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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男
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345話 捕夢網です

 朝食室には既に、ギルベルトとザームエルとラーラがお行儀よく座っていた。

 ラーラは最初同席を辞退したそうだが、私の手作りと聞いて喜び勇んで席についたのだそうだ。

 ザームエルは、エーベルハルトの次期当主と朝食を共に出来る栄誉にうっとりとしている。

 とても現金で分かりやすい人だ。

 最初はそういうところが鼻についたが、それも慣れればかわいいものかもしれない。

 もしかして現金なのは私の方かしら?


 手作りと言っても実際は口を出しただけで、切るのも漉すのも全て料理人達がしたものだけれど、その辺はまあこだわらないことにした。

「これはこれは、お嬢さん自ら料理を振舞ってくれるとは」

 寝ぼけ眼の学者は、あくびをしながらそう言った。

 用意された朝食に満足そうである。

 まあ、この人は食べられれば何でも良さげな気がしないでもない。

 きっと堅パンと水でも腹が満たされれば、充分というのではないだろうか。


 反対に、ラーラとザームエルは感激もひとしおといった感じだ。

「シャルロッテ様手ずからの朝食とは、痛み入ります」

 2人して恭しく料理が並べられるのを、わくわく期待しながら待っている。

 そんな風に期待されると困ってしまうではないか。

「皆さん寝不足ですし、栄養があって消化に良いものを用意しましたわ。どうぞ召し上がれ」

 皆の口に合うといいのだけど。

 心配しながら食事風景を観察していると、最初は見慣れないスープを前に思案したようだが、意を決したように口へ運んでくれた。


「……! これは、爽やかで口当たりもいいですね」

 ハッとした顔で、ザームエルがそう言う。

 彼は他の貴族同様、食にうるさそうだ。

 テーブルでの蘊蓄も多い人だもの。

 そんな人間から良い感想を貰えたのは、嬉しい限りである。

「兄様、食欲が無いのはわかりますが、スープだけでも飲んで下さい。私が兄様の為に用意させたんですよ」

 先ほどは笑ってみせたが、寝不足ですっかり疲れきったルドルフに声をかけると、ようやく匙を持ち上げてくれた。

 妹にそう言われて、断れる人ではないのだもの。

 優しさに付け込むわけではないが、無理にでも食べてもらわなきゃ。

 兄はそっとスープを掬って、口に運んだ。

「本当だ。すごく爽やかなスープだね」

 私がじっと兄の食事を見ていると、そのまま何口か匙を運んでくれた。


「サラダをそのまま飲んでいるみたいだ。とても飲みやすいね。この浮き実のパンも香ばしくておいしい」

 どうやら気に入ってくれたようで、一皿きちんと食べてくれた。

 ほっと胸を撫でおろす。

 子供が食欲が無いなんて、いい事はひとつもないのだ。

 成長期だというのに睡眠不足の上、食欲不振だなんてあってはならない。

 寝るとあの悪夢を見るのなら、悪夢除けの何かはないものだろうか?


「ギル様、悪夢除けに何かいい道具とかありませんでしょうか?」

 私がそう質問をすると、兄が一瞬腰を浮かして止めようとしたけれど、その前に学者が語り出して有耶無耶になった。

「なんだい? 藪から棒に。悪夢や幻覚を見させる呪文はあるけど、悪夢除けねえ。どこかの土地に柳の枝で輪を作って蕁麻(イラクサ)の繊維を撚った糸でその輪に蜘蛛の巣のように糸を張り巡らせて羽飾りをつける捕夢網(トラオムファンガー)という(まじな)いがあると聞いた事があるくらいかな? 何でもその呪具を寝床に掛けておくと、悪夢だけがイラクサに絡んでいい夢は羽を伝って持ち主に降り注ぐそうだ。まあ、今から作るのはちょっと時間がかかるだろうね」

 それは何か覚えがある。

 丸い輪っかに網が張られて羽飾りのついているといえば、ネイティブアメリカンのドリームキャッチャーの事ではないだろうか?

 ネイティブアメリカンは、呪術や呪いに長けた人達であった印象がある。

 もしこちらにもいるなら、それはきっとすごい魔法師のような気がした。

「そんな物があるのですか。さすが学者先生は物知りですね」

 ラーラが感心するのを、何故かザームエルが満足気に見ている。

 親しい人が評価されるのはうれしいことだものね。

 2人とも既にあらかた食べ終えて、フルーツに手を伸ばしていた。

 しっかり食べて備えるのは大事な事だもの。

 腹が減っては戦は出来ぬ、だ。

 私も負けじと口を動かした。


 柳に蕁麻(イラクサ)なんて、確かに調達するのは直ぐには無理そうだ。

 例え作れても、効果を付与する為の作法やおまじないもあることだろう。

 ガッカリしている私に、ザームエルが話しかけた。

「その捕夢網というのは大層効果がありそうですけど、直ぐには手に入らないですよね? それでは守り石を用意するのはどうですか?」

「守り石?」

「ええ、巷では恋愛に効果のある石の嵌った装身具がお嬢様方の間で流行っていますでしょう?」

 そういえばルフイノ・ガルシアがハイデマリーへお詫びとして贈りたいと言っていた薔薇石英と藍柱石はどちらも恋愛のお守りで大人気だとソフィアは言っていた。

 きっとそれの事だろうか?

 私はそういうことにはさっぱり疎くて、すぐには返答出来なかった。


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