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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男
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315話 謝辞です

 悪徳の神について新しい発見があって、それが呼び水になったと考えるのがいいだろう。

 この間の話では資料が少ないと言っていたから、こんなに早く目を付けられるとは思っていなかった。

 半信半疑ではあったけれど、注いだ水がコップから溢れるように、ある基準を満たすと目を付けられるということなのだろうか。

 それとも過ぎた好奇心が呼ぶのかしら?

 向こうは手ぐすね引いて、いつでも人と関わりたいと思っている神なのだ。

 少々油断が過ぎたのかもしれない。


 アリッサが退治した赤子と子供というのは、きっと邪神の落とし子なのだろう。

 黒山羊様の使いが仔山羊のように、悪徳の神の使いだと考えればおかしい話でもない。

 邪神そのものが、すぐに来るのではなくて良かった。

 きっと、あの神の名前はわかっていないのだ。

 名前を知って口にしたら、あれらはこちらへ飛び掛かってくるのかもしれない。

 知る事がこちらへの引き金になるなんて、相手にするには悪すぎる。


 学者を巻き込んでしまった事は申し訳ないが、かといって自分で調べるには資料も手も足らなかった。

 依頼した時はそんな事は知らなかったのだ。

 すぐに手を引かせるべきだったのかと逡巡する。

 いや、私が止めても遅かれ早かれ学者は今回の事に着手したかもしれない。

 後悔は何の役にも立たない。

「アリッサ、ありがとう。あなたがいなかったらと思うとゾッとするわ」

「ああいうのの相手は私ですからね。気にしないで下さい。まあちょっと踏み心地が悪いんで、それは嫌だったかも。でもあの様子じゃあ、ギル先生を見つけるには、まだまだ時間がかかりそうでしたけどね」

 そういうとアリッサは、ケタケタと明るく笑った。


「昨夜はギル様は、研究棟に詰めていらっしゃったの?」

「そうそう、何か本を手にしてザム坊ちゃんと2人で興奮してたみたい? 窓の外からだったから詳しくはわからないけど」

 やはり、何か発見したのだ。

 学者の事ばかり考えていたけれど、手伝っているザームエル・バウマーも狙われていたのではないか?

 2人は同じだけ悪徳の神について知っているはずだ。

 今日、私が話を聞けば私も知りすぎてしまうのだろうか。

 かといって、聞かずにいることは出来ない。

 自分だけ安全圏にいるわけにもいかない。

 ああ、好奇心は猫を殺すのだ。

 アリッサはともかく、ソフィアには席を外してもらわないと。

「いっぱいやっといたんで、当分は静かかもしれないですよ」

 私の不安をよそに、アリッサはしれっとそういった。


 約束の時間に間に合うように、旧王宮の廊下を進む。

 アリッサは既に黒衣の貞女の拵えをきちんと身に着けて、私の斜め後ろに従っていた。

 扉をノックすると中から返事が返ってきて、内側からソフィアが開けてくれる。

 先に、彼女を手伝いに向かわせたのは正解だったようだ。

 顧問室はいつもよりも磨かれて、客を迎えるのに相応しくお茶の準備もされていた。


「いらっしゃい! 待っていたよ」

 ギルベルトが笑顔で迎えてくれる。

 その後ろには、緊張した面持ちの青年が、少々顔を青くしながら立っていた。

「見知っていると思うけれど、彼が僕の助手ザームエル・バウマーだよ」

 堅苦しい事が嫌いな学者が、とても簡単な紹介をしてくれる。

 1度会話をしたとはいえ、あの時お互い名乗りはしなかったので、ありがたい。

「ご紹介に預かりましたシャルロッテ・エーベルハルトですわ」

 ここは紹介の仕方に合わせて、簡単な会釈にしておいた。

「ザームエル・バウマーが、エーベルハルト侯爵令嬢に拝謁いたします。父はバウマー伯爵領を治めております」

 前回、厳しい事を言ったせいか直立不動で堅苦しい挨拶が返ってきた。

 まあ、慇懃無礼に嫌味を言ってしまったのは、私なのだから仕方がないか。


「もっと、楽になさって結構ですわ。ギルベルト様をよく助けていらっしゃると聞き及んでおります。幼い私の願い事を叶えて下さって、ありがとうございます。ザームエル・バウマー様には感謝を」

 ギルベルトの面倒を見てもらって謝辞を述べるなんて、やっぱり私は彼の母親みたいで苦笑した。

 私がそう褒める言葉を口にしたとたん、水を得た魚の様にザームエルは生き生きとしだす。

「感謝なんて、とんでもない! エーベルハルト侯爵令嬢のお陰で私は『救国の学者ギルベルト・アインホルン』の助手になれたのですから! こちらこそお礼申し上げます。私が! 彼の助手なのです!」

 大仰に手を広げて、とても誇らしげだ。

 どうやらギルベルトの助手というのは彼の意に叶う名誉なものだったようだ。

 「救国の学者」なんて呼ばれ方をしているとは、全く知らなかった。

 ヨゼフィーネ夫人もまさか子供がそんな称号を付けられるとは思ってもみなかったことだろう。

 私と助手のやりとりに、ギルベルトが呆れた様に笑いを浮かべている。

 世辞の応酬など、彼にとっては苦手なものだもの。

 普段の私と助手それぞれを知っているので、学者の目には喜劇のような一場面に映っているのかもしれない。


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