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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男
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329話 シーズンの過ごし方です

「アインホルン殿、バウマー殿、ルドルフ・エーベルハルトが両親にかわって歓迎いたします。ようこそエーベルハルトのタウンハウスへ」

 本館の玄関で、兄が客の2人を迎えた。

 初日の夕食はそちらで取ることになったが、同席するのは兄だけだ。

 社交シーズンなので、両親は夜会に出掛けている。

 この時期は貴族同士の付き合いを深める大切な期間なので、家族全員が一緒に食事をとることは稀である。

 領地のカントリーハウスでは、父の仕事の都合で不在の場合は除いて家族全員が食卓を囲むことは頻繁にあったが、王都に場所を変えるとそれはガラリと変わる。


 大人たちの間では夜には宴が、昼には昼食会やお茶会があり、高級酒場(サルーン)で紳士同士の付き合い等大忙しだ。

 活動的な人は早朝に公園の馬場で朝駆けしながら歓談と、一日中王都のどこかで誰かが会合している状態だ。

 それにつられて王都は賑わいお祭りのように活気づくのだ。

 大体の貴族は深夜まで夜会を楽しんだ後、馬車で帰宅し昼前に起きてまた出掛けるという遊びなのか苦行なのかもわからない一見ただれたスケジュールをこなしている。

 酒を飲んで会話をして、ダンスに勤しみ親交を深めながら謀略を嗜む。

 それが貴族の外交的な仕事なのだ。


 そういう事もあって、家族といえど大人と健全に日中を過ごす子供が顔を合わすのは稀である。

 大体は乳母や執事達と過ごし、昼間に子供の集まりがあれば出掛けるくらいか。

 私がずっと王宮で過ごすことになっても、あまり家族が反対しなかったのはそういう事情もあった。

 そんな訳で兄が両親不在時の館の主を務めているのだが、少々顔色が悪いようだ。

 夏の来客がそんなに頻繁にあったのか、それとも王都学院の方の付き合いで困憊しているのか?

 大人と違って兄は社交シーズンであちらこちらに顔を出す必要はないけれど、やはり次期侯爵ともなると誘いも増えて違うのかしら?

 そういえばガルシアとの晩餐の夜も兄の言動に余裕がなかった感じがしたのは、疲れからだったのかもしれない。

 兄とはいえまだ子供なのに、私の事で心労をかけることがあるなら気を付けないと。

 なんだか申し訳ない気持ちになってきた。


「兄様だいじょうぶですか? お疲れの様子ですが」

「ああ、少し寝不足でね。大丈夫だよ、シャルロッテ。こちらへ帰るなら言ってくれれば迎えに行ったのに」

 兄も大人達のように、何か夜更かしでもする事があったのだろうか?

 既に夜会に参加しているとか?

 いや、いくら何でも成人前の子供を夜会に呼ぶ人はいないか。

 学者と助手と兄、男3人が眠そうで疲れているのは、ちょっとおかしな感じだ。

 反面、私やラーラは元気である。

 ラーラも昨夜は寝ていないようだが、日中仮眠をとったらしく外見からは疲れはみられない。

 やはりサバイバルに長けているだけあって、体力も十分なのだろう。

「今回は急に決まった事なので、直接帰ってきてしまいましたわ。使いは出しましたけど客室の準備ありがとうございます」

「ああ、客間は普段から皆が整えていてくれるから大した手間はなかったよ。何はともあれおかえり、シャルロッテ」

 王宮で会ったばかりだけれど、やはり家で迎えてくれるのは違う。

 使用人は見知った者ばかりだし気楽なものである。

「ただいま、兄様」

 館に一歩踏み入れると、安堵感を感じる。

 先ほどの話ではないけれど、自分の縄張りに戻ったようなそんな気持ち。

 王宮よりもタウンハウス、タウンハウスよりもカントリーハウスがよりくつろげる場所だ。

 贅沢な話かもしれないが、やはり貴賓室は王宮で用意された部屋だし、馴染んだといっても自分の家以上とは思えていないのかもしれない。

 もっと何年もあそこで過ごしたら、変わっていくのだろうか。



 夕食のテーブルについたのは学者と助手、兄と私の4人である。

 ラーラは護衛の打ち合わせで、別室で兵士達と夕食だ。

 彼らには体力をつけるために、エーベルハルトの料理人が腕を振るった特製のこってりした味付けの肉料理が出されていることだろう。

 実際、旅の間でも騎士達がバテて食事が喉に通らないということは一度もみなかった。

 それだけ訓練を積んでいるのだろうし、過酷なのだろうか。

 たくさん食べて、たくさん動く。

 とても健康的だが、中々見習うことはむずかしい。


 アリッサといえば堅苦しい食事は嫌いなので、たぶん調理場で食事をもらっているのだろう。

 自由きままな彼女は私の風変りな側仕えとして館の皆に認識されている。

 神話の生き物となった彼女に人間の食事が必要なのかはわからないけれど、味もわかるし満腹にもなるようだ。

 彼女が調理場に出入りするのは料理人や使用人も慣れたものらしく、一緒に食べたりしているらしい。

 黒衣の貞女のままではそんな真似は出来ないので、食事の時はただのアリッサに戻るのだ。

 イメージを守るのは大事なことだもの。

 アリッサと貞女を別人だと思っている料理人達が、そのうち滞在中の貞女の食事に疑問を持つかもしれない。

 だけれど、きっと清貧を尊ぶ教会の人間なので修行の一環で粗末な携帯食で済ましていると勝手に判断してくれているのだと思う。

 1人2役なんて、私にはとても出来ない。

 今、館で殺人事件が起こるとしたらアリッサは犯人役を割り振られてしまうだろう。

 なんだかTVで見たサスペンスドラマの様で、どんなトリックがいいかしらと想像してしまった。



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