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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男
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327話 野望です

 今の彼は救国の学者と世間では呼ばれ、一目置かれる存在である。

 ヨゼフィーネは長い間、貴族の中では「アインホルン伯爵夫人」であった。

 あるいは、「変人学者の母」と陰で呼ばれる事もあったそうである。

 私がその場にいたなら、そんな事を言う人の顔をひっぱたいているところだ。

 そんな彼女は今は「救国の学者の母」ということで、今ではどの場へ出ても歓迎される人気者のひとりとなったのだ。

 彼女を裏で笑っていた貴族の婦人達は、さぞや悔しがったことだろう。

 論文1本で国を動かし人々を救う偉業を見せる青年は、そうそう現れる事はないのだから。


 いつだったか、そういう輩の話に及んだ時にヨゼフィーネ夫人が言った事がある。

「でもね、シャルロッテ様」

 周りには聞こえないように扇で口元を隠しながら、私に耳打ちした。

「私は『アインホルン伯爵夫人』でも『救国の学者の母』でもなく、ましてや『変わり者の学者の母』でもなく、私自身を見て欲しいと野望を持っているのよ」

 そういって、ふふっと笑ってウィンクをする彼女はとても可愛らしかった。

 いつも夫や子供の影に隠れてしまっているが、彼女はそう思うに相応しい活躍をしているのは確かだ。

 誰かの付属品ではなく、ひとりの人間として毅然と立っている夫人。

 そう自覚して言える彼女だからこそ、私は尊敬してやまないのだ。



 王都のタウンハウスは領地のカントリーハウスより狭いといえど、私から見れば十分広いものである。

 使用人用の家屋もあるし、そんなに使い道もないだろうと思われる別館も存在しているのだ。

 今回は別館の2階の客室フロアにギルベルトとザームエルを、その隣の部屋を私が使う事にした。

 1階はホールやサロンに娯楽室等の社交に使う部屋ばかりで、宿泊に使える部屋がないからだ。

 反対に、高所の方が落ち子の接近を阻めるかもしれないが、それだと警備の配置に人数が割かれてしまう。

 ラーラは物理攻撃が効くのなら戦力を分散させずに、制圧する方を選んだのだ。

 別館の方が人も少なく、警備がしやすい。

 落ち子が目指すべき部屋は隣同士だし、窓側の庭と扉側の廊下を守れば、万一家屋へ浸入されても大丈夫だろう。

 後は向こうからやってくるのを待つばかりという訳だ。

 敷地外も王都の衛兵が巡回する手筈になっている。


 顧問室での会談からまだ2日しかたっていないが、学者と助手が研究棟で宿泊したところやはり落ち子は現れたが、ウロウロするばかりでこちらの正確な位置をわかっていないようだった。

 そちらは前回と同じくアリッサが片付けてくれて、事なきを得たそうだ。

 私の方に至っては白い影が王宮の庭を這いずっていたのを見た者もいたがしっかりと視認はされず、どこかへ隠れてしまったそうでラーラは不満な様子である。

 わかった事と言えば、どちらも現れたのは夜半であるということぐらいか。

 日中は存在が不確かなのか、ハッキリとしていないのかもしれない。


「いやあ『黒衣の貞女』の身体能力と言ったらさすがとしか言えないね。せっかくの落ち子なのだからじっくり見たかったけれど部屋から出るなと言われるし、遠目じゃ白い芋虫にしか見えなくて残念だったよ」

 ギルベルトが別館に着くなり、あくびをしながらぼやいた。

 ザームエルも寝不足の様で、どうやら2人で落ち子の出現までがんばって庭を見ていたのだろう。

 助手の方は遠目とはいえ異形を見たせいか、憔悴した様子だ。

 ギルベルトに付き合ったとはいえ、気の毒話である。


「アインホルン殿とバウマー殿の部屋には王国見聞隊から護衛を配置しましたので、就寝時などお気になさらず普段通りお過ごし下さい。シャルロッテ様の部屋には私が詰めます。庭には黒衣の貞女が、他にも要所要所に人員を置きますので、どうかご安心を」

 ラーラが、テキパキと護衛の配置をしていく。

 脳筋に思える彼女であるが、意外にもそういう仕事をそつなくこなすのだ。

 戦略などは私にはわからないけれど、将来はいい将軍になるのではないだろうかと思っている。


「そういえば何故、落ち子は館や部屋の中には現れないのかしら?」

「存在が薄いから、人の縄張りに押し入れないのかもしれないね」

 私の素朴な疑問に、ひどく曖昧な言葉が返ってきた。

 私の表情を見て、説明を続けてくれる。

「縄張りと言えばわかりやすいかな? 聖域というものは知っている? 神域ともいうけどまあ聖なるものの敷地ないには悪しきものは入れない。ウェルナー男爵領への道行きで小さな村に立ち寄る時に、よその土地に足を入れる事の不安を感じたことは?」

「ええ、それはありますけど」

「村や領地の境界線には境石が置かれて線が引かれているよね。自然、他所の人間はそこに無断で踏み入るのを無意識に避けるようになるんだ。何らかの理由で入る場合は後ろめたさを感じる。だって、そこは誰かのものでそうでない自分には居心地がわるいからね」

「たしかにそうですわね」

 高い塀や、仕切りがなくても人の家の庭に勝手に入ろうとする人は少ないだろう。

 ましてや明確に線引きされているのなら、用がないのなら踏み入らない。

 それが怪異にも適応されるとでもいうのだろうか?


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