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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男

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293話 推論です

「その場合、本人の嗜好にもよるけど犯人は人から見て戦慄するような死体を作りたい訳だ。とりあえず噛むのが好きなのは間違えなさそうかな? 被害者の左手と右肩が特に酷い噛み跡が付いているということはこの2つの内どちらかが本命の傷なのかもしれないね」

「本命?」

「犯人が一番つけたかった傷というかな……。まあ肩の傷じゃないかなと僕は思う。酷くえぐれているしね。噛みつきたくて仕方がなかった気持ちを感じないかい? これは犯人の噛み跡で間違えないと思う。死因は喉元の傷だけど、それによる失血死かショック死といわれているね。喉元の大きい血管を噛みきるのは、肩をえぐる程の力はいらないだろうし、他の傷も致命傷に至るには浅い。そう、浅く噛まれている。まるで噛み殺してしまいたいけれど、その中で長く生きて欲しいような? 我慢しきれずにまず噛みごたえのある肩に思い切り噛み付くが、思い直して他の部位は浅く噛む。顔だけ綺麗だから、何かのこだわりがあるのは確かだ」

 こだわりがあるというのは、意思があるということだ。

 さっぱり理解出来ない話だが、学者には何が見えているのだろうか。

 彼なりのストーリーをこの犯罪に持っていそうだ。


「こう被害者が叫ばない様に口をふさぐだろう? 右手で口をふさいだ状態で噛みつくとしたら?」

「被害者の右側ですね」

「死体には拘束痕は見当たらなかった。しかも路地裏だ。まあ口に詰め物をした可能性もあるけどね。襲われたのが後ろからなら反対になるけれど、右肩に限っては歯型からいうと正面から噛まれている。つまり正面からしごく至近距離に近付ける者とも考えられる」

「知人ということですか?」

「ああ、だが被害者達の住んでいる場所は離れているし、赤の他人だ。別の共同体に所属しているわけだ。若い娘が警戒しないものは何だろう?」

「子供とか女性とか、あるいは愛玩動物?」

 そういえば、子供の歯形もあったのだという。

「そうだね。あるいは金払いのいい男性とかかな? 町娘なら付いて行きそうじゃないか?」

「差別ですー。そんな人ばっかりじゃないですー」

 町娘代表として、アリッサが口を尖らせて反論する。

 それには学者は苦笑した。

「まあ、そういう可能性があるということさ。左手の酷い噛み傷にも理由はありそうだけど何だろうなあ」

「噛み跡の大きさに違いがあるのは?」

「鉄の入れ歯を付けた工具があれば、どんな噛み跡も自在だと思わないかい? 小さい方はこれだろう。千切られた肉片が見つからないから、持って帰ったのか腹に納めたかは分からないけど、恐ろしい死体を世に発表したいなら成功と言えるよね」

 無数の何かに噛まれた死体、食べ残された死体。

 確かにそれは他に類をみないだろう。

 わざわざ工具まで用意するかいがあるというものだ。

 

「唾液とか体毛とかは見つからなかったのでしょうか?」

「唾液で犯人を判別出来るとは思えないし、毛もないねえ。最新の被害者には肩と手の傷はそこ程でもなかったから模倣犯の可能性もあるのだけど、単に路地裏に連れ込めなかったから手順が狂ったのかもしれない。何より衛兵に彼女は何かに追われてたと主張したようだし、いろいろと犯人の想定外だったのは確かだ」

 確かに、民家の目前と言うのは今までの犯行現場と勝手が違うだろう。

 犯行の決めてとなる体液を鑑定する科学的技術も魔法も存在しないとすると、手掛かりは掴めそうにないではないか。

「犯人は、一度に1人しか狙わない。犯行の期間が空いているのは満足して大人しくなっているからじゃないかな? まあ、満腹という事としよう、満たされているんだね。そしてお腹が空くと次の獲物を襲うとかね。それが犯人が複数犯と考えるとガラリと話は変わる。犯人は子供連れだよね。食人の癖があるのか、あるいは」

「あるいは?」

「食人を教義とする宗教団体、あるいは一家などかな? 確か、し……、ししょ……屍食教か。話でしか知らないけど『屍食教経典』とかいう稀覯本が存在するらしいんだ。それを読むとなんでも人を食べたくなるらしい」

 読むだけでなんて、その本はどれだけ美味しそうに人の肉を描写しているのだろうか。

 そんな文才があるなら、もっと他の事に使えばいいのに。

「そんな宗教があるのですか?」

「マイナーな宗教だけど根強いんだよね。各地に潜んでいると言われているね。人を食べる事で、その記憶や能力を引き継ぐとかなんとか。それだともうわかりやすいよね。教えに則って皆でやりましたって具合に。期間が空くのも儀式の為とかね。ただまあ、そういうのは攫ってアジトかどこかでやった方がいいしねえ。女性しか食べないのは変だし、単に若い女性の肉がおいしいとかなら分かるけど。それにしては食べ残しが多すぎる気もするんだよなあ」

 学者が頭をボリボリと掻きながら、推論を並べた。

 そんな物騒な宗教があるのか。

 でも確か前の世界にも敵を食べる事で相手の力を取り込んだりする宗教的な行為を聞いた事があるような?

 三国志とかだと妻を殺してその肉で貴人をもてなした男が褒められたりしていた気がする。

 人の肉を食べることを忌避しない文化や風俗というのは、人類史では珍しいものでもないのかもしれない。

 日本にも遺骨を食べる「骨噛み」という風習が存在したはずだ。


 大小の噛み跡の仕掛けを作って死体を演出する愉快犯なのか、人を食べる事を良しとする人達の仕業か、どちらが正解でも嫌な話である。




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