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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男

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267話 女性の関心です

 アリッサが退出すると、入れ替わるように貴賓室の扉が勢い良く開かれた。

 なんと、そこにいたのは母である。

 貴婦人であるはずの彼女が勢いいさんで入室してくるなんて、初めての事で私は目を丸くした。

 後ろには父と兄もいる。

 魔術儀礼が無事終わったので家族で食事をとは聞いていたが、その割には母の勢いがすごい。

 分厚い絨毯の為、足音がしないはずなのにカッカッカッとその音が聞こえてきそうだ。

 私はソファから飛び上がって礼をした。

「今日は魔術儀礼の参観、ありがとうございました。祝会も滞りなく終わりました事を報告いたします」

 私の感謝の言葉もよそに、母はガっと私の肩をつかんだ。

「シャルロッテ、これは一体どういうことなの?」

「これとは……」

 訳が分からず父と兄に視線で助けを求めるが、2人共サッと目を逸らしてしまう。

 そういえば、儀礼の衣装は母とアデリナが時間をかけて話し合って決めたものだ。

 時間をかけて決めた物を理由はともあれ、アレンジして当初のコンセプトを台無しにしたのは事実なのである。

「母様、ごめんなさい。せっかくの衣装がこんな事になって……」

 娘のハレの日の衣装を1番楽しみにしていたのは母で間違いない。

「衣装? 衣装も素敵だけどそれはいいのよ。あなたそのお化粧はどうなっているの? そんなツリ目ではなかったわよね?目元も口元も何もかも違うじゃないの!!」


 いつの世も、女性の関心は化粧と衣装。

 母は私のいつもと違いすぎる顔立ちに騒がずにはいられなかったようだ。

「衣装に合わせて、ちょっと化粧を変えただけです」

 そう宥めてみるが、母の鼻息は荒いままだ。

 面倒だけれど、ちゃんと説明しなければ収まらないだろう。

「まず目元はこめかみの部分の髪を少し引っ張って編み込んだのでいつもより目尻が上がっているのです」

 私の言葉を聞くと指先で目元の確認をしてくる。

「でもホンの少しだけよね? なるほどね、長めのアイラインで強調しているのね、これは」

 そう、母がいうように目尻を少し上げた所に煤と金属と脂で練ったコール墨と呼ばれる黒い顔料を用いて細い筆で線を引いたのだ。

 これで普段の甘めの眼差しからキツめの目元にかわる。

 眉にも茶色の粉を載せて濃くしているし形も変えているのだ。

 この世界の現在の化粧の主流は、顔に粉をはたいて口紅を引くくらいの自然な装いであるので化粧術はそれほど発達していない。


 嘘の様な話だが、一昔前は青白い肌が持て囃され、寿命を縮める鉛入りの白粉で顔から胸元(デコルテ)までを塗り固めていたのだという。

 その上、瀉血つまり血を抜き貧血状態にし物理的にも見た目が青白くなるようにして、青い血管を筆で肌に描いていたというので流行というのは恐ろしい。

 そんな狂気じみた美容法が廃れた後で、本当に良かったと思う。

「眉は顔の額縁と呼ばれる程、化粧の上で大事なのです。目尻と口角を結ぶ延長線上に眉尻が来るように描くのが良いそうですよ」

 これはデパートの化粧品売り場の人に教えて貰った事だ。

 流行り廃りはあっても、基本的に人の顔の美しく見えるバランスというものが存在する。

「今回、男装を意識したので元の眉は白粉で隠して眉を直線的に太く、目と眉の幅を短くするようにしたんです。この幅が大きいとより幼く感じますし」

 母といつの間にか前のめりになって、母の侍女のソフィアもメモを取りながら私の説明を熱心に聞いていた。

 おでこと鼻筋に明るい色でハイライトを入れたり、現代日本では特に目新しい事でなくとも、世界が違えば特別な事になる。

 黒一色の衣装なので唯一の色味である唇も縁を濃い紅で囲んで、その中は明るい赤で塗ってグラデーションを作って立体的に見えるようにもしている。

 あの小部屋でアデリナもこうして感心しながら、私の説明を受け入れて化粧を施してくれたのだ。

 キツめの化粧にしたのは、アレンジした衣装に合わす目的もあったが、1番はあのアニカ・シュヴァルツの幼稚な嫌がらせに屈しない気持ちを全面に押し出したかったからである。

 いうなれば、これは一種の戦化粧というところか。


「私も同じようにしたら、凛々しい顔立ちになるのかしら?」

 母は優しい顔立ちなので、キツめの化粧を試してみたいのかもしれない。

「きっとお似合いになるわ。ね? 父様」

 後ろで大人しく私達のやり取りを見ている父に話を振ってみる。

 突然の事で一瞬言葉に迷ったようだが、直ぐにニッコリと笑った。

「ああ、きっとガラリと印象が変わってそれも素敵だろうね。でも私はいつもの朗らかな君が好きだから、普段は今のままがいいかな」

 おお。

 なかなかパーフェクトな返事ではないだろうか?

 さすが父である。

 母も、あらまあと言いながら頬を赤くした。

 夫婦仲が良い事で何よりだ。

「兄様はどうですか?」

「え? 私かい? 私はどちらかと言うと少し大人びた感じが好きかな? 背伸びして頑張っているような……」

 その返事に、私はポカンとした。

 兄ならもっと、スマートな返事をすると思っていたからだ。

 母の化粧の話をしていたのに、まさか兄の女性の好みを聞かされるとは予想だにしなかった。

「ハイデマリー・レーヴラインの様な?」

「そう、ハイデマリーの様な……。母様!!」

 母はピンと来たようで、悪戯な笑みで兄をからかった。

 兄は真っ赤になっていた。



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