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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男

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262/651

256話 登場です

 突然、開けられた扉の音に驚くと聖堂内の人間は振り向き、そこから差す逆光に誰しもが目を細めた。

 そこに佇むのはほっそりとした、シルエット。

 普段、下ろしている前髪は横に流され、豊かなピンク色の光を含む金髪は黒の細いリボンと共に編み込まれてスッキリと左肩の前でひとつにまとめられている。

 美しい光沢のある黒地のローブは、開会前よりも絞られてよりタイトにされていた。

 裾から斜めに触手が伸び上がるように施された金糸の刺繍は、腰に下げられた模造刀へと伸びる煌めく炎のように人々の目に映った。

 堂々としたその様は、まるで闇の女騎士といった出で立ちである。


 いつも儚げな印象であった彼女は、くっきりと黒の闇に浮かび上がって凛々しさを感じさせた。

 そんな衣装に合わせてか、化粧もより濃い。

 柔らかな曲線であった眉は、少し濃い色で太めの直線に描かれて意志の強さを演出していたし、同じく濃い色でくっきりと長めに引かれたアイラインはいつもよりも彼女の目をつり目にみせていた。

 頬骨の下に入れられたオレンジ色の頬紅は快活さを彼女に与え、口元は紅色で余裕のある笑みを浮かべた表情と相まって、まるで大人の女性のようだ。


 観衆の誰もが、そこにいる少女がシャルロッテ・エーベルハルトだとは一瞬思えなかった。

 開始前に見かけた時とは雰囲気も化粧も何もかもガラリと変わっていた。

 聖女と呼ばれる少女は口達者な中身とは反対に、たおやかで頼りなげな外見であったはずだ。

 まるで男装をしている麗人のような、雅な少年騎士の様な雰囲気に誰もが言葉を失った。

 初めて見るそのようなシャルロッテの姿にコリンナも目を丸くして口をあんぐりと開けている。

 つかつかと祭壇へ足を運ぶ途中、そんなコリンナを見咎めるとシャルロッテは彼女を見ながら目を細め口元に人差し指をそっと当ててニヤリと笑った。

 その仕草に、今まで息を飲んでいた周りの令嬢から歓声が上がる。

 颯爽と祭壇へ進む彼女の背中は、黒のシフォン布で作られた2つの大輪の黒薔薇で飾られていた。

 汚された背中を髪で隠すのではなく、髪を前でまとめる事でより目に付くようにし和装の帯で言う「薔薇結び」でその背を覆ったのだ。

 聖堂内でひとりを除いて、その美しさにため息をつかない者はいなかった。

 歯ぎしりをするアニカ・シュヴァルツ以外は。

 彼女は最後尾の席にいるせいで聖堂内のすべてがシャルロッテによって塗り替えられていくのを目の当たりにすることとなったのだ。

 入場からたっぷりと、誰よりも長く美しい黒薔薇を背負ったシャルロッテが祭壇に着くまでを見せつけられたのだ。


 祭司長の前まで来ると、恭しくシャルロッテは礼をとる。

 祭壇の上には聖布が敷かれて、その上に4大属性を表す石が並べられていた。

 大地を表す心眼の黒曜石(オブシディアン)、水を表す癒しの海泡石(メールシャウム)、火を表す自由の紅玉(ルビー)、風を表す幸運の橄欖石(ペリドット)

 こぶし大のそれらはカットはされておらず、原石のままごろんと置かれている。

「間に合ったようで安心しましたぞ」

「ご心配おかけしました」

「さあ、では手をかざして」

 祭司長の言葉にシャルロッテは石に手をかざすと、紅玉が光を帯びて熱をもった。

「エーベルハルトの血筋は火の神に愛されておりますな。魔力の量も申し分ない火属性です」

「火ですか……」

 魔力が身のうちにあることがわかり嬉しさもあったが、地母神黒山羊が象徴とする土の属性を望んでいたシャルロッテは若干残念そうに呟いた。

 祭司長が言うように、エーベルハルトの人間は代々圧倒的に火の属性を持つ人間が多いのだ。

 火の精霊サラマンダーが住むという火山を擁しているからかもしれない。


 残念そうなのは彼女だけでなく、軍部の面々もであった。

 聖女に魔力はあっても、それは突出したものではなかったのだ。

 これではアニカという神輿を交代させるわけにはいかない。

 奇跡を起こす聖女に大きな魔力を持っていると期待したのは、空振りに終わったのである。

 それとは反対に喜ぶ者がいた。

 少女が、鼻で笑った。

「聖女様も人並みなのね」

 主役を奪われた悔しさのお返しとでもいうかのように、ご満悦とでもいうように愉快そうにアニカ・シュヴァルツが発言をした。

 魔力と魔法は自分が一番であると確認出来たことは、彼女にとっては朗報である。

 自分が原因とはいえ、あの輝かしい自分の実力をシャルロッテに見せれなかったのは残念だと考えていた。

 あの自分の偉業を見ればすっかり項垂れただろうにと。

 石がひとつ、人並みに反応しただけ。

 それに比べて自分が起した奇跡のような魔力の光と熱を思えば、誰しも認めるべきは誰なのわかるはずである。

 そんな思惑で声に出したのだ。

 皆が静まりかえっている中、それは祭司長にまで届いた。

「今、魔力を示せなかったと言ってそれがすべてではありませんぞ。今後の努力では頭角を現すものもでてくるでしょう。ここに留まらず何事も精進していくことが大事なのです。今日は魔法の力の扉をほんの少し開いたにすぎないのですから。黒山羊様は魔力の有る無しに関わらず遍くあなた達を愛してらっしゃいます」

 祭司長がそうやってやんわりと諫めるように話をしたが、アニカはつまらなそうな表情を隠さずに顔に出すだけでそれ以上は何も言わなかった。

 それよりも、ひそひそ声でシャルロッテの出で立ちに夢中になっている少女達を見て、忌々し気にそっぽを向いてしまった。

 ほんの少し前まで、賞賛されていたのは自分であったのに。

 あんなちんけな魔力より自分の素晴らしい力を褒めるべきなのだ。


 ここは魔力ではなく衣装をお披露目する所。

 アニカが魔術儀礼に対して持っていた間違った認識は、奇しくも現実となったのだ。

 侯爵令嬢に魔力で勝ったのは一目瞭然であるのに、衣装だけで話題をさらわれてしまった。

 誰ももう自分を見ていないと思うと、ギリリと少女は爪を噛んだ。


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