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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男

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281話 誤解です

「き……、君! そのお客人とやらは、好みなのかい!!」

「は?」

 いきなりの王子の言葉に驚いてしまう。

「君の好みを聞いているんだ!」

「あ、ええと、抱き心地は素晴らしかったですが」

「抱き心地!!!」

 王子が素っ頓狂な声を上げた。

 しまった、つい言ってしまった。

 あのぷにぷにの素晴らしさを、誰かに話したかったのだもの。

「いえ、曲がり角でぶつかって、私がひっくり返るのをお腹で支えていただいただけで……」

「とても顔の良い青年だと聞くし、君は何と言っても歳上好きだ。愛人を持つのは構わないけれど、それは跡継ぎが出来てからで……」

 何だか、色々話が飛んでいて意味がわからない。

「あ、愛人?!」

 今度は私が声を上げた。

「過去例がなかった訳じゃない。君を王妃の座に縛るのは私の我儘なのだから、それくらいは譲ろうかと」

「私が愛人を持っても、構わないというんですか?!」

 復唱するくらいに、私は驚いていた。

 そんな事、考えた事もないのに。

 一体何の話をしているかも、わからなくなっている。

「構わなくはないよ! 私だって嫌だ!」

「じゃあ、なんでそんな事を言うの!」

 貴賓室の中を私と王子の声が飛び交う。


「だって君が今日のお茶会でかっこいい青年に『好ましい』と声を掛けたというではないか! 私だって後10年もすれば好ましい男になってみせるよ!!」

 私が二の句を告げないでいると、ひょっこりと扉の前で詰めていたラーラが顔を出した。

「未来の国王陛下と王妃殿下に陳情申し上げます。壁が厚いので大丈夫と思いますが、あまりに大きい声での痴話喧嘩はおやめになった方が良ろしいかと。後、フリードリヒ王太子殿下の言う『かっこいい青年』というのはグローゼンハング共和国のルフィノ・ガルシア様を指しておられると判断しますが、シャルロッテ様が『好ましい』と伝えたのはノートメアシュトラーセのチェルノフ卿にございます」

 そう告げるとラーラは涼しい顔でバタンと扉を閉めて、任務に戻ってしまった。

「待って! ラーラ!! 一緒に誤解を解いて!」

 私は必死に彼女を呼ぶが、無常にも扉が開かれる事はなかった。


「チェルノフ卿!! いや、ちょっと意外、いやいや彼の年齢を考えるとありなのか? 私が頑張れるのは太るくらいしかないのではないか……」

 王子は難しい顔でぶつぶつと呟いている。

「フリードリヒ殿下! お待ち下さい! お願いだから話を聞いて!!」

 混乱しているこの場を治めないと。

「チェルノフ卿が御自身の外見を卑下なさるので、お慰めするのに『好ましいと思います』と、お伝えしただけですわ。その場にはハイデマリーとコリンナもいて、同様に皆で声をかけましたの」

「……。では、ルフィノ・ガルシアは?」

「『みてくれ』は良いと思いますが、軽薄な方は好きじゃないのです。外見で言えばナハディガルの方が上ではないですか。そんなものは、とうに見飽きております」

 大体、父も兄もかっこいいし、今更外見でどうこうなったりする気はない。

 私の言葉を聞くと、王子は顔を真っ赤にして両手で覆うと天を仰いだ。


「私は……、君になんて酷い誤解を……」

 その様子は何だか可愛くて可笑しくて、私は笑い出してしまった。

「フリードリヒ殿下の婚約者の身で他の殿方に『好ましい』などと伝えた私も悪いのですわ。でも結婚もまだなのに、愛人だなんて」

 あの場には護衛も侍女も何人もいたのだ。

 何人かの報告をまとめたらおかしな話になったのだろう。

 正確な報告だったとしても、王子の様子だと早とちりで誤解して受け取られたかもしれないし。

「あ、愛人は、私は持たないつもりだけれど、シャルロッテは好きにしていいと思っている」

 私を責めたのが後暗いのか、目も合わせずに声が小さい。

「私も持ちませんわ。ご安心下さい」

 くすくすと笑いながら伝えると、ほっとしたのか顔は赤いままだが安堵したようだ。

「まだ、結婚もしていないのに、お早い話ね」

「私は君がひと目見た途端、お爺様に求婚するほどの情熱家だと知っているからね。好みの男性がいたら飛んで行ってしまいそうだ」

 また、その話を!

 どうにかして忘れてくれないかしら?

 いっそ魔術とかに頼って、たしか柔らかな忘却とかいったかしら?

「あれは若気の至りというものです!」

 私が悪いとはいえ黒歴史を掘り返されたようでバツが悪い。

 でもこうやって思い返して、あの時の行動の恥ずかしさはあっても、もう辛くはない。

 あれは子供の私の淡い恋なのだったのだ。

「若気って今だって十分子供じゃないか?」

「今はもっと思慮深いです! それに飛んで行く羽もありませんわ」

 そう付け加えて一息つくと、何故こんなにも声を上げる必要があったのかとまた笑いが込み上げてきた。

 ルフィノ・ガルシアを、チェルノフ卿を私の愛人に?

 いくらなんでもおかしすぎる。

 お互い切羽詰まってしまっていたのだ。

 2人で顔を見合わせると声をだして笑った。

 私達の言い合いに驚いていたクロちゃんとビーちゃんが場が落ち着いたのを察してか、そばにやって来て私達に擦り寄る。

「すまないね。びっくりさせてしまったかな?」

 そういうと王子は2匹をゆっくりと撫でた。

 その様子を見て何だか家族みたいと思ってしまった事に、頬が熱くなるのがわかった。






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