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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男
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314話 目を付けるです

 ナハディガルも事件の余波を受けてか、最近は忙しくしているようで顔をこちらに出すことがない。

 王宮の護り手である宮廷詩人は、人々の憂いを祓う為に詩を歌い曲を奏でながら場を清めて歩いている。

 詩人が大人しく仕事に勤しむのは、私にとっては平穏で何よりだが、それは反対に王国内に困難があるという事実なのは皮肉な事であった。


 王都では騎士や見聞隊、衛兵等が大勢この事件に当たっている。

 それを嘲笑うかのように、噛みつき男の殺しは止みそうにない。

 そもそもどこから始まっているのか?

 コリンナが知る事件が最初であったのだろうか?

 何にでも最初があるはずである。

 あの「Yの手」を思わせる事件や伝承が各地に点在したように、この連続殺人が王国以外でも行われていたのではないか?

 情報の伝達が分断されているせいで、実は関連のある事件が他で起きているのではないだろうか?

 この王国では無く、他の土地で始まったのではないか。

 俯瞰で見れば犯人の素性や諸々が簡単にわかりそうな気がするのだけれど、情報を拾い上げる人の手の少なさがネックである。


「おいしい……」

 アリッサはソフィアの入れたミルクティを大人しく座って飲んでいた。

 猫を被った様におとなしい。

 それはあたかも、言いたい事まで飲み込んでいるような感じである。

「ソフィア、ギル様の王国見聞隊顧問室へ行って部屋の準備をしてもらってもいいかしら?」

 いろいろあって学者との次の面会は、旧王宮のギルの部屋で行われることになった。

 聖女の間へ通すと、ただでさえ五月蠅いザム坊ちゃんが舞い上がってしまうからとのアリッサからの助言故だ。

 見栄を張りたい若者の事を考えれば、こちらが単なる挨拶がしたいだけでも「聖女の間へ招待された」と取るだろう。

 それを周りに吹聴されては、尾ひれがついて関係を勘ぐる人も出てきそうだ。

 相手は口が軽くよく回る人物がなのだから、確かにギルの顧問室で挨拶したくらいのあっさりとした事実の方が良い気がしたのだ。

 ソフィアはまだお嬢様の朝食の最中なのにと少し不満げな顔をしたが、すぐにギルベルトには侍女も侍従も付いていない事を思い出したようだ。

「そういえば、あの部屋ではお茶のひとつも出たことがありませんでしたね。アインホルン様も、もうちょっと使用人の使い方を覚えればいいのに……。お食事が終わるくらいの時間に、こちらに誰か寄越しますね」

 温めたスコーンやクロテッドクリーム、卵料理に煮豆など料理は既にテーブルには並んでいるし、お茶のおかわりのティーポットには冷めない様に厚目の布で作られたティーコージーが被せられている。

 カットされたフルーツも皿に盛られて十分な朝食だ。

 当分、この部屋で人手がかかることはないのを確認してからソフィアはドアノブに手をかけた。

「あ! アリッサ、お嬢様はそれ程朝食は食べないから料理は遠慮なくいただくのよ!」

 大人しくしているアリッサを気にしたのか、そう声を掛けるとソフィアは顧問室へと向かった。


「ソフィアは優しいよね」

 ふふっと笑ってアリッサは呟く。

「ええ、とても気持ちのいい子ですわ」

「子って、シャルロッテ様より年上なのに」

 そういって笑うアリッサも良い子だ。

「何か言いたいことがあって、この時間に来たのよね? 報告してちょうだい」

 アリッサは、少し首を傾げると周囲に聞き耳を立てている。

 ソフィアの足音が遠ざかるのを待っているのだろう。

 しばらくその姿勢で気配を探っていたが、確認が終わると話だした。

「噛みつき男かはわからないけど、夜中にギル先生を狙う生き物が出たの」

 私は思わず、手にしたカップを落としそうになった。

 出ましたよってそっち?

「まさか、ギル様が悪徳の神に目を付けられたということ?」

「こないだ本でみた悪徳の神みたいに、それには両手の平に口がついてたから多分そうだと思います。頭はあったけど目の部分には何もない赤ん坊と子供でした」

「詳しく教えて」


 アリッサは思い出す様に目を瞑って、夜中にあったことを語ってくれた。

 王都学院の研究棟の庭を、怪しい赤子と子供達がウロウロしていたと。

 全部、退治して箒でひとところに死体を纏めたけれど、朝日が昇ると共に消えてしまったらしい。

「1匹ずつは大して強くなさそうだったけど、数が多いから手が掛かりました」

「ギル様を狙っていたのは確かなの?」

「うーん、みんなギル先生の部屋の窓へ向かっていたからそうなんだと思います。でも真っすぐ進むんじゃなくて、あっちにいったりこっちにいったりしながら?」

 体を揺すりながらそれを表現している。

「目が無いから手探りでってことなのかしら?」

「そうじゃないかな。私があれを踏み潰してる間もすぐに逃げるとかしないで、こう顔を上にあげて鼻で匂いを確認するような感じだったし、後、耳を傾けてたから音も聞き分けてたんだと思います」

 ということは、学者のいる方向はわかっていても、正確な位置はわからないということね?

 暗闇の中でうぞうぞと蠢く赤子達を思い浮かべると、何とも気味が悪かった。


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