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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男
356/644

350話 決意です

 無残な殺され方をされた女性達。

 それぞれが、明るい未来を描いていたに違いない。

 ひと夜にして、すべてを奪われた彼女達。

 訳も分からず蹂躙されていい人間などいないのだ。

 それを受け入れなければならなかった、その家族達のその無念。

 同情して事件の調査を始めた?

 同情だなんて、おこがましい。

 なんだその偽善者は。


 そうして悪徳の神に目をつけられたから対処する?

 なんて暢気なことだ。

 私は一種、義務感の様な気持ちで、この件に関わっていたのかもしれない。

 神話の生物が事件を起こしているのなら、黒山羊様の御使いの力でどうにかしなければと。

 学者が謎を解いて、アリッサ達が対処する。

 御使いに学者にアリッサ。

 なんて他力本願だったことか。

 そこに私はいないではないか。

 他人ばかりをあてにして、解決するのを待つというのか。

 そうではない。

 もっと真剣になって挑まねばならなかったのだ。

 いや、これも詭弁だ。


 私は今、許せないのだ。

 自分の身に降りかかって、ようやく実感したのだ。

 よくも、よくも私の家族に手を出そうとしてくれたものだ。

 心の底から怒りが湧いてくる。

「噛みつき男」が、どれほどのものだというのだ。

 ストーカーの勘違い男め。

 絶対に後悔させてやる。

 私はそう決意した。



 私の迫力に圧倒されたように暫く部屋には沈黙が続いたが、それを破ったのはギルベルトだ。

「とりあえずお兄さんの詳細を聞かせてもらおうか。材料なしでは立ちいかない」

 焦りながらそういう学者へ、私は兄から聞きだした事とあの夢の話を余さず伝えた。

 王宮での使用人とのやりとり、夢の中の様子を。

 もちろん、私が兄の夢の追体験をしたことは伏せておいたが、そのおかげで詳細に夢の話を語ることが出来たことは幸いだ。

「なるほど、では今隣の部屋ではクロさんとビーさんが坊ちゃんの夢を護衛中と言う訳だね」

 夢の護衛だなんて、少しロマンチックだ。

 実際は、そんないいものではないのだけれど。

「妙にビーちゃんが張り切ってたのが、気になりますけど」

 小鳥が、すごくやる気をみせていたように思える。

 あんなに小さな体で大丈夫だろうかと、今更ながら少し心配だ。

「ああ、ビヤーキーは魂に干渉出来るからじゃないかな? 人の魂だけを乗せて宇宙を羽ばたくとかも言われているしね」

 なるほど、それであの自信だったのか。

 相手が兄の魂をさらってあの奈落へと連れ込むのだとしたら、ビーちゃんはその真価を発揮しそうである。

 ザームエルがビヤーキーってなんだ?とぼやいたが、ギルベルトは兄の件の検討に夢中で、それに気付きもしなかった。

 実際、ビーちゃんの正体を知っているのはそう多くない。

 クロちゃんが先にいたからか、風の王の御使いという説明だけで済まされてしまったという事もある。

 黄色い毛玉のようなビーちゃんが、実はすべすべ蝙蝠の羽の持ち主だなんて誰も思わないものね。


「その夢の場所は、いわゆる『煉瓦の壁の向こう側』だね」

「煉瓦の壁の向こう側?」

「悪徳の神が封じられていると言われる場所の表現のひとつだよ。煉瓦の壁の向こう側にある広大な廃墟の地下牢で普段は眠っているらしい」

 あそこは地下牢だったのか。

 最初にいた部屋では稲光が見えていたから地上だとは思うけれど、あの途中で現れた通路で地下牢に案内されたということかしら?

 封じられてるって、誰があんなものを封じたの?

 うんと昔の人?

 それとも他の神様?

 そういえばあの壁の記号の羅列は、悪徳の神を封じるためのおまじないだったのかしら?


 疑問がいっぱい出てくるが、それを知る事は出来ない。

 これ以上、悪徳の神の事を知って親密になりたくないもの。

 悪徳の神について調べる人がみんな、自分に好意があるとでも勘違いしていそうだ。

 自分は出て来れないから、あそこに人を引きずり込むのね。

 もう、あそこから2度と出て来れなくしてしまいたい。

「その場所から、呼ばれて来て『噛みつき男』に憑くんだろうね」

「では、『噛みつき男』を倒せば、悪徳の神を無力化出来るのですか?」

「呼ぶ人間がいなければ、こちらに来れないのは確かだ。『噛みつき男』と『Yの手』を媒介にこちらへ来るのは確かだから、その2つをどうにかすれば当分は平和になるだろうね」


 当分は、か。

 怒られて懲りたりなんかしないのね。

 神様なんだから名前を呼ばれたからって、ほいほい出て来なくていいのに。

 なに?

 なんなの?

 ひとりぼっちでさみしいの?

 ぼっちなのは自分が悪い事をしたからでしょうが!

 まだ怒りが収まってないのか、どうにも叱りつけたくてしょうがない。

 そもそも寂しいなら、自分の信者といればいいじゃないの!

 でも悪い人が信者になるから、その信者が殺人をしたいと願っていたら叶えるということかしら?

 付き合うならもっと性格のいい人を選んで、夜通しカードでもして遊べばいいのに。

 神の身勝手さに腹の虫がおさまらなかった。


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