336話 ドレスです
「シャルロッテ様がお召しになった魔術儀礼の装束は格式もあるし、女性護衛騎士のドレスとしても流用したいくらいですね」
思い出したというように、ラーラがそう言った。
あれは急に騎士風に変更してしまったけれど、確かに女性騎士には良さそうだ。
今の彼女達にはドレスを着るか、騎士団の制服を着るかの2択しかない。
アデリナのあの装束は丁度、その中間に位置することが出来るような気がする。
評判も上々のようだし、もうひと押し何か流行るきっかけがあれば、女性騎士達に採用されるのではないかしら?
「まあ! そういってもらえるとうれしいわ。あれはアデリナの自信作だもの。でもローブを基本にしているし社交パーティで着るには堅くないかしら?」
懸念といえばそのくらいだろうか?
「丈も長いですし、刺繍のお陰で華やかでした。そもそもが礼装ですし、十分に通用するものだと思いますよ。アデリナ様もそこまで見越しての作品でしょうし。まあ鎖骨周りや胸元を大きく強調したい女性には不向きですが、貞淑な方や首元まで詰まった服装が好きな方もいらっしゃいますし、何より動きやすそうでしたからね。今後流行ってくれると私も便乗出来てうれしいですね」
確かにラーラが言うように、ドレスにはいろいろな形がある。
時代の変遷もあるが、やはり私の様な者たちの発案も影響しているのだろう。
女性の豊かさを表した胸元の大きく開けたものから、可愛らしさを演出する為にフリルやレースをあしらったもの、夜会にぴったりなスレンダーなドレスと種類は多い。
理知的なブラウスやスマートなドレスは仕事をする女性には人気だし、流行によってはハイウエストのゆったりとしたものが好まれたりとドレスカタログに記載されたデザインは山の様に存在し、千差万別である。
その中から自分に似合うもの、夜会やお茶会の趣旨に合うもの、流行から外れていないものを選別していかねばならないので淑女のドレスに対する審美眼はかなり磨かれている。
あの装束をパーティで使うとしたらどうだろう?
ぴったりと体形にフィットしているので足元が窮屈かしら?
ダンスをしやすいようにスリットをつけて中に薄絹やレースをあしらうとか?
アデリナと相談してパーティ用にアレンジするのも悪くない。
もしかしたら彼女のことだ、既に着手しているのではないかとも思う。
「そうね、ラーラが着るとしたら何色がいいかしら? 黒だといかにもって感じだし、やっぱりその赤銅色の髪に合わせて赤色とか?」
もっと装えばいいと思うのだけれど、普段の彼女は騎士服に引っ詰め髪である。
お洒落をしない彼女だけれど、元々は令嬢なのだから軍部に入るまではドレスも着てきたはずだ。
子供時代の彼女はどんな感じだったのかしら?
きっとフリルに埋もれた時もあったはずだ。
堅物な彼女の着飾った姿を、出来ることならこの目で見てみたいものである。
「赤色だと目立ち過ぎますので、深緑色が好ましいですね。あくまで護衛対象が主役ですので、失礼にならない程度の地味なものがいいです。いうなれば壁の花が理想的ですね」
最もらしく言っているが、その答えに私は呆れてしまった。
この女騎士は骨の髄まで軍人で、自身が着飾る事を良しとしないみたい。
壁の花とは、舞踏会で誰にもダンスに誘われない淑女を侮蔑する言葉だ。
練兵場であった、あの無礼なハンプトマン中将一味を思い出してしまった。
あんな風にラーラを貶めるなんて本当に許せない。
かわいい娘がそんな目にあったら誰だって目くじらを立てるだろう。
そもそも紳士ならば、ひとり寂しく壁際に佇む女性がいるならば声を掛けるべきでは?
そこまでの気遣いが出来て、1人前の紳士と名乗れるのではないかしら。
いや、それは男性に求め過ぎというものか。
ひとりでパーティに出席する淑女はいないのだから、そこまで憤る事はないのだけれど、つい親の気持ちになってしまったら腹が立ってしまった。
ラーラとの会話に若干のズレと疲れを感じたけれど、女同士が寝室で寝る前におしゃべりしてるのだから、もっと浮かれた話が出来るものと期待していた。
こう、なんというかふわふわした会話?
確かに彼女はまだ護衛の仕事中かもしれないけれど、でも私は寝間着を着ているのだしこれはパジャマパーティの1種と言っても過言ではないのに!
能天気かもしれないけれど、寝室で寝るまでおしゃべりなんて中々出来る事ではないからちょっと楽しみにしていたのだ。
恋バナまでは言わないけれど、私はラーラの女性の部分の話がしてみたかったのだ。
いつも仕事一辺倒なのだし、たまにはそういう時間があっても悪くないと思うのだけど。
私はしょんぼりと、失意のまま枕を元に戻してシーツに潜った。