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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男
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347話 お昼寝です

「いいこと? 兄様が狙われているの。悪いものが良くない夢を見せてるのだけど、クロちゃんはそれをどうにか出来るかしら?」

 私は客間に戻ると、すぐさまクロちゃんを捕まえてそう聞いてみる。

 めえ、めええと、どっちつかずな鳴き声が返って来た。

 私が欲しいのは、「よし、任せて!」という力強い鳴き声なのに!

 自信がないのかどうなのか、おずおずとこちらを可愛い眼で見ている。

 まあ、夢を守れなんて霞を掴むような事を言われて困るのはわからないでもない。

 私が無理を言っているのもわかる。

 でもクロちゃんは黒山羊様の御使いで、とってもかわいくてかしこいのだから、何とか出来るような気がするのだ。

 こう夢を食らう獏のように、むしゃむしゃと手紙を食べた山羊ように、悪夢を食べたり出来ないかしら?


 兄には朝食を食べて眠気がきている内に眠ってほしいのだけど、クロちゃんは困ったような感じである。やっぱり無茶が過ぎたようだ。

 そう悩んでいると耳元でびゃっびゃっ!!と威勢のいい声がした。

 そこには黄色い小鳥が、ちっちゃい胸を張っているではないか。

「もしかして、ビーちゃんも協力してくれるの?」

 じゃっじゃっ!!と今度はクロちゃんの頭に飛び移って鳴いている。

 なんて勇ましい姿だろう!

 これは自信ありげだ、期待してもいいのではない?

 きっと、2匹でがんばるという意思表示だろう。

「じゃあ兄様の夢は、あなた達に任せたわよ。お願いね!」


「なんだか不思議だな。仔山羊と一緒に寝るなんてね」

 楽な普段着に着替えてから、兄がいそいそと別館へやってきた。

 何だかんだで悪夢を見る事よりも、仔山羊と昼寝をすることに興味が勝ったのだろう。

 ベッドメイクは済んでるし、クロちゃんは既に枕元に待機していた。

 お昼寝用にセットしたこの部屋で、寝るのを拒否するなんてきっと不可能だ。

「さあ! クロちゃんとビーちゃんの可愛さを堪能なさって! うなされたらデニスが起こしてくれますし、何の心配もありませんわ」

 デニスは自分から寝ている間の番を申し出てくれた。

 本当は夜中もそうやって兄についていたかったそうだが、それはさすがに断られたそうだ。

 まあ、寝てるのを見張ってもらうというのは、中々受け入れがたいところはあるだろう。

 私もラーラに悪い気がしたもの。

 病気で臥せっているわけでなし、原因が怖い夢を見るからなんてルドルフのプライドが許さなかったのもわかる。

 幸いにも昼寝くらいならと、兄も折れてくれたのだ。


 お湯に薫衣草(ラベンダー)桉樹(ユーカリ)の精油を垂らして、部屋はいい匂いでいっぱいだ。

 安眠のラベンダーと浄化のユーカリで、少しでも安らいでもらいたい。

 足湯のお陰で、すっかりハーブの扱いにも慣れた。

 華やかなネルケの香りは好きだけれど、精油の匂いとぶつかるので花の生けてあった花瓶は、すでに部屋から下げてもらってすっかり準備万端だ。

「私は最初、クロさんの事を酷く怖くて夢にまで見てうなされていた頃があるんだよ。それがこうして一緒に寝るまでになるなんて、人生何が起こるか分からないものだね」

 そんな告白をされたクロちゃんはルドルフの顔にスリスリと顔を押し付けて、謝罪するかのように小さくめえ、と鳴いた。

 そういえば、兄は結構長い間クロちゃんを怖がっていたのよね。

 第一印象があれだったもの。

 本当の姿を知っているから仕方なかったけれど、クロちゃんの方は元の姿を知っているからか、余計に兄を気に入ってたのだ。

 遊びたいクロちゃんと怖さを抑え込む兄は結構ギクシャクしたりもしたものだけれど、時が過ぎてすっかり仲良くなったといっても良いだろう。

 ただ、いつまでも兄はクロちゃんの事を「クロさん」と呼んでいるので、馴れてはいても畏怖しているのかもしれない。

 かわいいものはかわいいまま受け入れて「クロちゃん」と呼べばいいのに、律儀な事である。


 じゃっじゃっ!!

 目を合わす兄とクロちゃんの間に、ビーちゃんが割って入る。

「ビーさんも頼りにしているよ。やあ、足がとても暖かいね。ビーさんもお昼寝気分なのかな?」

 小鳥の体温の高さは、不思議な事に何かと眠気をさそうのだ。

 眠たい鳥の足は熱いほどに感じる。

 兄の指に止まってからひとしきり何かを説明するように鳴いてみせると、モゾモゾと首元に移動してくっついている。

 きっと心配するなとかぐっすり眠ってとか言ってるのかしら?

 はあ、なんてうちの子達はかわいいのかしら。

「黒山羊様と風の王様の騎士がそばについてくれているのですもの。どうか、安心なさって」

「我が国最強の騎士達だね」

 私達が声を立てて笑うと、2匹は誇らしげに顔をあげてみせた。

 ドヤ顔というのはこういうことだろう。

「何だか恥ずかしいからシャルロッテは、好きな事をしに行っていいよ」

 私がベッドの横で待機していると、ルドルフは照れくさそうにそう言った。

 見守ろうと思ったけれど妹に昼寝を見守られる図というのは、兄としては微妙なのだろうか?

 兄の悪夢についても学者達と話さなければならないし、この場はビーちゃん達に預けるとしよう。

「では良い夢を」

「ありがとう、シャルロッテ」

 私の退出に合わせて、デニスがカーテンを引いて部屋を暗くした。

 小さなランプに火を付けて、本を読みながら兄の仮眠を見守るようだ。

 退屈しないように、後でお茶でも届けさせるとしよう。



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