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黒山羊様の導きで異世界で令嬢になりました  作者: sisi
第五章 シャルロッテ嬢と噛みつき男

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251話 控えの間です

 我が子の虚言を身に染みたのか、はたまた爵位を弁え直したのか、目が覚めたかのように聖堂前に取り残されたシュヴァルツ男爵夫妻はお互いの顔を見合わせていた。

 こちらからの嫌味も忘れたかのように青い顔でぺこぺこと、何度も謝ってからアニカを追って取り巻き一行と共に中に入って行く。

 こうしてみると、先ほどまでの男爵夫妻の様子が嘘のようだ。

 娘が関わらなければ普通の人なのかもしれない。


 とんだ茶番だ。

 やれやれと彼らの後ろ姿に目を向けると、その中に見慣れない背の高い青年が混じっていた。

 鼻白んだように、一連の騒動に呆れた顔をしている。

 赤髪で日焼けをしていて、優男風の他の国の人間のような出で立ちだ。

 役者達の殿を務めるように入って行った。

 顔立ちから言って異国の人だろう。

 男爵家の客か縁者か。

 私達を取り囲んでいた観衆も主役が引いた舞台には用がないとでもいうように、私達に災難でしたねとお悔やみを投げかけながらそれぞれ散っていった。


「コリンナ、あなたやるわね」

 母が愉快で堪らないというかのように笑っている。

 コリンナはやり遂げたという顔を私に向けている。

「ありがとう、コリンナ。助けられたわ」

 あのままやり込めていたら、公衆の面前で男爵家の面目を潰してしまう所だった。

 何事もやりすぎは良くないというものだ。

 私はコリンナの手を取り感謝を込めてお礼を言うと、彼女は目を細めてにっこりと笑ったがすぐさまそれを曇らせる。

「さあ、早くその汚れを何とかして下さいね。私はシャルロッテ様と儀礼に出れるのを楽しみにしてきたんです! 先に聖堂で待っています。必ず間に合って下さいね」

 その言葉に、母もハッとする。

「控えの間のアデリナをこちらへ呼んでちょうだい。時間がないわ」

 母がそういうとソフィアが、澄ました顔で答える。

「既に人を向かわせております。部屋の手配もしましたので早速移動しましょう」

 指示を待たずに先廻り出来るとは、優秀な侍女になったものだ。

 その成長に頼もしさを感じずにはいられない。

 コリンナとソフィアのお陰で、気持ちが幾分楽になった気がした。


 私についていたいという父と兄を説き伏せて大聖堂に先に入って貰って、教会側に遅れる旨を伝えてもらうことにした。

 最前列であるエーベルハルト侯爵家の席を空のまま儀礼を進めるのは外聞も悪い。

 ソフィアが急遽、王宮側に用意してもらったのは大聖堂に近いこじんまりとした部屋である。

 古い建物なので、歴史を感じさせる室内装飾は派手さは無いものの趣がある。

 こんな場面でなければ、ゆっくりと内装を楽しむところだがそれを許す時間はなさそうだ。

 慌てふためく私達とは別に、壁に飾り掛けられた模造刀が磨き込まれた刀身を悠然と美しく光らせていた。


 用意して貰った部屋に私達は詰めかけると、装束を解いて汚れを確認する。

 背中を中心に真っ白になっている。

 よくこんな上手に白粉がついたものだ。

 粉がよく付くよう何か糊でも仕掛けでもしたのではないかと思ってしまうほどだ。

 粉をはたくが黒い生地なのでどうしても白い跡が残ってしまっていた。

 すぐさま洗っても火力の調整が難しいこの時代の火斗(アイロン)では乾かすより生地を傷めてしまうかもしれない。

 当て布をすればいいだろうか?

 火斗の手配もすべきか頭を悩ませる。

 そこに、どたどたと足音がしたかと思うとアデリナとその助手達が飛び込んできた。


 もうすぐ儀礼は始まってしまう。

 汚れたまま人前に出ては、エーベルハルト侯爵家の名に傷がつく。

 急病ということで欠席した方がいいか、迫る時間に選択の余地は少ない。

 どうにかして体裁だけでも整えないといけない。

 機転をきかさなければ。

「なんて事を!」

 自信作を台無しにされたのを目の当たりにしたアデリナは、床に崩れ落ちた。

「不注意でこんな事になってしまって、ごめんなさい」

 落胆する彼女に謝罪をする。

 私が謝るのは筋違いなのだが、もう少し用心していたら避けられたかもしれない事だったのだ。

 あのアニカが何かを仕掛けてくる可能性は十分に考えられたことだ。

 まさか大聖堂の扉の前で、他家の小間使いがこんなことをするなど思ってもみなかったけれど。

「いいえ、私も予備を準備しておくべきでした。魔術儀礼や社交界御披露目(デビュタント)ではたまにあるのですよ。他の令嬢にドレスを台無しにされることが」

「まあ!」

 意外な話にびっくりしてしまった。

 たしかに少女漫画でありそうな話ではないか。

 まさか自分がその立場になるとは、思ってもみなかったけれど。

「大体、高位の貴族が気に入らない下位の貴族にするものですけどね。そうなると、まあ泣き寝入りです。シャルロッテ様はこの国で最高位の令嬢と言ってもいいので、嫌がらせをする輩がいるとは露ほども思っていませんでした。ああ、前の部分は被害がないのが救いですね。背中をどうやって隠すか……」

 装束を手に取ると、またアデリナはまた声をあげた。

「白粉だけでここまで汚れるかしら? なんだか顔料なども混じってそうな汚れだわ」

 白粉だけでは心許なかったのか、ご丁寧にも他のものも混ぜたのであろうか?

 さすがにデザイナーだけあって、白粉がドレスにこぼれるのにも何度か遭遇しているそうだ。

 嫌がらせとかではなく、単に着付けの後の化粧で白粉がこぼれることもあるだろう。

 何事も経験は大事である。

 とりあえず、汚れを落としきれないのは判明した。

 さて、どうしようか?


誤字報告大変助かっております!

ありがとうございます。

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