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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第二章 シャルロッテ嬢と悪い種

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28話 茶会です

 王宮茶会は話に聞いた通り華やかであった。

 少女達が思い思いに似合う色のドレスとオシャレをして、少しでも大人っぽく見えるように背伸びをしている風情がほほえましい。

 不安げな様子も見られるが、場にたがわぬよう精いっぱい笑顔を浮かべて、それぞれが集っている。

 中庭と言ってもかなりの広さがあり王家の紋章入りの旗が立てられ、手入れされた木々の緑が眩しい。

 青空の下、テーブルクロスをかけた立派なテーブルが並び、その上に食べ物が並べられた立食形式である。

 食事マナーに気を取られて緊張しない様にとの判断であろう。

 会場の奥に落ち着いて食べることが出来るように、テーブルセットが設置してあり、ゆっくり飲食できるスペースも作られている。

 付き添いの大人には、中庭を見通せる室内に別に歓談所が設けられていた。

 子供のみの茶会であるということを強調しているのだろう。

 過保護な親が出しゃばらない様、かといってたまにいる自制の効かない子供が癇癪を起こしたらすぐに報告が行くように距離がとられている。

 本日は子供が主役なのだ。

 大人達は侍従や侍女と王宮の執事達にこの場を任せ、既に歓談を楽しんでいた。

 相当な騒ぎがなければ口出しが出来ないのをこれまでの経験で心得ているのだ。

 教育が不足な令嬢の親は諦めを、十分に淑女に仕上がった令嬢の付き添いは期待を持って茶会が終わるのを待つのだ。

 今日の保護者達は、あくまで付き添いであるので堅苦しい礼儀も特になくカフェでお茶を飲むように会話と食事を楽しんでくつろいでいるのが窓の外からみてとれた。


 クッキー、ケーキ、サンドイッチ、色とりどりの小ぶりのスイーツ。

 数々のチョコや果物が並べたてられている。

 食いしん坊にはこの豪勢な魅惑のスイーツテーブルは危険すぎる。

 お菓子の虜になっては、肝心の王子との会話もままならないだろう。

 かく言う私も王子より数々のお菓子に気をとられてしまっているひとりである。

 スライスナッツが敷き詰められたフロランタン。

 苺や葡萄が一粒ずつ飴でコーティングされて、ピカピカと輝いて誘っている。

 一口サイズのチョコの中にはフランボワーズの赤いジャムが詰められていて、誘惑に負けて口にしてしまった令嬢がおいしさに悶えていた。

 開催の挨拶の前に口にするなど後で叱られないかしら?

 しかし生クリームや飴細工で飾られたプチフールの数々を前にすると、そんな事はどうでもいい様に思えてくる。

 ああ、どれにしよう。全部食べたいけれどお腹に入る量は決まっているのだ。

 ここは厳選しなければ。


 もしかしたら、こうやって婚約者候補を振るいにかけているのかもしれない。

 お菓子に負けずに王子にたどり着いたらまずは合格なのかしら。

 お菓子と天秤にかけられる王子というのもちょっと気の毒な気がするけれども。

 魔女のお菓子の家に目もくれない野心溢れる、いや礼儀正しいお嬢様は森の奥で王子様を見つけるのかしら。

 つい妄想にふけって微笑んでしまう。

 ふと見上げると今からスピーチが始まるのか、王子が設えられた壇上に上がるところで目が合ってしまった。

 こちらを見ているということは王子もお菓子が食べたいのだろうか。確かにこのテーブルは素晴らしいもの。子供では抗えなくても仕方ない。

 うんうん、気持ちはわかりますと笑いかけると王子は少し頬を染めて視線を外してしまった。

「今日は私の茶会に各領地から集まってくれて嬉しく思う。社交界へのデビュー前であっても貴族間の繋がりは大事なものだ。これを交流の機会として親交を深めてくれ」

 スピーチが始まり皆が王子に注目している。

 召使い達が葡萄ジュースの入ったグラスを配って歩き、グラスがいき渡るのを確認すると王子がグラスを掲げパーティの開始を告げる。

 茶会と言うのでもっと別なものを想像したのだが王子主催のものとなると結局パーティになってしまうのだろう。


 王子が壇上から降りると令嬢たちがわっと集まり、すぐさま囲まれてしまった。

 虎視眈々とはこのことか。

 特に銀の髪で長身の大人びた赤いドレスの令嬢が積極的な様だ。黒い長手袋をして目立っている。

 その攻撃的な外見の通り、威嚇するかのようにその鋭い眼差しで周りを牽制している。

 昼のパーティに赤を着るのは珍しい。

 大体がパステルカラーで、濃い派手な色は夜会で好まれるものだ。

 開始前は優雅にしていた保護者達だが、今はどの令嬢が王子を射止めるのかハラハラしてチラチラと窓からこちらを伺っている。

 中にはお菓子に夢中な我が子に、心乱されている親も何人かいるようだ。

「お嬢様は挨拶に行かれなくてもよろしいのですか?」

 バーゲンのワゴンに集る女達のような令嬢の群れに入っていかない私を心配してソフィアがそっと声をかけてきた。

 そもそも身分的には釣り合うかもしれないが、精神年齢的に大きくかけ離れている相手だ。

 婚約者になりたいわけでもない。

 侯爵家として礼儀に反しない程度の挨拶だけすればいいだろうと思っている。


「今行っても近づくのも大変なようだし、私はこちらを楽しむとするわ」

 ジュースのグラスをメイドに渡して、ソフィアを連れてスイーツテーブルを物色する。

 さてどれから味わおう。

 ソフィアの持つ王家の紋の入った皿に一つずつ希望のものを給仕してもらい、飲食スペースの空いているテーブルに運んでもらう。

 やはり甘いものには紅茶だろう。

 ティーポットをお願いするのも忘れない。

 それにしてもこちらのテーブル席は空いていた。

 私たちの他には数えるほどしか座っていない。

 少女のお菓子への欲求を上回るとは、王子の存在というものはすごいものである。

 ここからは茶会全体を見渡すのが出来るので、言葉は聞こえないが不満そうな顔の王子を取り囲む令嬢達の寸劇のような遣り取りを見学しながらお茶とお菓子を楽しむことが出来そうだ。

 依然優勢は赤いドレスの令嬢のようであった。

 王者の風格というかここがサバンナならきっとライオンだろう。

 彼女の咆哮には誰も立ち向かえてないようで、居並ぶ小動物のお嬢様方は縮こまってしまっているのが見て取れる。


 中庭には楽団も配置されており、優雅な曲で耳を楽しませてくれている。

 来るのを渋ってみたものの、やはり来て正解だったかも。

 特上のお菓子と音楽を楽しめる機会など、早々ないだろう。

 今日は天気もいいし、午後のお茶を楽しむという意味では悪くない。

 小鳥の様に小食をと釘を刺されたにも拘らず、ソフィアに頼んで追加のスイーツのお替りをお願いしてしまった。

 王宮のお菓子に舌鼓を打っていると、突然パンパンと花火が上がった。

 どうやら奇術師の登場のようだ。

 燕尾服に白塗り顔には涙のペイントがされている。

 令嬢達はみな音につられて奇術師に気をとられているようだ。こういう余興も茶会の楽しみのひとつなのだろう。

 奇術師が杖を一振りすると花を出したりハトを出したり見知った手品をしている。

 だが、もしかしたら私にはわからないだけで、そこには本当の魔法が使われているかもしれない。

「あなたはあちらへ行かないのかい?」

 魔法か手品かと考えあぐねていると声をかけられた。



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