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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男

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252話 憐憫です

 わざわざ人のドレスに白粉をつけて汚れを落ちにくくする。

 そんな念の入れ方をするのなら、もっと巧妙な罠を仕掛ける方が良くはないだろうかとアニカのやり用を採点するかのように考えてしまう。

 いつもすぐにバレるような、浅はかな企みばかりではないか。


 婚約発表の場でも、彼女は大声で私を非難した。

 やり取りの一部始終を見ている人達の前で、事実を無理矢理曲げようとしたのだ。

 もしかして彼女は、前の生もこうやって生きていたのかもしれない。

 弱者に大声で怒鳴って優遇してもらおうとする人を見かけることがあった。

 大体は周りは怒鳴られている人に同情し、怒鳴る人を心の中で軽蔑するものの自分に火の粉が掛からないよう静観するのだ。

 私もそうだった。

 頭のおかしい人に絡まれて気の毒にと遠巻きに見ていた。

 怒鳴る人間は萎縮する人を前に、自分が偉くなったと錯覚し周囲との錯誤に気付かない。

 アニカはそれなのだ。

 被害者ぶるのが悪辣だが、そういう自分を優位にする間違えた手段を覚えてしまっているのではないだろうか。


 気に入らない人をいじめては、周囲には自分が被害者であると泣きわめいて吹き込んで好き勝手にやってきたのでは?

 日本では身分の差も無いし、無条件に泣いている女性の味方をする者は多いだろう。

 平和なあの世界で、まさかそんな風に人を貶める人がいるとは普通の人間には想像しにくい事なのだ。

 悪意を持って人を嵌めるなど、普通の人間には必要無いし考えつかないものなのだから。

 さぞかし皆は騙されたのではないだろうか。

 騙されない人間も多々いただろうが、面倒に巻き込まれたくなくて彼女の行為を黙認して事勿れ主義で目を瞑ったであろうと想像出来る。

 結果、増長するのだ。

 泣き真似をするだけで労せず、人を卑しめる事を知っているなら、同じ事を繰り返すのはおかしくない。

 そんな風に生きたかもしれない彼女の事を許せない気持ちと、哀れむ気持ちが同時に沸いてきた。

 前も今も、誰も彼女を叱らなかったのだろうか?

 それはいけない事だと諭してみせる人は誰もいなかったのか。

 その欲望と我儘を野放しのまま、彼女自身の成長を真剣に思いやり叱る人間はいなかったのだろうか。

 だとしたらなんと悲しい事だろう。

 あのシュヴァルツ男爵夫妻も愛情を掛けているようにみえて、結局はアニカを甘やかすだけで人として正しく育て導いてはいないのだ。

 ここは日本よりも、善意にも悪意にも敏感な貴族の世界だと言うのに。

 騙されたふりをしながら、どう出し抜こうかと微笑みながら考える人達にアニカのやり方は通用しまい。

 ある意味、あの世界よりここはシビアなのだ。


「いっそマントを羽織りますか?」

 アデリナの助手が汚れを丁寧に叩きながらそう言う。

 確実に背中を隠すには、それだろう。

 だけれど、今からマントを調達出来るかも確証はない。

「魔術儀礼の装束は黒のローブかマントどちらかがドレスコードですが、両方ですと見た目がかなり重苦しくなってしまいますが……」

 背に腹はかえられないかと、悔しそうにアデリナは唇を噛んだ。

 欠席を表明する事は、アニカの嫌がらせに屈する事になるのだ。

 それは決定的な私の敗北と言うことだ。

 勝ち負け等関係ない事に思えるが、こちらが被害者であっても不利な状況であってもそうとられるものだ。

 嫌がらせの一つや二つ軽くいなせないようでは、ここでは無能ととられても仕方がない。


 ローブというにはカッチリ目な作りだけれど、アデリナがいうようにマントを羽織るとせっかくのフォルムが台無しだ。

 幸いドレスに交差してかけられたシフォンの2枚布は、その織り方の為か強くはらったら粉の大部分がとれた。

 多少は気になるがその透ける性質上、少々の白っぽさは気になるまい。

 問題はシフォンが覆っていなかった、直接粉がついた肩甲骨の間部分だ。

 ここの汚れを誤魔化すには、頭を捻らなければ。

 背中を大きく隠すとなると、大きなリボン結び?

 それは悪くないが、せっかくの大人っぽいドレスにはちょっと合わなそうだ。

 目をつぶって考えてみる。

 飾り結びは、どんな種類があったか。

 これまで見てきたいろいろなドレスのリボンを思い返しながら、頭に描いてみるがどれもしっくりこない。


 その時、私の頭の中で閃きが起きた。

 和装の帯のように結んではどうだろう?

 高い位置で結んで、何かで芯を作ってお太鼓を入れて帯揚げや帯締めをしたら?

 想像してみたが、やはり違和感が出る。

 それではいけない。

 いつも私が着ているドレスと違い、少し大人びて甘さのないローブ。

 あしらわれた金糸の刺繍も黒地と相まって繊細というよりシャープで力強さを感じる。

 シフォン生地をふんわりと掛けることで、アデリナは女性らしさを演出したのだ。


 人生の節目の魔術儀礼。

 それは大人になる為の通過儀礼でもある。

 だからこそ、大人びたデザインを小柄な私にアデリナは用意してくれたのだ。

 いつも宮廷詩人が歌に謡った儚い桜姫。

 そのイメージを壊すのに、今回はいい機会だと思おう。

 1つの案が浮かんだ。

 大丈夫、きっと上手くいく。

 私は、1人ではないのだもの。

「アデリナ、私の考えを聞いてくれますか?」

 彼女の手を取って、私は語りかけた。



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