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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第二章 シャルロッテ嬢と悪い種

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26話 支度です

 透明感のある白のオーガンジーのドレス。

 鎖骨が見えるくらいの襟ぐりにレースが縁取り、ピンクのシフォンの小さな桜が左肩から下に向かって散らばってドレスを飾っている。

 スカート部分は何枚も生地を重ねてあるが重さを感じさせない。

 ゆるくカールしたハーフアップの髪にも桜の髪飾りが煌めいて幻想的だ。

 白すぎる肌には頬にチークを少しだけはたいて赤味をプラスして、首には瞳と同じ菫色のネックレスが飾られ、唇には桜色の口紅を控えめにさしている。


「物語から抜け出た妖精のようです!」

 ソフィアを筆頭に、着付けのメイド達が感無量というように拝んでくる。

 これは自分でいうのもなんだけれど、すごくいい出来なのではないか?

 さすが音に聞こえたデザイナー、アデリナの作品である。

 彼女は私の茶会デビューを詩人の歌った「桜姫」をベースにして、完璧に演出しようとしたのだ。

 うーん、仕事人である。

 仕上がった私を見て、母も手を叩いて喜んでいる。

「さあ、貴女の戦場に出陣よ!」

 普段、優しい母が興奮している。

 私も子供の発表会等意気込んだものだ。

 気持ちはわかる。

「いい事? 嫌味を言われても気付かないふりをするのよ? 相手にしたら負けだと思いなさい」

 その後、ご馳走様が並んでいても小鳥の様に少食を心掛ける様にとか、相手の名前がわからない時はソフィアに合図する様にとか細々とした事を復習させられた。


 侯爵家の馬車に乗り込み、勇んで王宮へと向かう。

 王宮はぐるりと掘りで囲まれているので、大きな跳ね橋が掛けられている。

 有事には橋は上げられて、籠城するのだろう。

 豪奢な石造りの正門には正装の近衛兵が並んでおり、掘りに腰掛けた旅人や他国の商人が話の種にするのだろうか、王宮をのんびりと眺めているのが見受けられる。

 中には入れないけれど、せめて外観だけでもということだろう。

 観光名所にもなっているようだ。

 貴族街から王宮はさほど離れていないので徒歩で移動も可能なのだが、貴族は馬車で入場するのが決まりになっている。


 橋の手前に守衛詰所があり、一通ずつ招待状をあらためているせいで茶会に出席する馬車が渋滞気味だ。

 許可を受けて橋を渡りしばらくすると、やっと王宮のお目見えである。

 整えられた白い石畳の広い道は王宮前の広場まで続く。

 到着し各家の馬車から着飾った貴族とお供が降りている。

 学校よりデカい!それが私の最初の感想であった。

 広場は運動場の様だし、建物は校舎並の大きさだ。

 なにかの時には正面の2Fのテラスに王が出てきて、この広場に並んだ軍隊に声を掛けたり、お祭りや祝い事の時は詰めかけた国民に手を振るのだろう。

 想像はしていたが、その壮大さに実物を目の当たりにして息を飲む。

 さすが一国を治めるだけあって、すごいところに住んでいるものだ。


 決められた場所に馬車が止まり、下車する。

 母に言われた通り焦らずゆっくり優雅さを損なわないように踏み台に足を置くと、ちょうど風が吹いて私のドレスと髪をゆらした。

 周りから感嘆の息が漏れる。周りを見なくても注目されているのがわかった。

 母の興奮にあてられたのか、私自身も変なテンションである。

 さあ見るがいい。

 ソフィアとアデリナの共同作品である私を。

 彼女たちの努力を無にしないよう、所作に気を付けながら地に足をつけた。

 さざめくように、私への評価が囁かれている。

「エーベルハルト侯爵令嬢、シャルロッテ様のお着きです」

 近衛兵が声をあげた。


 こちらへ向かって家来を引き連れた少年が歩み寄ってきた。

 誰に紹介されなくてもわかる。

 輝く金の髪に空色の青い瞳。

 端正な顔立ちには、すでにある種の威厳が滲んで見える。

 だが残念なことにそれは、人を寄せ付けない拒絶する空気をはらんでいた。

 孤独の王子様って感じ、そう思ってしまった。

 臣下であるこちらから話しかけることは出来ないので、身を慎んで彼の到着を待つ。


「ようこそ、リーベスヴィッセン王宮へ。初めましてだな、エーベルハルトの令嬢。私はリーベスヴィッセン王太子フリードリヒである」

 ふん、と聞こえてきそうな尊大な態度である。

 茶会の開催には乗り気ではなかったのだろうか?

 いや普通に子供の身で結婚相手を探すなどウンザリしそうなものか。

「丁寧なご挨拶痛み入ります。エーベルハルト侯爵が娘シャルロッテと申します。以後お見知りおきの程よろしくお願いします」

 教えられた通り自己紹介をして最上級のお辞儀(カーテシー)をとる。

 予定では茶会の最中に紹介されるのではなかったか。

 突然の事だけれども、抜かりなくこなさないと。

「まあフリードリヒ王太子殿下自らお迎えに出られるなんて、光栄でございます」

 私の挨拶を見届けて、母も礼を取りながら王子に話かける。

「他の王族に比べて私主催の茶会の開催が遅れたからな。これくらいはすべきとの国王の判断である」

 自分は歓迎なぞしていないとでも言いたいかのようだ。

 不満を隠せないのだろう。素直と言えば素直なのかもしれない。

「そなたの父、エーベルハルト侯爵の勤仕には日頃から感謝している。本日はガーデンパーティであるから、自由に好きに楽しんでくれ。では他の令嬢を迎えねばならぬので失礼する」

 義務は果たしたかというように、ぷいっと踵を返すと次の馬車へ向かっている。

 笑顔のひとつもないのはどうかと思うが、あの年齢なら仕方の無いことか。

 裏表も図り事も、遠いところにあるのだ。

 うちの子も他愛のないことでヘソを曲げると、いつまでもむくれていた。

 そのくせ、好きなお菓子を見るとさっきまでの不機嫌はどうしたというように笑顔になるのだ。

 そういえば母親を亡くしてふさいでいたというのを聞いたのを思い出した。

 本来なら王妃が彼を主役に茶会を設えるのだろう。

 そう王子の立場で考えると、無性に寂しく空しい気持ちが湧き上がってきた。

 子供が体裁だけでも整えて立っているのはすごいことなのだ。

 あまり目くじらを立ててはいけない。

 彼が立ち去るのを見送ると、目の端に羽根飾りが揺れているのに気付いた。





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