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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男
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330話 夏の料理です

 晩餐は4人なので、広い晩餐室ではなくやや小ぶりの部屋に用意してもらった。

 貧乏性と言う訳ではないけれど、広すぎる部屋とテーブルは親しく会話するには客人との距離が遠く感じるのだ。

 卓上花やテーブルクロスは寒色でまとめられて、少しでも涼し気に感じる様に演出されている。

 夏の料理らしく冷製のコンソメに冷やした野菜のムースやテリーヌ等が運ばれてくる。

 料理人が、暑さに負けぬようにと心を砕いて準備してくれているのだろう。

 どれも、冷たくてあっさりとして口当たりのいい品々だ。

 口当たりもつるんとしていて、おいしく食べられる。


 これもいいものだが、この間食べたがつんとニンニクの効いたグローゼンハング料理が少々恋しくなった。

 塩を聞かせてトマトの酸味と旨味が上手く扱われていて、見るからに元気が出て食欲をそそる料理だったのだもの。

 今度レシピをお願いしようかしら?

 一品でも食が進む料理が並べば、つられて他の皿にも手を伸ばすものだ。

 土地によってこうまで料理は変わるのだから、食というものは不思議で魅力的である。

 日本という国は、本当に食に恵まれていたと思い返す。

 1週間、毎日3食違うメニューだってあの国では可能なのだ。

 毎日同じ味付けは飽きてしまう。

 あまり比べたくはないが、こればかりは仕方ない。


 ふと、兄の皿を見ると料理をつつくだけで、あまり食べてはいないようだ。

 疲れているのなら尚更栄養をとらないといけないというのに、大丈夫だろうか?

 でも、無理に食べるのも体には良くない気もするし……。

「兄様、お食事が進んでいないようですが大丈夫ですか?」

 ぼんやりとしていたのか考え事をしていたのか、私の声に少し驚いたようだ。

「あ、ああ。ちょっと暑さ負けしているのかな。食欲もあまりなくて」

 心ここにあらずといった感じだ。


 これがハイデマリーへの恋心でとかならいいのだが、どうにもそういう色気のある感じでもないらしい。

 確かに暑いけれども、湿気はそこほどないので室内や日陰は比較的過ごしやすいというのに夏バテをする程かしら?

 もしかして、騎士訓練で日向に長い時間いたとかかしら。

 夏バテといえば、思い出した。

「こんな時こそ、この間兄様が差し入れて下さったレモンパイの出番ではなくて?!」

「そうかもしれないね。明日人をやって買ってきてもらうのもいいね」

 その言葉に胸が躍る。

 あれは、すごくおいしかったもの。

 私はその提案に飛びついた。

「是非、そうしましょう! ギル様とバウマー様にも食べていただきたいわ!」

 私の勢いにみんな押されたようだが、紳士的にそれは楽しみだと流してくれた。

 学者も助手も、そこほど甘い物好きではないのだろうか?

 ここに同好の志がいたら、もっとレモンパイの話が出来たのに残念なことである。


 夕食は元気の無い兄を気遣ってか、生来のおしゃべりなのかザームエルが張り切って話題を提供してくれたお陰で和やかに終わった。

 本来なら、ホストである兄が2人を娯楽室へでも誘って食後の時間を楽しむところだが、兄もまだ未成年であるし、本調子ではないということで学者も助手も辞退したのだ。

 そういうところは、大人ならではである。

 無邪気に学問に勤しんでいるだけではないのね。

「ではお言葉に甘えて、私は先に休むとしよう。別館では好きに過ごして下さい」

 申し訳なさそうにそう言うと、兄は自室へと引き上げた。

 普段ならこんな素っ気ない事はないのに、大分お疲れのようだ。


 レモンパイも結構だが、何か食べやすくて栄養のあるものを用意してあげようかな。

 私は記憶を辿りながら、何がいいかを思案した。

 夏と言えばやはり冷やし中華?

 中華麺は手に入らないから小麦粉でうどんを作って冷やしうどんとか……。

 いっそ細いパスタでもいいか。

 いや、出汁と醤油がないから再現は難しいか。

 本当に調味料というのは偉大だ。

 ウェルナー男爵領で料理人のダリルが作ってくれたトマトソースの蕎麦もいいかもしれない。

 トマトといえばガルシアの晩餐の食事に添えられた飲み物のサングレは美味しかった。

 煮きってアルコールを飛ばした赤ワインに浮かぶみずみずしい果物。

 赤い色は食欲を唆る気がする。

 トマトなら栄養もあるし何か作れないかしら。

 それともフルーツサラダとか?

 そんな事を考えながら、別館へと移動した。



「とりあえず、ここが悪徳の神対策室とでも呼ぼうか」

 ギルベルトが割り当てられた客室の居間のテーブルの上に、機嫌よく梱包された箱から資料や本を取り出している。

 無造作に置かれたそれをザームエルがテキパキと分類して、サイドボードに並べるのをみると割れ鍋に綴じ蓋ということわざを思い出してしまった。

 もしかしてギルベルトの人付き合いがもう少しマシだったら、ほおっておいても2人は友達になれたのかしら?

 2人のやり取りを見ていると、そんな気がして微笑ましくなった。




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