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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男
330/644

324話 矜持です

 その日は情報を共有して解散となった。

 学者と助手には続けて黒衣の貞女が付き、私はラーラを呼んで周辺の警戒を言い含る。

 悪徳の神の名を出す事は出来なかったが、ある神の落ち子が出現する可能性とそれは武力で制圧が可能だという話をしておいた。

 目の無い白い赤子と子供であるが、それは人ではなく打破すべき邪悪であると。

 実際に私が何かされた訳ではないので邪悪と言い切ってしまうのは違うような気がしたが、人に噛みついて命を損なう生き物なのだからそこは遠慮なく表現させてもらう。

 私の話しぶりから何かを察しただろう彼女は、腰に下げた剣の鍔を一度鳴らして不敵な笑みを浮かべていた。

 不可思議なものに彼女の剣が通じるか腕試しがしたいのか、剣の主の前で活躍する場を望んだのか、それとも両方なのかもしれなかった。


 彼女はおしろさんとドリスの件で、人の無力さを味わっていた。

 過酷な部隊への志願までした彼女なのだもの、それは耐え難いものだったに違いない。

 人間が神話の生き物と同等に戦えるわけではないのは、彼女も重々承知してはいるだろう。

 それでも彼女には彼女の矜持というものがあり、騎士たらしめるものがあるのだ。

 敵わないとわかっていても、その剣を握るのをやめはしない。

 黒山羊様から「清き手」を授けられた今、どこまでそれが通用するかを試したいのはわからないでもなかった。

 ラーラの期待をよそに、アリッサの話では悪徳の神の落ち子は、私のそばには寄れないだろうと言っている。

 護衛が付いていているから私に近付けないというわけでなく、単純にシュピネ村でアトラクナクアの遣いの蜘蛛達が私の視界に入れなかった事と同じということだ。

 黒山羊様の加護のお陰ということだろうか?


 それでもその範囲はわからないし何故警戒するかというと、悪徳の神の落ち子が関係ない人達へどんな被害をもたらすのかがわからないからだ。

 アリッサは見つけたら踏み潰せばいいと言っていたが、何も知らない一般人がそれに出会ってしまっては実害は出ると考えていいだろう。

 目の無い赤子の群れとばったり道で出会ったりしたら、普通なら取り乱す事は必至だ。

 悲鳴を上げて逃げるのならばいいが、間違えて噛みつかれたり驚きのあまり心臓発作など起こすようなことがあれば寝覚めが悪いというものだ。

 実際、落ち子を私は見ていないのでわからないけれど、とりあえず周りに迷惑をかけないようにしなければ。

 王子に断って、いっそエーベルハルトのタウンハウスにしばらく移るのもいいかもしれない。

 学者達を貴賓室のある私と同じ棟に滞在させるのは無理だもの。

 それならギルベルトとザームエルも侯爵家へ泊まらせて、警護を1箇所にする方が安心だ。

 真相を知ったら王子はまた怒るだろうけど、相手は神の使いなのだから、事情をしらない王宮の人達を巻き込むのはいい事ではない。

 そう思い立って、すぐに王子に面会を申し込んだ。


 新王宮の王子の執務室に私は来ていた。

 青い絨毯に青のストライプの壁紙。

 調度品はどれも歴史を思わせるもので、そこにあるものを鑑賞するだけでも時間をつぶせそうな設えである。

 机の上には印章や羽ペンにインク瓶が置かれていて、普段そこで王子としての執務に勤しんでいるだろうことがわかる。

 私より年上とは言え、まだ子供とだというのに立派なことだ。

「一時的に居を移したいというのは、巷を騒がせている事件のせいなのかな」

 私の申し出に、王子は先廻りしたようにそう問う。

 王国見聞隊の方から何か話が伝わっているのかもしれない。

 見聞隊の人は悪徳の神についての事は王族の身の安全を考えて、概要しか伝えないと聞いていたけれどどこまで聞いたのかしら。

 こんなにすぐに用件に入るとは思わなかったので、思わず目が泳いでしまった。

 久しぶりに家族と過ごしたり、友達との約束があるとごまかすつもりだったのに、こう聞かれてはにべもない。

 ノルデン大公の件の時もだし、他の時もそうなのだがこの王子は洞察力というか人の考えを見抜くようなそんなものが備わっているような気がする。

 生まれついてのものなのか帝王学がもたらしたものかはわからないが、一筋縄ではいかないのは確かだ。

 普段は穏やかで優しい人なのだけれど、それはまるで鞘に納めた鋭い刀身のようなもので舐めてかかると、ギラリとその刃を見せるのだ。

 そうなるともうごまかしは効かないし、交渉術を持たない私にはお手上げである。

 口ごもる私に、王子が笑いかけた。

「何も頭ごなしに怒ったりするわけでもないし、君の思っている事を言ってごらん」

 諭す様にそう言われる。

 こうなるともう王子の独壇場で、私は白状するほかなかった。

 私が唯一叶わないと思うのは父でも母でもなく、この少年だ。

 末恐ろしい王子である。


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