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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男
354/644

348話 手札です

 私はギルベルトとザームエルが使っている隣の部屋へと移動した。

「ラーラから聞きましたが、昨夜は平和だったのですか?」

「連日の寝不足で僕達はぐっすり眠ってしまったけど、兵士達がいうには敷地の内も外も怪しいモノは現れなかったそうだよ」

 それは兄の悪夢と関係があるのだろうか?

 でも悪夢を見ているのは、今回に限ったことでは無いし……。

「ギル様はどういう事だとお考えですか?」

 学者は何かおかしい事でもあるのかと言うような顔をして答えた。

「僕達が移動したから、まだ追いつけないだけだよ」

「ええ!」

 これは、そんな間抜けな話だったの?

「だって考えてもみなよ。私の場所を知りながら二晩も庭をウロウロしてた輩だよ? すんなりここへたどり着ける方がおかしくないかい?」

 言われてみればそうなのだけれど、そんな単純な理由だなんて。

 事も無げにいうが、これも観察眼のもたらすものなのだろうか?

 確かに能力が低いモノであるとは聞いてはいたけれど。

「神話の生物だからといって、臆してはいけないよ。そんな風に目を曇らせていたら見える物もみえなくなってしまう。しっかりと目を開けて、相手を見極める事が大事というものだ」

 そういわれると、そんな気がしてくるから不思議だ。

 もしかしたら、事が収まるまでこうやって寝所を移動していればいいのではないだろうか?

 わざわざ腰を据えてタウンハウスで迎え撃つ形にしたのは、ギルベルトが単に落ち子を研究したいからなのではという疑問が湧いてくる。

 疑問?

 いや、十中八九それが真実である気がした。


「後、重大な報せがあります」

「おやおや、なんだい?」

「兄が『Yの手』に名前を刻まれたようです」

 これには学者も、持っていたペンを落としそうになった。

「君のお兄さんは、お姉さんだったのかい??」

 驚き過ぎてか、おかしなことを言っている。

「いいえ、正真正銘男です。連日、悪夢にうなされ、『Y』が書かれたカードを受け取ったそうです」

 私の言葉に学者は意外な反応をした。

「素晴らしいじゃないか! 悪夢の内容は聞いたかい? カードはどんなものだった? まさか被害者候補がこんなに近くにいたなんて!」

「ふざけないで下さい! 兄はまだ子供なんですよ! なんで喜ぶのですか」

 憤慨する私をよそに学者は至って真面目な顔だ。


「いいかい? 今まで闇雲に犯人を捜していたけれど、はじめて私達の手元に有利な手札が配られたんだ。身内からしたら不本意かもしれないけれど、これ以上の機会はないじゃないか」

 ギルベルトは意気揚々と語った。

「彼は無力な町娘でもなく、騎士に守られた厳重な館に住む貴族だ。そんな彼をどうやって路地裏に引きずり込むっていうんだい? 村娘でさえ、家に押し入られて殺されることはなかったんだよ。何故君の兄を狙っているのかはわからないけれど、殺す相手としては難しすぎるんじゃあないかな?」

 ふむ、いわれてみればそうなのかもしれない。

 悪徳の神に目をつけられた私達と、『噛みつき男』に狙われた兄がひとところにいるのは、そう考えれば悪いことではないのか。

 合理的ではあるけれど、いまいち釈然としない。

「でも、なんだって若い娘さんから君のお兄さんに趣旨替えしたのかね。『Yの手』の持ち主が趣向をかえたのか、持ち主自体が代わったのか……」

「持ち主が代わる?」


「そりゃあ、物なんだから譲渡されたりしてもおかしくないだろう? でも前回までの被害者を見るに、犯行に満足したとは思えない。怨恨や憎しみが絡まない連続殺人というのは、ある種の快楽や達成感をもたらすからこそ続くものだ。あれだけ遺体を貪って楽しんでいる『噛みつき男』が、今更やめられるなんて到底考えられないよね」

「では、兄は個人的になにかの恨みをかったと?」

「うーん、まあそれも可能性だけれど言っては何だけど、君のお兄さんはまだ子供だよね? 誰かに殺意を持たれるような事をするようには思えないんだ。『噛みつき男』が、誰かに依頼されたとかが現実的じゃないかな? それなら持ち主を変えずに、対象が代わったことに納得出来そうじゃないかい?」

「でもそれって、『噛みつき男』へ誰かが依頼したってことですよね?」

「知らずに頼んだとしたら、すごい偶然と言わざるを得ないなあ。まあ、全部推測にすぎないけれどね」

「お兄上様が狙われる可能性としてはエーベルハルト侯爵家の嫡男でいらっしゃるので、直接的には爵位を狙うもの。間接的にはお兄様を損なう事でご両親、もしくはシャルロッテ様への怨恨を晴らしたいというところですか」

 ザームエルの意見に、ギルベルトが「あーっ」と声を上げた。

「そうだね。その方がしっくりくるかもしれない。爵位狙いだと得する者がわかりやすすぎるし、こんな手間のかかることをするかも疑問だね。だけど嫌がらせとしては最高じゃないか!」

 その言葉に私はぎくりとする。


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