですよ。さあ、中へどうぞ」

 ご機嫌な店主に連れられてアーチ型の玄関をくぐると、そこは花の楽園のようだった。

 清々しい花々の香りが満ちている。

 部屋中に花桶が置かれ、壁には花の絵画が飾られていた。

 何より重厚な扉の内側はひんやりと涼しい。

「これは魔法ですの?」

 私の言葉に、誇らしげに店主が応える。

「ええ! 氷を扱える水魔法師にツテがありまして、地下の氷室いっぱいに氷を納品してもらっているのです。それで花に良い温度を保っておりますので当店は各地の花を生き生きと長持ちさせる事が出来るのですよ」

「なるほど、だからあんなにも新鮮なネルケの花を扱えるのですね」

 私の言葉に、店主は気を良くしたようだ。


「お館に届けたネルケの花は気に入っていただけたでしょうか? 王都の中でも、あれだけ鮮度の良いネルケを扱えるのは当店くらいですよ。お嬢様がこちらにいらしたと言うことは、やはりネルケの贈り主についてでしょうか?」

「ええ、とても屋敷が華やかになりましたわ。話が早いようで助かります」

「承知致しました。立ち話もなんですし、かの有名な桜姫をもてなす栄誉を私めらに与えて下さいますね? 甘いものはお好きですか?」

 にっこりと微笑む店主に、断ることは出来なかった。

 花屋でティータイムも悪くない。

「大好きですわ」

 店主に負けじと私もニコニコと笑ってみせた。


 花に囲まれた店内を抜けると、これまた花模様に溢れた壁紙の応接室に通される。

 壁には造花でいくつもの素晴らしい花束が飾られて、壺に活けられた花も見事で、王都に店を構える老舗の花屋である事が伺えた。

 貴族の遣いの者からは店頭で注文を受け、私の様に貴族本人が来るのなら、この部屋に通されるのだろう。

 私の様に店に足を運ぶ令嬢がそうそういるとは思わないのだけれど、たいそう女性好みの部屋である。

 テーブルも白地で、花の鮮やかさがいっそう映えるようだ。

「とても明るくて美しい部屋ですね」

「ええ、この部屋では花の色が陽の光でどう見えるのかも確認出来るように、ガラス窓を多く採用しているのですよ」

 見上げると天井にも窓がついていて、日光が入っている。

 天然色を、自分の目で確認出来るというのか。

 私なんかは室内でも、暖炉の光でも、花の色を気にした事がなかった。

 無頓着という訳ではないと思うのだけれど、ちょっと乙女成分が足りないのかもしれない。


「店まで足を運ぶ方は、こだわりがありますので手を抜けません。特に花嫁の方がお客様ですとね」

 店主の話に、納得した。

 この白くてフワフワとした幻想的な空間は、確かに結婚式の華やいだ雰囲気に相応しい。

 花嫁のブーケを注文するならば、選ぶ方も真剣になるのはもっともだ。

 広めの(フロア)は、きっとドレスと花束を合わせる為のものだろう。

 屋敷や家中にリボンと花を飾り付けるのだから、何日も頭を悩ませるのかもしれない。

 花嫁をより輝かせる為の仕事は、さぞかし誇らしいことだろう。

 座るとすぐさまお茶が運ばれてきた。

 こちらも花柄のティーセットと徹底していた。




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