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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男
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355話 魅せられるです

 もし、姿を目立たなくする魔術を使っているとしたら、『噛みつき男』を追う事なんて無理なのではないか?

 最終的に私達が今取れる方法は、兄を囮にするしかないことに気付いてしまう。

 結局はおびき寄せるしかないのだと思うと、少々気が重くなった。

 それに反して、ギルベルトの生き生きとしていることと言ったら。

 今の状況は彼にとっては、きっと好ましいものなのだ。

「そうそう、姿を変えるというと、毎日、死んだ人間の肉を食べながら、その人の姿を装う魔術とかね。あーっ! 『噛みつき男』は、その可能性もあったわけか。思いつかなかったなあ。でもその場合は死体を持って帰るだろうから、早々に修正は入っただろうね。やはり魔術を視野にいれると、いろいろな可能性が出て来て楽しいねえ。そういえば、皮を剥いでそれを被って姿を変えるとかそういうものもあるんだよ。いやあ、一度はお目にかかりたいものだ」

 愉し気に語る内容ではない気がするのだけれど、こういう人だものね。

 細かい気配りは望めない代わりに、偏っているけれどふんだんな知識があるのだ。

 そこは諦めなきゃ。


「あれはどうです? 前にロンメル商会の人が、記憶が曖昧になる術をかけられたという疑いがありましたよね?」

 私がシュピネ村に、足を運ぶ事になった時の件だ。

 あれも、表向きは勘違いや誤解が重なってということで落ち着いたが、陰謀を企てた誰かの魔術によって記憶を曇らされたのではという話であったはずだ。

 その術だとしたら、同じ人物の仕業とも考えられる?

 同じ禁忌の魔術を使える人間が、そんなに何人もいるとは考え難い。

「あれはひとりひとりにかける術だから、今回の事には向いてないんだよ。考えても見てごらん? そもそも、不特定多数の目撃者を特定するのも難しいだろう。だから僕としては、特徴に残らない平凡な人間に見せかける魔術が使われたという方がしっくりくるね」

 なるほど、犯行時にどこで人目に付くかなんてわからないものね。

 たしかにその方が、しっくりくるというのは理解出来る。


 喜々として語る学者を見ていると、彼は魔術や神話生物に魅せられてしまっているのがよくわかる。

 これも一種の狂気というものなのだろうか?

 狂気と正気は紙一重というけれど、まさにそんな感じだ。

 もしかしたら、世に出ていないとされる「湖水公卿黙示書」の12巻は、彼の様な神話的事象に魅入られた研究者によって書かれたのかもしれない。


 ギルベルトは世のしがらみがなければ、ああいうものの続きを書いたり自分で編纂した魔術書を作り上げたいのではないだろうか?

 なんなら「湖水公卿黙示書」を自分で完璧に補完して、全巻完成させたいと思っていそうだ。

 そこまで考えてから、元々「しがらみ」なんて頓着しそうな人ではないけれど、それでも多少は人の世に合わせている部分もちゃんとあるのだと気付いた。

 働かずに伯爵家で研究を続ける事も出来たのに、それをよしとせず学者として身を立てているのだもの。

 私が思うより、ずっとちゃんとしているのかもしれない。


 歳を取って十分な資産を賄えたら、彼は表舞台を引退して魔術書を執筆するのではないだろうか。

 彼にとって魔術や神話生物を読み解くのは、畢生の仕事(ライフワーク)といっていいものだもの。

 その集大成を、なんらかの形にしたいと考えるのはおかしいことではない。

 自分の名前を前面に出したい人ではないから、題名は「隠遁学者の手慰み書」とか?

 うーん、それではちょっと地味すぎる気もする。

 では「無名魔術書」とかどうかしら?

 そうね、1巻には黒山羊様の仔山羊と妖虫と悪徳の種について書くわね、きっと。

 2巻は、おしろさんとビヤーキーについてで決定ね。

 3巻は蜘蛛の神とその娘で4巻は悪徳の神についてになりそうだけれど、目を付けられたらまずいからやっぱり番外として世の中には出さずに、こっそりどこかに隠すのかもしれない。

 そうして後世、悪徳の神と敵対した人間がギルベルトの隠された番外の書を見つけ出して活路を見出すのだ。

 まるで夢物語だけど、ありえない話ではない。

 何故かそんな未来が見えるようで、それを少し楽しみにしている自分がいた。


 ギルベルト達と対策を考えながら、あれやこれやとしていると、すぐに昼の時間になってしまった。

 兄はちゃんと眠れたかしらと心配していると、突然「わあああ!」という叫び声が聞こえた。

 隣室からで間違いない。

「今の声は?」

 どう聞いてもルドルフの声ではないか。

 まさか、結局悪夢から逃げられなかったの?

 私は、行儀も何も捨て置いて、すぐさま隣室へ飛び込んだ。

 もちろん、学者と助手も付いて来ている。

「兄様!!」

 バーンッと力任せに扉を開けると、ベッドから飛び出した兄とそれを支えるデニスがいた。

 ルドルフの顔は蒼白で、この世の恐怖のすべてを見たという様相である。

 2人とも扉を乱暴に開けた私を見つめているけれど、ちょっと待って?

 クロちゃんとビーちゃんはどこにいったの?



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