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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男
312/644

306話 品評会です

 ルフィノ・ガルシアは、ご機嫌であった。

 私が案内された部屋は程よく広く清潔な部屋で、過剰な飾り気もなくスッキリとしている。

 続き部屋に厨房があるらしく、出来立てをすぐに食卓へ運ぶ事が出来るようになっている部屋の造りだ。

 テーブルの上には王国では見たことのない料理やデザートが並んでいて、とても魅惑的である。

 そして満足気なルフィノ・ガルシアが、既にテーブルについていた。


 ニコニコと笑うガルシアとは反対に、私は部屋に入った途端不愉快であることを隠しもせずに顔に出していた。

「これはどういうことなのか、説明して下さい」

 顔だけでは怒りが伝わらないかもしれないので、私は仁王立ちをして腰に手を当てて全身で怒っていることをあらわにする。

 ガルシアの使用人がそれを見て微笑んだのだが、それは見ないふりをした。

 小さい体では迫力がないのかもしれない。

「何をそんなに怒ることがあるのかな? 招待状に書いたそのままだよ?」

「いいえ、料理の品評会だと聞いておりますわ」

 招待状の通りグローゼンハング共和国の料理が並んでいるのはいいのだが、問題はこの場に招かれているのが私ひとりだということだ。

「なにが品評会ですか! 私だけでは単なる食事会じゃないですか!」

 他の人も来ると思ったからこそ、この話に乗ったのだ。

 単に珍しい料理を食べたいからではない!

 王子にもそう説明をしたというのに、何故こんなことになっているのか。

 バレたらまた王子が誤解しそうではないか。


「え? 『品評会の為の試食をお願いしたい』と案内したのだけど?」

 ガルシアの言葉に私はソフィアを見ると、彼女は頷いて招待状を寄越してくれた。

 確かにそこには「グローゼンハング共和国の料理を広める為に品評会を開きたいので、その『試食』をお願いしたい」と書かれている。

 つまりは品評会の前段階ということ?

 私がぐぬぬと、唸っているとガルシアは笑っている。

 これは確信犯ではないの?

「書き方が良くなかったかな? こちらの言葉は喋るのはいいのだけど書く時の文法が難しくてね」

 そう言われると文句は言えない。

 母国語ではないのだから、多少の間違いはあってもおかしくないのだ。

 そこを責めるのは、心が狭いということになってしまう。

 でもなんだか故意に勘違いしやすく書いたのではないかという気もする。


「君の為に用意したのだから食べて欲しいな。料理人も腕によりをかけてくれたのだし、温かいうちにさあ」

 ガルシアは両手を広げて料理をアピールしている。

 そのどれもが美味しそうで、不思議の国のアリスではないけれど料理が「私を食べて(eat me)」と主張しているようだ。

「誤解して申し訳ありませんでしたわ、ガルシア様。本日は招待ありがとうございます」

「そんな堅苦しい挨拶はいらないよ。それにガルシアじゃなくて、ね」

 そういって席を立つと椅子を下げてくれた。

 ホスト自ら椅子を引いてくれるのは、それだけ尊重してもてなしてくれているということだ。

 ニコニコ顔のガルシアを無下に出来ない。

 これは大人に構って欲しい時の子供の顔だ。

 色男ぶりはどこに失せてしまったのか。

「ありがとう、トマティートさん」

 彼の期待通りに呼ぶと、それは嬉しそうに笑った。

 ああ、私は観念してテーブルにつくしかない。

 料理の素晴らしさもさることながら、もう青年であるはずのガルシアが、私の目には子供にしか見えなかったのだ。


 それにしても華やかなテーブルの上の料理は、2人では食べ切れない量ではないか。

「こんなにもご用意しなくて良かったのに」

 食べきれるものでもないし、勿体ないではないか。

「残ったものは使用人達に振舞って感想を貰う事になっているから、遠慮なく自分の好きに食べていいよ」

 私は降参して、純粋に食事会を楽しむことにした。

 この間お茶会をしたタイルの中庭のように、お皿は白地で青やオレンジ色等はっきりとした色で絵付けされている。

 食器も自国のものを用意したのはいい演出だ。

 陶器の鍋は縁が緑色で他は黄色に塗られていたり、器だけでも目に楽しい。

「では、今日の晩餐と私達の出会いに乾杯」

 ルフィノ・ガルシアの言葉に、私も手にしたグラスを小さく持ち上げる。

 グラスに満たされているのは赤い液体。

 ころっとしたフォルムのガラスの水差し(デキャンタ)に、赤ワインが満たされて果物がたっぷり。

 アクセントの様にシナモンスティックや鮮やかな緑色の薄荷や香辛料が入っていて、食卓を鮮やかに彩っている。

「今夜の食前酒は、君用にちゃんとアルコールは飛ばしてあるからね。サングレと言う私の国ではよく飲まれているものなんだ。グローゼンハング語で『血』という意味だよ」

 ガルシアがいたずらっ子のように笑って言う。

 その深い赤色はまるで熟れたトマトの様でもあり、彼の髪の色に似通っていた。


 一口飲むと赤ワインの風味と、爽やかなフルーツの香りが口の中ではじける。

 子供舌にも大丈夫なように、シロップも加えてあるのだろうか?

 しつこすぎない甘味が、飲みやすくしてくれている。

 これなら大人の真似をしたい子供にぴったりだ。

 夏の野外の子供向けのお茶会に受けるのではないだろうか。




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