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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男
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299話 助手です

「ええと、そのザム坊ちゃん?が、どうしたのでしたっけ?」

「シャルロッテ様、坊ちゃんの事やっぱり知らないでしょ!」

 アリッサが声を上げる。

「お嬢さんまでその呼び方は勘弁してあげなよ。まあ、研究のセンスは無いし、彼は今まで昔の論文を掘り返しては切って貼って繋げて自分の論文でございと詐欺紛いの事をしていてね。継ぐ家督の無い三男坊の彼にとっては、内容はともかく学者の地位と研究に援助をしている事を名誉に感じる貴族を捕まえていれば安泰だった訳だ」

 何やらザム坊ちゃんやらの悪口が並べられている気がするけれど、ギルベルトにとっては単なる事実の羅列なのかもしれない。

「いや、僕はそれを良しとはしないからね? ただ、世の中には僕のように内に籠る不器用な人間や彼のようにそうする事でしか身を立てられない人やいろんな人間がいるのを知っているだけなんだ」

 この人は、なんて偉いのだろう。

 私ときたら若者の一欠片の尊厳を、自分が気に入らないと掬って捨てただけなのに、学者は彼の生き方を責めなかったのだ。

 これはきっとヨゼフィーネ夫人の育て方の賜物なのではないだろうか。


「とにかく、そんな彼が助手にと僕の所に来たんだ。彼の後援者(パトロン)が君の発言の言質を保証した推薦文までもたせてね。それで助手にしたものの、討論の相手にするには知識も曖昧で資料整理くらいしか任せられる事がなかったんだよ」

 学者は感慨深いように頷きながら話した。

 やはり、悪口なのかしら?

 何故、そんな男を自分の元に回したのかと、責められるかと私は身構えた。

「先程、彼が論文を掘り返して切り貼りしていたという話はしたよね? 彼の才能はまさにそこにあったんだよ! 長年の彼の労力は資料を読み解く力と速さ、そして全く関連の無い書類の記述を繋げる直感を彼に与えていたんだ! 素晴らしい事に僕が何日も資料を漁る中、彼は資料の海から半日無くても答えを見つける事が出来る」

 無能な男への不満が、まだまだ並ぶのかと思っていたのが違った。

 もう、ここまでくると賞賛ではないか。


「他にもギル先生が散らかした部屋をキレイに片付けたり、外の人との連絡とか後援に名乗り出た貴族の相手とか、色んなことをザム坊ちゃんはやってるの。そして二言目には『聖女様の采配で私はここにいる!』って言うんだけどシャルロッテ様はザム坊ちゃんの話をした事ないから、ちょっとおかしな人なのかと思ってたの」

「アリッサ、あなたそんなにザム坊ちゃんと親しいなら、もっと早く私に言えば良かったじゃないの」

 私は気が遠くなりながらも、アリッサに尋ねた。

「だってザム坊ちゃんは私が『黒衣の貞女』をしてるのを、知らないんだもの。ギル先生の部屋に良く出入りするアインホルンの人間くらいにしか思ってないんじゃないかな」

 確かに彼女が「黒衣の貞女」である事は、彼女自身の自由の為にも伏せている。

 それを忠実に守っていたのだ。


「ああ、そう。そうね、仕方ないわね、今度王宮に連れてきて。助手なのだしギル様の保証があれば入れるでしょ?」

 本当ならば研究室へ足を運びたいものだが、王子の手前それは我慢する。

「彼は学者としての私の助手だから、王国見聞隊の顧問とは関係ないんだけど大丈夫かな?」

「ギル様は顧問としての仕事も手伝わせたのだからいいのでは無いかしら? なんなら私の名前を出して下さっていいです。場所はこちらでいいし、私から労いの言葉をかけたいだけだから……」

 彼は子供の私の言葉を真に受けて同じ畑とはいえ職を変え、1年以上ちゃんとギルを支えて来たのだ。

 軽薄な若人だからといって、その人生を弄んでしまったのだからその責任までとは言わないまでも声くらいはかけるべきであろう。

「お嬢さんがそう言うならそうしよう。きっとザムも喜ぶよ」

「そう言えば、何故坊ちゃんなの?」

「だってすごい『坊ちゃん』って感じなんだもの。私がギル先生の部屋で休んでると『君、この壁には足りないものがあると思わないかい? 品位だよ、それは気品溢れる絵だよ』とか気取ってて面白いの」

 アリッサは楽しそうにザームエルの話をする。

 最初は使用人か下働きかと色々言われたらしいけれど、回数を重ねるうちに気安く話しかけてくれるようになったそうだ。

 一緒に掃除をすることもあるようで、話を聞くと悪い人ではないようだ。

 侮っていたギルの下で働くのは抵抗があっただろうに、その辺も気になったので会った時に確認しなければ。


「そんな訳で今回の資料もザムが揃えてくれたんだ。僕ももちろん協力してだよ? あ、そう言えばお嬢さんはどんな家が好きなんだい?」

「え?」

 何がそう言えばなのか、話の脈絡を完全に無視した質問だ。

「突然、どうなさったのです?」

「いや、ちょっと参考にしたいなあと思って」

「家を建てるご予定が?」

「いやいや、僕じゃなくてね。そう、知人、知り合いがね。女性の意見を求めててね」

 明らかに目が泳いでいるし、なにかしら?

 アリッサが呆れたように、肩を竦めている。

 実は結婚の予定でもあって、家を購入するのだろうか?

「お嬢さんはウェルナー男爵領への旅路の宿でも不満を漏らさなかったよね? でもエーベルハルトの本邸と言えば立派なものだろう? やはりこじんまりとしたものより、宮殿のような感じがいいのかな?」

 いや、マイホームは自分で掃除が出来る程度の庭付き一軒家で和室もついてたら嬉しいですとは素直に言えない私なのだった。


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