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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男
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317話 やりがいです

 ザームエルの苦労話にギルベルトはうんうんと頷いて、あの時は君にお世話になったねえと労ったり、後援者との面談は君がいなければ僕は何も出来なかったよと自分の無能さを前面に出しながら彼を褒め称えたりもしていた。

 それは決してお世辞ではなく、ギルベルトの本心からの言葉であるのがわかる。

 飾らないギルベルトの資質が、うまくかみ合っているのだろう。

 学者からの心からの賛辞がザームエルの角を取ったように思えた。


「三流学者で終わると自分の事を見限っていましたが、ギルの助手になって初めて研究というものを楽しむことが出来るようになったんですよ。私は知識の海に飛び込んで目的のものを探すのが上手いんです。神話の生物については私も門外漢でしたが、なかなか興味深くて面白いし何より第一人者が隣にいるわけですから、一から学ぶにしても恵まれております」

 前にギルベルトがザームエルの能力に言及していたが、本人にも自覚があるのだろう。

 目的のものを掘り当てる才能を地位の確立のための盗作に使ったのは褒められはしないが、それは確かに才能のひとつだ。

 元から、学術的な補佐の役目や司書や秘書に向いている気質だったのだろう。

 自ら何かを成し遂げる事はなくとも、すでにあるものを理解し磨き付加を与え管理するのに長けているのだ。

 優秀であっても寄る辺が無ければ、真価を発揮出来ない彼はギルベルトと出会って水を得たのだろう。

 少々高慢なところはまだ見受けられるが、それがありのままの彼なのか前回の様に鼻に付かずそれが彼の魅力となっている。

 魅力というか、芸風というほうが良いだろうか?

 アリッサが、ザム坊ちゃんと親し気に呼ぶのはそういう好ましさがあるからに違いない。

 ギルベルトは彼を信頼しているようだし、ザームエルも助手の仕事に手腕を振るいやりがいを感じているのだ。

 お互いを認めて、尊重しているのがわかる。

「私が王宮に出入りする許可をエーベルハルト令嬢からも出していただいたそうで、こちらでのギルの仕事の補佐もお任せ下さい! いやあ、王宮に出入り出来る名誉を得るのが私の夢だったので、こんな形で叶うとは思ってもみなかった」

 頬を上気させて、ほくほく顔をしている。

 うーん、夢が叶ったって言っている訳だから、私が冬越会で権力を振りかざしたのは不問ということでいいのかしら。

 とにかく若者が生き生きと仕事に取り組むことは、良いことである。


「そういえば、元々バウマー様は何の学問を専攻されていらっしゃったの?」

 神話生物は門外漢だというからには、畑違いなのは間違いない。

 貴族受けの良い歴史とか紋章学とかかしら?

「比較言語学です。いろいろな国の異なる言葉の親縁性や類似性を比較する学問ですね」

 思ってもみない返事だった。

「彼はいくつもの国の言葉を操れるんだよ」

「おい、ギル。そんなに褒めるなよ。いやあ、操るといっても挨拶程度でほとんど辞書に頼り切りですよ」

 照れながらも得意げだ。

 神話生物の痕跡を明かすのに必要な古代語ならともかく、これはまったくギルベルトの研究分野とは違うのではないか。

 外国の言葉に明るいなら外交官の道もあるだろうに、また後ろめたくなってきた。

「ギル様の助手となって、後悔はありませんの?」

「ははは。ただ、向いているからそれを選んだだけなのですよ。貴族の皆様には異国の言葉など受けがいいですから。それよりも、ギルの助手の仕事はやりがいもありますしね。研究もさることながら彼の貴族との付き合いを広げたりするのは、とても自分に向いています」

 言葉の後半で彼は少し謙虚な笑みを浮かべたような気がした。

 それは転換を与えた私への感謝だったのか、盗作をしていたうしろめたさからくるものだったのかはわからないけれど、今に満足しているのは間違いなさそうである。


「そうそう、比較言語と言えば面白い事が見つかりました」

 少々興奮気味に言うところを見ると、彼は自分の発見に自信があるのだろう。

「お嬢さんへ新しい報告が出来るのは、ザムのお陰なんだよ。だけど本当に君に伝えていいか迷っている。知らないという事が身を守ってくれるのだからね」

 報告ということは、悪徳の神についての新しい何かだ。

 やはり彼らは目を付けられたのだ。

 その内容を聞く前にソフィアと他の使用人を呼ぶまで入室しないように、人払いをした。

 私も聞いては危ないのは重々承知であるが、こちらにはラーラとクロちゃんとビーちゃんがついている。

 他力本願なのは自分でもわかっているけれど、出来る事はしたいのだ。

 あの神の名前を知らない限りは周辺まで近寄って来る事はあっても、正確な場所を嗅ぎつける事は出来ないのではないか?

 何より巻き込んでしまったのは私なのだから、危ないから知らんぷりしようというのは無理な話だ。

 そんな風に生きるのならば、ここにいる意味がないような気がした。



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